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「オジサンはエリートサラリーマンだったらしいよ」ヒーコはペスカトーレを口に運びながらそう言った。「コンピューター関連の。年収は五億とか言ってた」僕は驚かなかった。何となくそんな気がしていたから。「でも、いやになっちゃったんだって。いろいろあったみたいで。五億もあれば、そんなに贅沢しなきゃ一生暮らしていけるじゃない。あんただって宝くじで五億当たったら一生遊んで暮らせるって言ってたじゃない」そう言いながらヒーコはまた一口ペスカトーレを口に運んだ。口のまわりがトマト色になっている。僕の前にはペペロンチーノの皿が置かれている。イタリア語でトウガラシという意味らしい。ニンニクと唐辛子で味付けただけのパスタだけれど、それがすごくおいしい。ヒーコはすっかり食べ終わってしまった。口のまわりのトマト色を紙ナプキンで拭いている。ヒーコはいつもほとんどすっぴんだから紙ナプキンには口紅はつかない。でも、その日はいつになくきれいに見えた。
「調子悪いの。全然食べてないよね」
「そんなことないよ」僕はそう言いながらペペロンチーノを口に運んでいく。
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