第5話

「あんた…恋愛運が暴走してるわね。

今までに見た事ないくらい…」




占いの館に入る。

暗い。全部、黒いカーテンで覆われている。所々、ポツッポツッと小さな豆球があるだけ。だけど、ワクワクしながら入った。

だって、はじめての占いだから。

どんなことを言われるのだろう。僕の運はいい方だと思う。アイスでも当たりを引いた事あるし、バスや電車もちょうど間に合ったりもする。


どうぞって少し低めの占い師さんの声に呼ばれて、部屋に僕、こーだい、しょーきの順で入った。しょーきも、うわーこえーって言ってるし、ちょっと緊張してそうだった。


中も薄暗く、そこには若い女の人がいた。

なんか占い師っていうとおばさんがしてるように勝手に思ってたけど。若い人なのにすごいなーって思いながら用意されている椅子のほうに歩いていた。


そしたら、いきなりだよ!


占い師さんに目を見開いて驚かれるんだから。

おばけでも僕に憑いてるのかと思ったよ!


「あんた、もし好きな人ができたら不幸になるよ。詳しくはアタイにもわかんないね。だけど、間違いない。


絶対に好きになったらだめだよ。」


木川勝負。16才。高校2年生。初めての占いで好きな人ができたら不幸になると言われる。


いや、僕すでに不幸なんですけど!


「ギャハハー、まさぶ好きな人できたら不幸か〜!

オモロ過ぎるだろ!」


「ドンマイ。」


「あんた達ねぇ、そんな事言ってるけど自分達の恋愛運も相当やばいわよ。

2人とも三角関係、いや、もっとやばい関係になるわよ。」


「それはどういう事ですか?」


「アタイが分かるのはここまでね。

せいぜい、頑張りなさい。」


「いや、僕の不幸について詳しく教えてください!」


「そうねぇ、このブレスレットを買いなさい。そしたら、不幸じゃなくなるわ。

このブレスレットは幸せを運んでくれるわ。」


「な、何円ですか?」


思わず唾を飲み込んで次の言葉を待つ。

安かったら買いたいけど…


「2400円よ。買いなさい。不幸になるか2400円払うかのどっちかよ。」


ビミョー。高くはない。うん、良心価格。

でも、2400円は高校生には高い…

うーん、どうしよう。


「いりません。」


と、こーだい。


「なんで勝手に決めるのさー!」


「詐欺。」


「まあ、良いわ。また、困った時はいつでも来なさい。お金さえ払ってくれればいつでも見てあげるわよ。」


「すいません。ありがとうございます。」


そう言って、僕たちは部屋を出た。


好きな人ができたら不幸になるってどういう事だろう。

自分の気持ちに気付かなければ良いのだろうか。


「あのおばさんの言ってる意味全然分からなかったな〜」


「ただ、高いブレスレットを売りたいだけ。」


こうして、占いの館の外に出て後半組の女子たちと入れ替わる。


ワクワクしてる様子で女子たちも入る。

それから、ちょっとしてから出てくる。


「なんか、私と律と凛花の事をね、あんた達は三角関係を超えたやばい関係になるわよ!って言われたんだけど。」


「ねぇー、ヤバすぎない!」


「えー、マジでー俺とこーだいも言われんだけど。」


「インチキ占いかよー」


「占いは詐欺。」


「で、一花は好きな人ができたら不幸にするって言われて信じてんの!」


「それで、ブレスレット買ったもんね!」


「そう、買ったんだー!」


「えー、マジかよー!」


いつも明るくてよく話している一ノ瀬さん。

別にいつも通りだ。いつも通り。

だけど、占ってもらってからは、わざと明るく振る舞ってる気がする。テストの点がめっちゃ悪かったけど他の人には知られたくなくて普通だったって言ってる感じ。なんでか分からないけどそう感じる。


「元気なさそうだけど大丈夫?」


一応、声をかけた。


「うん!大丈夫だよ!」


 それだけ言って、有村さんと話し始める。だけど、一瞬顔が強張った気がする。

 その後もみんなでお店やアトラクションを回る。もうすぐ夕方になるかなって時にしょーきが不意に言った。


 「そろそろ腹減ってきてね?飯いこーぜ。」


 確かに僕たちはお昼はコンビニで買ったパンやおにぎりしか食べてないからお腹がすく頃だ。口々に食べたいもの言ってる中、一ノ瀬さんが急に割り込んで言った。


 「ごめんね!やっぱ、私体調悪いから先に帰るね。せっかく誘ってくれたのにほんっとごめん!」


 そう言って、顔の前で手を合わせて謝り、一ノ瀬さんは先に帰ろうとする。そして、僕も帰ることにする。


「今日、親に晩ご飯いらないって言ってないから僕も帰るよ。」


 いいじゃんとか、いこーよーって誘われる。だけど、僕は一ノ瀬さんを放っておけなかった。無理にいつも通りに振る舞う彼女を一人で帰したくないと強く思った。


 帰り道、電車は空いてる訳でもなく、混んでも無い中途半端でポツポツと空いてる席があるだけ。遊園地の最寄りから乗るのは二人だけで、立って今日一日の楽しかった事を話す。


 いつも通りだ。

 いつもの元気な一ノ瀬さん。


 僕や彼女の降りる駅はまだだ。だけど、彼女は言った。


「ここで降りようよ」



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