第32話 レオの兄の不穏と土スキルの名家への温情

「父が捕らえられた!?」


 レオの兄はありえない報告に耳を疑った。


「父は水スキルの名家だぞ!?そんなバカなこと……」

「それが、王に謀反を起こしたのは、レオナードさまだと……」

「レオ!?あいつ、のたれ死んだと思っていたのに」


 スキルを持たない守護獣ビースト持ちの恥晒し。

 実の弟だとしても許されるはずがない。


「父に会いにいく。すぐに用意を」



 王宮に近い牢獄塔は、貴族を投獄するための場所だ。


「こんなところに父を送るなんて……」


 レオの兄は怒りを感じながら進む。

 牢の番人に案内された牢の中で、レオの父親は静かに座り込んでいた。


「父さん」


 レオの兄の言葉に、力なく顔を上げる。


「お前か……」

「どうしてこんなことに?レオは死んだはずでは?」

「奴の守護獣ビーストは神獣だった……」

「神獣!?まさか!騎馬族の本に書かれただけの存在では?」

「いや、あいつの守護獣ビーストは私たちのスキルを奪い、王を倒したのだ」

「そんな、俺がレオを止めます」

「頼んだぞ。……あんな育ち方をするなんて、どこで間違ったのか……」

「父さんは悪くない!俺がレオをしつけ直します」


 急いで王宮へ向かおうとしたレオの兄。

 少し離れた牢屋に入った、風スキルの名家が声をかけた。


「それなら、君にこれをあげるよ」


 風スキルの名家がレオの兄に渡したのは、キラキラとしたボールがたくさん入った袋だった。


「これは?」

「これは守護獣ビーストの力を強くする薬だ。

 一気に食べさせる必要があるけど、きっと役に立つよ」

「ありがとうございます!」


 レオの兄は風スキルの名家に感謝して、牢獄塔を出た。


「レオ、待ってろよ」


 そう言ってレオの兄は牢獄塔を去った。

 風スキルの名家が面白そうにつぶやく。


「人造魔物計画の途中でできた、守護獣ビースト用の試作品。どこまで効果があるかな」


 風スキルの名家は不敵に笑った。




 それからレオの兄は、屋敷へ戻り、今の弟について調べた。


「野蛮な騎馬族と一緒にいるなんて……」


 本当に愚かな弟だ。

 レオの兄の守護獣ビーストは白鳥だ。

 静かで美しい姿の白鳥をなでた。


「お前は素晴らしい守護獣ビーストだよ。お前ならレオも神獣も倒せる」


 白鳥はコクリとうなずいた。

 風スキルの名家からもらった薬を食べさせる。


「一気に食べるらしい。大変だろうが頑張ってくれ」


 レオの兄から見ると大量の薬だが、守護獣ビーストは苦しむ様子もなく飲み込んでいく。


「ご主人、全て飲み込みました」

「ありがとう。体の調子はどうだ?」

「なんだか熱いです」


 フラフラしている守護獣ビーストを見守っていると、守護獣ビーストの体がどんどん大きくなっていく。


「すごい薬だ!これならレオに勝てる!」


 部屋を壊されるからと中庭に出したが、守護獣ビーストが大きくなるのは止まらない。


「一体どこまで大きくなるんだ?」


 大変なことをしたと思いはじめたレオの兄だが、もう遅い。


 バキバキッ


 ついに屋敷の壁を壊し始めた。


「ご……主、人」

「どうした?」


 次の瞬間。


 ぱくり


「うわぁぁあ!」


 守護獣ビーストは、レオの兄を丸飲みした。

 白い羽がどんどん黒くなっていく。

 全てが真っ黒に染まったときには、水スキルの屋敷は完全に破壊されていた。


 バサッバサッ


 大きな羽ばたきで空へ飛び立つ、魔物となった守護獣ビースト

 覚えている指示はただ一つ。


“――俺の弟を倒せ。”





 ――その頃のレオは。


「土スキルの名家に、恩赦おんしゃを与えようと思う」


 俺はセリスとドーラに相談していた。


「反対!一度は我が王に歯向かった人です!

 何するか分かりません!」


 セリスはすぐに反対した。


「あの時は王さまもいたから。

 こっちの味方ってバレないようにしていたんだろうし」

「我が王は優しすぎます!裏切る人は何度でも裏切るんですよ!」


 セリスは俺の言い訳に噛み付いてくる。

 ドーラは考え込んでいたが、


「レオ陛下。土スキルの名家は、守護獣ビーストのスキルをイオさまに奪われているんですよね?

 それなら裏切っても、大したことは出来ないのでは?

 罪人用の腕輪をはめさせておけば更に良いかと……」

「結構、徹底的だな……」


 意外に厳しいドーラに驚いた。


「ただ出されただけでは、土スキルの名家は納得しませんよ。

 とてもガンコなおじいさんですから。

 私としては、仕事先を探してくれた方なので助けてほしいと思いますが……」

「フェイジュンにも聞こうと思う」

「また騎馬族!我が王は騎馬族と親しすぎます!」


 セリスがよく分からない理由で怒っている。


「レオ陛下は騎馬族と親しいのですか?」


 ドーラも不安そうに俺を見てきた。


「追放されてからお世話になったんだ。

 王国の人が思うような、悪い人たちじゃないよ」

「そうなんでしょうか?」


 ドーラは疑わしげだ。

 王国で騎馬族と交流があるのは、一部の薬屋や鍛冶屋くらいだからな。


「追い出された貴族たちを仲間として受け入れていたのが騎馬族だ。

 今言った、フェイジュンという子は土スキルの名家の孫だよ」

「孫が騎馬族!?あの人の娘は、死んだと聞かされていました」

「色々と誤解があるんだろう。少しずつ解いていきたい。ドーラ、協力してくれるか?」

「ええ、喜んで」


 そうして、騎馬族へと向かった後に、大きな鳥の魔物が街を襲ったと報告が入った。


 ◆◆◆

 読んでいただきありがとうございました。 


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