公園の近くの釜めし屋に入った。ヒーコはこの前友だちとこの店にきたときに「きのこいっぱい釜めし」が食べられなかったことが相当くやしかったらしい。ここにくる途中もその話ばかりしていた。その「きのこいっぱい釜めし」は季節限定メニューらしく壁に張り出してあるだけでメニューには載っていないらしい。

「注文したあと気がついたの。ちゃんと紙に書いてメニューにはさんでおけばいいのに」ヒーコはメニューを眺めながらまだぼやいている。混んでいるせいか、入口の隣の席しか空いていなくて、すわっていても何か落着かない。店はいっぱいなのにつぎつぎとおじさんやおばさんたちが入口に顔を出した。入口のところに立ち止まって、しばらく中の様子をうかがっているけれど、結局あきらめて出て行ってしまう。するとまた別の人たちが入ってくる。ヒーコは人が入ってくるたびにうんざりとした顔をしていた。

 ヒーコは「きのこいっぱい釜めし」を僕は「たけのこ釜めし」をたのんだ。「たけのこ釜めし」も季節限定のようで、メニューにはなく「きのこいっぱい釜めし」の隣に張り出してあった。僕は何でもよかったんだけれど、ヒーコが張り出してある紙を指さして「あんたこれにしなよ」っていうもんだから今日はヒーコの言うとおりにしておいた方がいいと思った。注文したのはいいけれど、混んでいるせいか、なかなか釜めしが出てこない。ヒーコが苛立っているのがよくわかった。「店を出よう」とでも言い出しかねない様子だったけれど、そう言いだされたときはどうしようかと僕はずっと考えていた。「遅いね」とヒーコがつぶやいた。そのあとにヒーコが何か言いだしかけたのだけれど、そのときやっと釜めしが運ばれてきた。

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