第31話 ドーラの才能と役立たず貴族のサロンに

 文字が空中で踊っているのは不思議な光景だった。

 しばらく眺めていると、文字は本へ戻っていった。


「これだけなんです」


 ドーラはこちらの様子をうかがっている。


「キレイなスキルだな」


 ありのままに感想を言うと、なんとドーラが泣きだした。


「うぅっ……このスキルを初めてみた人に、笑われなかったのは初めてなので……」

「そうなのか。苦労したんだな」


 俺はドギマギしながら慰めた。


「はい。陛下はお優しいですね」

「俺はスキル無しの守護獣ビースト持ちだったから……」

「あら!水スキルの名家のかたなんですか!?」


 顔は知られてなくても、うわさは広まっていたようだ。


「家は追い出されてしまったけど」

「四大名家は特に厳しいですから。

 もしお会いできたら、サロンにご招待しようと思っていました」


 ドーラがもったいなさそうに言った。


「サロン?」

「はい。大したスキルがない守護獣ビースト持ちがお話できる場所です。

 少しずつ広まっているんですよ」

「面白そうだな」

「陛下ならみんな歓迎かんげいしますよ」


 そういう集まりが、静かに広がっているなんて知らなかった。


「俺はスキルの強さだけで将来が決まるのをどうにかしたいんだ。

 ドーラ、良かったらサロンに招待してくれ」

「はい。喜んで」


「しかし、陛下。政策の資料を読み込まなければならないのでは?」


 魔術師の男が横から口を出す。


「そうだった……」


 優先順位はそっちが高い。

 少し気分が下がった。


「そういえば、朝も来られてましたね」

「前の王の仕事を引き継がなくてはならないから、大変なんだ」


 苦笑いしてドーラに告げる。


「でしたら、私もお手伝いしますよ。

 この図書館の読み物は、全て内容を覚えています」

「本当か!?」


 これだけある本を全て覚えているなんて……。


「それなら資料探しも楽になる。

 試しで悪いが、運河を拡張する工事に詳しい資料が欲しい。

 以前の議事録や資料が曖昧で、どうにもハッキリしないんだ」

「少しお待ちを」


 ドーラが本を取りに行く。


「こちらが詳しいです」


 ドーラが持ってきたのは、昔いた大臣の自伝だった。

 なんで自伝?と思ったがめくって納得した。


「すごいな。当時の工事の記録が書いてある。

 関わった貴族の名前も、金額や施工の材料まで全部だ」

「むかし、貴族の争いがあったようですね。

 消されないように込み入ったことは、読まれない自伝に残されたようです。

それに自伝はここにある、この一冊だけです」

「自伝の形で残したから、いままで消されずにすんだのか。

 ありがとうドーラ。助かったよ」

「どういたしまして」


 ドーラはにっこりと笑った。


 さっそくドーラを連れて執務室へ戻る。


「これとこれの資料探しを手伝って欲しいんだ」

「かしこまりました……。こちらもありますがいかがなさいますか?」

「頼む」


 ドーラの才能のおかげで、文官も驚くほど早く、政治に関する知識が増えた。

 そのおかげで政界の重鎮たちと、突っ込んだ話が出来るようになってきた。

 食事に呼ばれたりと、少しずつだが交流が増えてきた。


 そんなある日、突然セリスがあらわれた。


「お久しぶりのセリスでーす!」

「久しぶりだな。相変わらず元気だ」


 セリスはぴょんぴょん跳ねながら俺にあいさつする。


「我が王!ごきげんうるわしく。

 私はいままで、騎馬族用の転移魔法を作ってたの!

 ラカータの首領?が魔術が使えるから、メンテナンスは丸投げしたけど……

 もう、本当に大変だったんだから!

 でも、おかげで海や南の森の騎馬族たちとも交流しやすくなったわ……って、おでかけ?」


 今まさに俺たちは、転移魔法でドーラのサロンに出かけようとしていた。


「セリス、悪いがまた後で」


 たぶん無理だろうと思いながらそう伝えた。


「やだやだ。私がこの人の代わりに行く!」


 魔術師の男を指さして、駄々をこねるセリス。


おおせつかったのは私だ」


 こちらもこちらで曲げようとしない。


「……一緒に行くか?」


 魔術師たちの王になるのも大変だ。


 セリスに簡単に說明して、転移魔法で着いたのは、街の酒場だった。

 クローズの札を無視して、中へ入ると意外に多くの人がいた。


「こんなにいるのか」


 ドーラを探す。


「陛下!こちらです!」


 ドーラは酒場のカウンターにいた。


「意外な場所だな」

「ここのマスターが元貴族なんです」


 奥に座った男性が俺に会釈した。


「コホン、みなさま。ご歓談のところ失礼します。今日、ご紹介したい方がいます」


 ドーラが俺を紹介する。


「この方が今の国王、レオ陛下です!

 以前の王から王位を継がれました」


 貴族たちの目が俺に集まる。


「レオ?水スキルの名家の息子じゃないか!」

「スキル無しの守護獣ビースト持ちだろう?王になるなんて!」


 驚きの声の中で俺は言った。


「俺は守護獣ビーストのスキルのせいで

 、どこへ行っても笑いものにされ、国から追放された。

 でも、守護獣ビーストのおかげで戻ってこれた、しかも心強い仲間もたくさん出来た。

 いまは頼りない王だが、守護獣ビーストのスキルによって、立場が決まる世界を変えたい。

 そのために、あなたがたの力を借りたい」


 シーンと静まり返った酒場。

 ポツリポツリと拍手が起こりはじめ、ついに誰もが立ち上がって拍手をする。


「素晴らしい!あなたは私たちの光だ!」

「レオ陛下に協力します!」

「これでバカにされずにすむぞ!」


 貴族の情報網は強い。ここの人たちに協力してもらえるのはとても助かった。


「しかし、スキルが無い守護獣ビーストなのに、どうやって王さまになれたのですか?」


 貴族のおじさんが俺に質問した。


「それは……」


 俺の說明に、酒場中が混乱したのは笑い話としておこう。



 ◆◆◆

 次はレオの兄がでます。お兄さんがいたんです。

 読んでいただきありがとうございました。 


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