第15話 サラマンダー攻略

大陸の中央から見て北北東の方角、


北部森林帯に近い位置にある、ナレナトス鉱山


そう、ここがこの大陸で唯一の魔晶石が採掘される重要地点。


「その重要地点が蜥蜴サラマンダーが居て入れないと」


今はダルネア師団が、鉱山近くの開けた場所に陣を構えている。


大隊単位で鉱山に移動して坑道には中隊単位で突入をする算段だ。


前衛部隊と騎馬兵部隊が坑道に向かい、 


騎馬兵が現在の状況を確認、


連絡してくれる手はずになっている。




どうやら、騎馬兵が戻ってきたようだ


「ジミー、騎馬兵が帰ってきたぞ来い」


とカイブラ大隊長に声を掛けられる。


いや、違うでしょう


「私は分隊所属の新人ですが?」


ぐいっ、俺の背嚢が持ち上がった。


それと一緒に俺の体も持ち上がる。


「コードすまんな、そのまま持ってきてくれ」


「はい、一緒に行きましょう」


 コード副師長、俺の意見は?




 一番大きな天幕に入ると、責任者が勢ぞろいしている。


「おお、ジミー逃げずに来たか」


 と、ここで一番偉い人が声を掛ける。


「師団長、俺は分隊所属の新人です。


 この場にいる資格はありません」


「師団長もジミーも無駄な時間を使わないでください。


 さっさと会議を始めますよ」


副師長冷たいです。


恐ろしい事に師団長の隣に椅子が準備され、


コード副師長が俺をそこに降ろした。


「副師長、せめて末席に」


「却下です、皆の見える所に置かないと、何をするか分かりませんから」


副師長・・・すごく冷たいです。


俺は小さな声で隣の師団長に聞いてみた


「師団長、副師長がすごく冷たいんですが、何かありました?」


「何だジミー、知らなかったのか?


 今回の第5魔法の習得に関わる問題、ラクト乳の買い占めや甘砂の枯渇で


 街の住人や酪農業者、菓子店、料理店からの苦情の対処や補償が全部、


 コードの所に行っているからな


 あいつの仕事、お前のせいで、5倍位になってるんじゃないか?」


 コード副師長、誠に申し訳ございません。 今度何か持って伺います。


 師団長の号令で会議が始まる。


 「皆揃ったようだね、では偵察した内容を教えてもらおうか?」


 「はい、報告します。


  先の調査の通り坑道の奥にある溶岩溜まりで、サラマンダーを確認しました。


  ただ、報告にあったのは1体だけでしたが、今回もう1体が確認されました」


 「2体か? それで、作戦を遂行する上で問題になりそうな点はなんだ?」


 「現地は暗いですが、サラマンダーの体表が炎を上げている為に


  視認は容易です」


  斥候の報告を聞いていた俺は思わず口を出した。


 「問題は1つの中隊が魔法をサラマンダーに当てた後、


  もう1体のサラマンダーがどういう行動をするかですね。


  その場で止まっててくれれば、恐らく死んでくれるんですが。


  もう1つ、発生した気体の影響でサラマンダーの


  体表の炎が消えたりすると視認出来なくなりませんか?


  見えない相手に襲い掛かられる可能性は?


  中隊が詠唱した後に、次の中隊との交代前に襲われないか?


  とりあえず、これくらいが気になりますね。


  サラマンダーって暗闇で目が見えたり、


  嗅覚が鋭かったりといった記録はあるんですか?」 


  皆が唖然としながらこっちを見ている。


  コード副師長が

  「記録には体長5ワンド(5m)赤い色で体表は炎を上げている蜥蜴、


  人を捕食する。


  坑道の入り口に入った音で登ってきたという記述がある、


  坑道内は硫黄の臭いもキツイから鼻よりも耳の可能性が高いな。


  視覚についてはあまり良く無いようだ」


  「音ですか? 坑道の途中でもう1中隊、待ち伏せした方が


   良いかもしれませんね。


   1中隊が詠唱して撤退、もう1中隊が待ち伏せ、


   最後の中隊が他の2隊を守る為に入口で待機。


   万が一、サラマンダーが入口まで来てくれたらラッキーですね。


   その時は坑道に逃げ戻られないように


   板か何かで塞いで全軍でつぶしましょう」


   コーモレト大隊長の


   「サラマンダーがかわいそうになってきた」という呟きが聞こえた。


   「サラマンダーも危険ですが、皆さんの魔法も危険です。


    皆さんの持っているランプの火が消えたら


    迷わず坑道を外へ向かって下さい、いいですね」


    とりあえず、自分の言いたい事は言った。 


  「ところで師団長、坑道にはどの大隊が当たるんですか?


