第12話 評価
あの呼び出しがあってから、ずっと考えていた。
ドライアイスの有効活用法を
1 この魔法は他者に見せられない。
2 俺、単独で出来るモノ
3 出来れば、うまいものが良い
そういえば前回買った甘砂があったな。
適当なフルーツでアイスキャンデーでも作るか、
いや、そういえば・・・試してみるか
牛乳でいいのか? 確かラクトとか言ってたなラクト
雑貨屋で口の広い金属製の水筒を買う。
この世界のだから断熱構造にはなってない・・・でもそれが良い。
ラクト乳の瓶1本を布で包んで・・・・
気を付けてぶん回す。
しばらく、ぶん回して。
中身を見ると、見事に分離している。
分離した上澄みをごっくんする・・・不味くは無いな?
もう1本のラクト乳と分離した残りと甘砂を水筒に入れてシェイクする。
シャカ シャカ シャカ シャカ ・・・・
力一杯シェイクした水筒を離れたところに置いて
左手に杖を構え、右手にペンダントを握り
『フリーズ フリーズ フリーズ フリーズ フリーズ ・・・・・・』
ぼしゅっ・・・・・・・・・どん
よし、水筒が『ドライアイス』に包まれた。
次に、これを分離に使った布につつんで。
何となくボール状にして地面に置く
キック キック キック ・・・・
ドリブル ドリブル ドリブル ・・・・・
軽く蹴って転がしていく。
10分ほど転がして・・・っと
土を払い落として布を開ける。
よし 水筒は無事か?
外側の『ドライアイス』を叩いて払い落として、
ワクワクしながら水筒の蓋を開けてみる。
よしっ!! 水筒の内側に『アイスクリーム』が出来ていた。
用意した匙で掬って口に・・・・うまい、甘い、最高
夢にまで見た、この味・・・・・
今度はバニラビーンズに似た物を探索しよう
「ようリド、ジミーはどこだ?」
「分隊長、ジミーは腹が痛いらしいです」
「あいつ、何か試して失敗したかな?」
「成功してから食べさせてもらいましょう」
「ああ、もちろんだ」
そうしたある日、俺はビナータさんに声を掛けられた。
「ジミー、ちょっと良いかい?」
「どうしました、ビナータさん」
「いやね、エルザ大隊長が、妙に深刻な顔をして調子が悪そうでね。
今の季節で何か気晴らしになる様な物、
あんたの故郷になかったかなと思ってね」
『アイスクリーム』は封印中、
『アイスキャンデー』も説明できないか
卵(確か食べた)、牛乳(ラクト乳)、砂糖(甘砂)といえばプリンか
冷蔵庫が無いから、蒸したら大丈夫かな?
蒸し料理なんてこの世界にあったっけ?
大き目の蓋つき寸胴鍋に合う敷網と
後は井戸水で冷やせばいいか。
流石に分隊長に内緒は無理だろう、声かけよ
「すみません、菓子を作りたいので、ご協力お願いします」
おお、食いつきいいぞ、やっぱり樹糖のせいか。
アリアもエルもリドもか、今度は分隊勢ぞろいだな。
「ジミー君、今度は何を作るんですか?」
「プリンという蒸し菓子を作ります」
「ビナータさん、この金属の椀使っていいですか?」
「いいよ、楽しみだ」
材料を混ぜて漉す、それを金属椀に入れてから・・・
問題は蒸す為の寸胴鍋と敷き網か、敷き網もある程度の高さが欲しいな
どうしよう、あれ?これなら良いかな
「ビナータさん、この空瓶4本使いますね」
「それかい、ちゃんと洗ってあるから良いよ」
「樹糖の細長い角瓶を横にして4本置く、その上に網を置けば よし安定してる」
「鍋の底に水を入れて、網の上に金属椀を並べて 火にかける」
「リド、悪いけど井戸で冷たい水を桶1杯汲んできてくれ」
「了解だ」
「よし、蒸しあがったら、金属椀ごと冷やす」
「すみません分隊長、冷やしている水が温くなったら
リドと水の交換をお願いします。」
「おう、分かった」
「アリアとエルは冷やしているうちに上にかけるカラメルを作るから手伝って」
「カラメル?」
「上にかける甘いソース、甘砂に少し水を加えてフライパンで
焦がさないように加熱するんだ、茶色くなってきたら完成だよ」
「ジミー君、詳しいね」
冷やし終わったプリンに、今回は金属椀に入ったままで
上からカラメルを掛ける。
「え~皆さん、試作品が出来ました。食べてみてください」
「おー」
「変わった菓子だな」
「柔らかいんだね」
「見たこと無いよね」
「調理法も変わってるじゃないか」
皆が口に入れる
「うまい」
「なんだこれは」
「おいしい」
