ヒーコと僕は「きのこいっぱい釜めし」と「たけのこ釜めし」を半分づつ分けて食べた。「こういうときはやっぱり別々にたのんだ方がいいよね」と言いながらヒーコは僕の茶碗に釜めしをよそってくれた。おいしいものを食べたせいかヒーコの機嫌が少し良くなって顔がゆるんできている。釜めしを食べた後、すこしだけヒーコの買物に付き合った。いつものことだけど、いろいろと眺めたり手に取ったりしているだけで、何か買おうという様子はまるでない。ぼくはいつもどおりヒーコの後ろにくっついて歩いていた。三十分くらいその辺をふらふらするとヒーコは「用事があるから」と言って帰ってしまった。ヒーコと別れた後、僕はもう一度オジサンのいたベンチに戻ってみた。オジサンはもうそのベンチにはいなかった。ベンチには別のホームレスのオジサンが気持ちよさそうに寝ている。いったいあのオジサンは何だったんだろう。僕はさっきと同じように駅のほうを眺めながらタバコに火をつけた。ケータイがなった。

「今どこにいるの」

「さっきの公園」

「ヒマなんでしょう」

「ヒマだよ」

「ヒマだからってフーゾクなんかに行かないでね」

「行かないよ。お金ないし」

「さっきおごってやったじゃん」

「それじゃ、行っていいの」

「いいわけないでしょう。お金は大切に使いなよ」

 電話を切った後、急にフーゾクに行きたくなったけれど今日は本当に持ち合わせがなかった。しかたなく自分のアパートに帰る。「こんなところに住んでないで、もっといいところに住めばいいのに」ヒーコは一度だけ僕のアパートに来たことがあった。たしかに、ヒーコの言う通りあまりいいアパートではなかった。日当たりが悪いせいか陰気で湿った感じがしていた。ちゃんと探せばもう少しいいアパートが見つかるかもしれないけれど、なんかめんどくさくて探す気になれなかった。「あたしが見つけてあげるよ」と言ってヒーコはいくつかアパートを探してきたけれど、どのアパートも家賃が高すぎてどうにもならなかった。「こんなところにも入れないの」ヒーコは何度もため息をついた。少しあきれた顔をしていた。それにしても、ヒーコはどうして僕なんかとつきあっているんだろう。僕はときどきそう思うかとがあった。

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