 『ドライアイス』の扱いならエリザ大隊だと思いますが」


 「ああ、エリザ大隊に当たってもらう、


  ただしザイド中隊は坑道入口で待機だ。


  ジミーの重要性を考えると、坑道の奥には連れて行けない」


  「仕方ありませんが、了解です」


  「では、明日の朝からエリザ大隊が坑道入口に移動する。


   ただし、コーモレト大隊は行軍装備で待機だ。


   今回カイブラ大隊長はこの陣の拠点防御担当を頼む」


   「「「「了解」」」」




    そして翌日。


    抜けるような青空の下、エリザ大隊は出発した。


    エリザ大隊のキレス中隊、モレイラ中隊、


    そして俺の居るザイド中隊。


    今回は、キレス中隊が先陣を切る予定だ。


    坑道入口に到着した我々、


    入口には前衛部隊と騎馬部隊が既に到着していた。


   「ごくろう、状況に変化は無いか」エリザ隊長が声を掛ける


   「はい、中に動きはありません」


   「よし、ではキレス中隊は装備最終確認」


    「確認しました」


   「では、キレス中隊先陣を頼む」


   「了解」


    キレス中隊が坑道内に入っていった。


    それから30分ほどたってから


   「ではモレイラ中隊の諸君、手はず通りそろそろ出発だ」


   「了解」


    待つ時間は長い、先行部隊は大丈夫だろうか?


    中に一緒に行った斥候兵が戻ってきた


   「報告します、


    キレス中隊が詠唱を終えて帰還中、それを別の蜥蜴サラマンダーが襲撃、


    モレイラ中隊が迎撃するも、倒しきれなかった模様。


    二つの中隊を追って、手負いの蜥蜴サラマンダーがこちらに移動中です」


    「ザイド中隊、魔石を青に交換」


    「了解」


   「騎馬兵はコーモレト大隊に伝令、蜥蜴サラマンダーが1匹出てくる。


    念の為、行軍開始を頼む」


   「了解」


   「各分隊は凍氷とうひょう魔法詠唱準備」


   「前衛は予定通りふたを準備、出てきたら奴の退路を断て」


    命令の声が飛び交う、坑道からキレス中隊が出てきた。


    先頭のキレス中隊長から


    「もう1匹は、かなりデカイ注意しろ」


    と俺達に声を掛けて通過していく。


   「まもなくモレイラ中隊、きます」


   「ザイド中隊、凍氷とうひょう詠唱開始せよ」


   坑道入口からモレイラ中隊が皆、焦った顔で出てくる、


   その後ろにあれがサラマンダーか・・・でかい


   何が5m《2tトラック》だ


   あれは、8m《中型バス》はあるぞ


   どうやら右の後ろ足付け根付近が


   ドライアイスで固まって脚が動かせないようだ。


   それを見てエリザ隊隊長が


   「ザイド狙いは・・・」「左前ですか?」「そうだ」


   ザイド中隊長が詠唱キーを発する。


   『


    狙いは左前脚か、さすがだ。


    中隊魔法でトドメは無理と判断して、足止めに切り替えたか。


    脚を2本つぶされて動きが鈍くなったサラマンダーを見て


   「さあ、トドメはコーモレト大隊にくれてやろう。


    とっとと逃げるぞ」  

 

    エリザ大隊長の命令で俺たちは撤退を始めた、


    コーモレト大隊が来る方向を目指して


    ちょび髭、やるじゃないか。



    しばらく撤退していると、向こうにコーモレト大隊が見えた。


    既に行軍は停止して詠唱準備をしているようだ。


    大隊の隊列には「ここを通ってください」


    とばかりにスペースが開けてある。


     ありがたく、そこを通らせてもらおう。

 

    俺達が通っている最中、


   コーモレト大隊長の起動キーが聞こえた。


   『


    振り返ると、白い塊がサラマンダーの頭を潰していた。


   「あれで、大体660kgだよな?


    おかしい、氷結魔法のつもりで作ったのに


    運用は質量兵器になってる」


    こうして、今回のサラマンダー騒動は幕をおろした。

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