「甘さが染みる」
「上のソースも合うね」
よし、俺も口に入れてみる 舌触りはOK
卵の味と牛乳の味が濃いな
甘味はもう少し強くても良いかもしれない
カラメルはもう少し加熱した方がいいな
「ジミー、すごいじゃないか これならエルザも驚くだろうよ」
「はい、甘砂をもう少し増やしてカラメルは少し火を加えます」
「驚いた、あんた、これに納得してなかったのかい」
皆に協力してもらい、もう一度作る
「ビナータさん、大隊長に持っていくなら
こっちの器使っていいですか?」
目を付けていた足つきの菓子皿を指さす、
これなら浅型のパフェ皿に見える。
「いいけど、この金属椀はどうするんだい」
「ビナータさんには大隊長の前でこうして欲しいんです」
そう言って、菓子皿の上にプリンの金属椀を伏せて少し揺する、
金属椀を上げると黄色味の強いプリンが現れた。
「きれいだね」
そして、プリンの上にカラメルを掛ける。
最後の仕上げにカラメルの上にアレを乗せた。
「すごいね、こいつは 見た目まで美しいなんて」
「味は同じなんですけどね、見た目がきれいな方が元気がでますから」
「さっそく、いってくるよ」
「はい、お願いします」
エリザ執務室
【エリザ】
もしかしたら集団詠唱という技術は絶えるかもしれない。
坑道を水没させて100年かけて復旧させるか?
坑道を封印して新しい魔晶石の鉱脈発見に賭けるか?
どちらを選んでも未来は無い。
来年には魔石は定数を割り、
数年で希少品になって
10年でなくなるだろう。
それから90年の技術継承か・・・無理だな
個々人の魔法や戦闘力では魔物に対抗できない。
人々の生活圏は縮小するだろう。
あの鉱脈は魔物の生存圏になる、
そうなれば、たとえ100年後であっても
人が魔晶石を手にすることも出来なくなる。
人は緩慢な絶滅の道を辿るか・・・・・・・
コンコン「エリザいるかい?」
「ビナータか入ってくれ」
ワゴンに何か乗っているな、
丁寧に布を掛けてかくしてある。
「どうした?」
「あんたに薬を持ってきたよ」
「薬? のどの調子は悪くないが」
「あんたの気分が良くなるように、
あの坊やに何かないか聞いてみたんだが
また、とんでもない物を作ってくれたよ」
「あの坊やって、ジミーか?」
奥の会議室に呼び出した時は、目を白黒させていたな。
悪いが笑ってしまった。
しかし、あの子が作るとんでも無い物とは?
「まあ見てな」
ワゴンの上の布を取ると、足つきの菓子皿と匙、金属の器
それに小瓶が2つ。
ビナータが菓子皿の上に持ってきた金属の器を伏せる、
器を上げると中から黄色い塊が現れた。
持ってきた金属の器と同じ形の黄色い光沢のある弾力のありそうな塊、
その上に小瓶の1つから黒いソースを掛ける。
そしてもう1つの小瓶から、小さな赤い実を取り出して、
かけられたソースの上に置いた。
菓子器の横には匙が添えられた。
「さあ、食べてみな」
「なんだ、これは?」
「なんでもプリンというらしい、
調理法はともかく材料はすぐに手に入るものだよ
味は・・まあ食べてみな」
匙で触れてみると柔らかく弾力がある、
少し力を入れるだけで簡単に掬うことができた。
意を決して口に入れてみる、
滑らかな触感と豊かな甘さこれはラクト乳と卵か
恐ろしく高度に組み合わされた味が口に広がる。
「うまい物を食べて、気を失いそうになるのは、初めての経験だな」
2口目を食べてみる、
上に掛かったソースの甘さと苦みがこの味を強調する。
「これも、素晴らしいとしか言いようがない。
聞くのが怖いが、
これも前回の薬の様に高額な材料を使っているのか?」
「聞いて驚け、材料はラクト乳と卵と甘砂だけだ」
思わず匙が止まる、なんだと。
「疑うわけではないが、本当なのか?」
「ああ、一緒に作ったからな材料も手順も全て見た、
おそらくだけど、あたしでもある程度同じものは作れるだろうね」
「なあ、あの子はなんでこんな物を作ったんだ?」
「あんたの元気が無いから元気が出そうな物は何かないか聞いたら
コレを作りやがった」
「コレをか?」
「ああ、1回試作してな、それでもとんでもなくうまい物が出来たんだが
今回、味を調整して美しさまで加えやがった」
「美しさだと?」
「試作はその金属の器だったんだ、それを
『見た目がきれいな方が元気が出ますから』だとさ
その上に乗ったのを食べてみな」
