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「そもそも男女の利害はかみあわないんだよ。こいつが世の中の歪みなのさ。結婚なんてものはひどく社会的な決め事で、人間の本能とはまるで関係ない」車に乗ってからもオジサンは話し続けた。
「でも、そうするとあぶれる男がでてくるよね」
「オレなんかその典型だ。だからたまにはこの辺に来なくちゃならない」
「僕だってどっちかっていえばあぶれるほうじゃないかな」
「ヒーコがいるじゃないか」
「でも、僕は強くない」
「オレたちは動物じゃない。女の価値観も違ってくるのさ。強いばかりがいいわけじゃない」
黒い服を着た人が僕たちを待ち構えていて、車が店の前に止まるとドアを開けて中に案内してくれる。これがウワサに聞いた高級店というところらしい。どう見ても僕たち二人には不釣り合いだった。店の金は全部オジサンが払ってくれた。二人で五万というから相当なカネだ。でも、思っていたより安いような気がしていた。待合室の入ると、オジサンが古ぼけた封筒を僕に渡してくれた。「終わったらこれを女の子に渡すんだ」僕は封筒の中をのぞき込んだ。一万円札がたくさん入っている。二人で五万のはずないかと納得したけれど、いったいオジサンはこんな大金をどこから持ってきたのだろう。待合室は異様な雰囲気だった。僕とオジサン以外はしかめっ面をして自分の順番を待っている。まわりの視線が気になったのか。さすがにオジサンも静かになってしまった。
店の人が何枚か写真を持って待合室に入って来た。「ここはオレにまかせろ」お金を出してもらっているせいもあって僕はただうなずいて写真もまともに見なかった。しばらく待たされてオジサンが先に待合室を出て行った。
せまく薄暗いフーゾク店にくらべるとやけに広くて明るい部屋だった。おねえさんは僕よりも年上らしくひどく優しくしてくれた。「なんか犯してるみたい」と言って笑っている。
「また来てね」と名刺をくれたけれど、またオジサンにでも連れてきてもらわないことにはとてもこんなところには来れそうになかった。僕にはまるで別世界の出来事のようだった。安いアパートに住んで、たまのホテル代もヒーコに出してもらっている僕なんかには、いくら背伸びしても届きそうもない。
「ずいぶんとショボい顔してるな」僕の顔を見るなりオジサンが言う。「こういうときには思いきり遊ばないと」そう言っているオジサンの顔が僕にはひどく淋しそうに思えた。
「人生って難しいね」
「そんなもんでもないさ」僕の問いにオジサンはこう答えた。
「オジサンはこれでいいの」僕の真剣そうな目を見て、オジサンは一瞬だけ眉をひそめた。
僕には確かめたいことがあった。でも、ずっと話を切り出せないままでいた。
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