第4話 シフト:出雲さんとの場合
このコンビニは朝勤、昼勤、夕勤、準夜勤、夜勤の五交代制だ。
朝は新聞、昼は弁当類の納品が来て、夜は飲み物系の補充と掃除。準夜勤にフライヤー、揚げ物周りを片付けて、夜勤では雑誌や日用品の検品。
一年経ってみて、ようやく自分が担当する以外のシフトの仕事を理解した。確かに漠然と、この時間って何やってるんだろう、あのコーナーっていつも誰がいつ片付けてるんだろう、なんて思いながら仕事をしていた。
俺はずっと夕勤の担当で、ごく稀に土日や祝日に昼勤に入ることがあった。あとは、お盆や正月、ゴールデンウィークなんかは主婦さんたちが出られないところを埋めたりしていた。
店長やオーナーはかなり寛容で、毎週入りたいだけ入ってくれたらいいと、シフトは比較的自由だった。バックヤードに貼ってあるカレンダーに、自分の名前を書き込む。基本的に固定シフトになっている主婦さんたち以外は早い者勝ちだ。
それと、夜勤帯の人も固定だった。基本は一人勤務で、二人の人が交互に回しているみたいだった。
俺は月水金と、土日のどちらか。週三、四回出勤していた。夕勤は基本二人勤務なので、もう一人誰かと組むことになる。
「おはよー」
「おはようございます」
今日は出雲さんとのシフトだ。このコンビニのオープニングスタッフで、まだ二十四なのに次期店長候補らしい。かなり背が高くて、百九十センチあると言っていた。
細身でいつも眠そうなせいか、見た目頼り甲斐があるというよりは、風に煽られて動く木みたいな。いや、もう少し良く言うなら、華奢なバレー選手のような見た目だ。ただ、ほとんど毎日どこかのシフトに入ってるため、このコンビニをよく使うお客さんで知らない人はいないだろう。
前に西浦さんが「あの子、いつもいるから出雲君なのかね?」なんて言ってるのを聞いて、裏でオーナーが吹き出して大爆笑していた。俺は苦笑いするしかなかった。
「そういや最近、新しい子入ったよね。あの子って松葉君と同い年?」
「はい、そうです。中学が一緒で」
「へぇ、じゃあ元々知ってんだ」
「まあ、名前だけですけど」
「一回一緒に入ったけど、結構可愛いじゃん。狙ってないの?」
「いやぁ……」
出雲さんは元々淡々と喋るタイプなので、なかなか切り返しが難しかった。狙う、というのは幾分問題がある。いや、そもそも狙ってないんだけれど。
「多分、彼氏いますよ」
「まあそっか。ん、多分?」
「中学の時はいましたけどね」
「ふーん。じゃあ分かんないんだ」
「分かんないですね」
淡々としながらも、出雲さんはうんうん頷きながら、ユニフォームに着替えて店内へ。いらっしゃいませーの挨拶は、どちらかというと「しゃっせー」というコンビニ独特の発声に近い。それでもレジや仕事が圧倒的に早いので、コンビニ専用ロボットを見ているような気分だった。
シフト終わりが近くなると、雑談をすることがある。そこで出雲さんはよく自虐ネタを嬉々として話す。
「こないだ、風俗でぼったくられちゃってさぁ」
「そうなんですか」
「もう、しかもブサイクだったしさぁ、最悪だよ。二度と行かないね」
「あはは」
この手の愛想笑いは苦手だったが、人並みに出来るようになった気がする。あとはパチンコで負けたとか、ナンパして殴られたとか、そこそこに面白い話だとは思うが、心の底から笑えたことはなかった。
「んで。もし堀之内さんフリーだったら狙っちゃおうかな」
「え」
「ん? どしたん」
「あぁ、いや、まあ」
「松葉君、やっぱり気になっちゃう感じ?」
「いやいや、全然。まあ確かに、フリーだったらアリですよね」
「でしょ? ちょっとご飯に行くくらいからで、聞いてみよっかなー」
と、なんの悪びれもなく話していた。根っからの遊び人気質なのか、相手が女子高生だということを分かって話してるのか、分からなかった。俺はなんとなく、この人が苦手だ。
まあ、もし出雲さんが堀之内さんを誘ったとしても、うまくは行かないだろう。なぜかと聞かれれば、何となくでしかない。けれど、多分堀之内さんは面食いなんじゃないかって、勝手な先入観で思い込んでいたから。
そしてその二日後に、また堀之内さんとシフトを組むことになった。
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