意を決して上に乗っている木の実を匙ですくって口に入れる。
口に入れたところから、甘さと一緒に力が入って来る気がする。
どこか郷愁をさそう、それでいて未体験の甘さと香りが口に広がる。
「ネネの実の樹糖漬けさ」
「してやられたな」
「ああ、そうだな」
「ビナータ」
「なんだい? 」
「あれはなんだ? 」
「なんだろうね」
「人の形をしてるのに、人に見えなくなってきたよ」
「子供の形してるのに 子供じゃないのは確かだね」
「まるで総帥に諭されているみたいな気分だよ」
「でも総帥と全く違う所もあるよ」
「そうなのか?どの辺だ?」
「あれは、底抜けのお人好しだ」
「・・・そうか、それは魔法士に向いてないな」
「ああ、間違いなく料理人向きだ」
「すまんビナータ、私はあの子を巻き込むよ」
「そうかい、まあ、あの子はあんたの部下だ、せいぜいこき使ってやりな」
「そういえばそうか、あの子は私の部下だったんだ」
「いらなくなったら言いな、うちで引き取るよ」
「そうか、ビナータ すまないがジミーを呼んできてくれるか、礼を言いたい」
「あいよ、連れてくるよ」
ビナータが戻ってきた。
「ジミー」
「どうでした」
「エリザ大隊長が礼を言いたいそうだ、これから執務室においで」
「はい、皆でお邪魔していいですか?」
「いや、何か話があるらしいから1人で行ってきな」
「そうだ、ジミー 是非とも1人で行ってくれ」
「分隊長、なんか情けないですよ」
「ははは・・では行ってきます」
エリザ大隊長の執務室に着いた俺はドアを叩く
コンコン「ジミーです、只今出頭しました。」
「ああ、入って良し」
中に入ると、エリザ大隊長が執務机に就いている。
「ジミー、まあそちらのソファーに掛けてくれ」
「はい、失礼します」勧められたソファーに座る。
大隊長は元気そうだが、目元に疲れが見える
向い側のソファーに腰をかけた大隊長は、うれしそうな顔で
「君が作ってくれた”プリン”だったか、非常に美味だった。
正直旨さに言葉を失うという経験は初めてだ」
「お口に合ってよかったです。お加減はいかがですか?
ビナータさんからは深刻表情をしているとお聞きしていたので。」
「ビナータの奴、余計な事を」
「いえ、俺が聞いて良いお話か分かりませんし、詮索して申し訳ありません」
「いや、ジミーには許可が出ている情報だ、例のサラマンダーの件だ」
「もしかして、何か状況が変わったのですか? 」
「いや、状況は全く変わってない、しかし・・・・・」
「えっと、ホントに聞いても良い話ですか? 」
エリザ大隊長はこちらを見て、何かを決心したように一つうなずいて話出した。
「わかった、聞いてくれ。まず君が提案してくれた水没案を行った場合、
再び魔晶石を採掘するのに要する時間は100年以上と試算された」
「100年ですか?」
そうか、ポンプが無いんだ。
しかし、流石に100年は予想外だぞ。
「ああ、しかも保管してある魔石と魔晶石の備蓄量を確認した所、
来年早々には魔石が不足する事が判明した」
「え? 不足するのは何年後かでは?」
「問題になるのを恐れて、情報が止まっていたようだ」
おのれ官僚~
「我々の前には2つの選択肢がある、
1つは坑道を水没させて
100年後の採掘もしくは偶然新しい鉱脈が発見されるのに賭けるか
もう1つは坑道を封鎖して、偶然新しい鉱脈発見に賭ける
どちらを選んだとしても神懸かり的な幸運でもない限り、
後10年で今ある魔石は全て失われるだろうな。
これは、かなり確度の高い予測だが、
魔物に対抗できない人間はその生活圏を狭める事になる。
あの鉱山は早々に生活圏から外れる。
水没を選んでも、閉鎖を選んでも、
今後、人間があの鉱山を採掘出来る事は無いだろう。」
俺は思わず右手で顔を覆った、ちょっとまて
これ運命の天秤が傾いている? 滅亡の序曲?
少なくとも13歳の男の子に話して良い話じゃないだろう。
指の間からチラリと大隊長を見る、真剣な顔だ。
しかも何かを期待されている?
俺に何ができる13歳の少年にそこまで求めるな。
大人がなんとかしろよ・・・・・・そうか、
俺は記憶は曖昧だけど元大人だったな。
おい、俺、大人だろう、なんで蜥蜴1匹で滅亡の危機なんだよ。
普通逆だろ、氷河期で蜥蜴が滅んで
その後、人間が台頭したんだろ・・・・・・・・あれ? これ行ける?
顔を覆っていた右手を引きはがして大隊長の方を見る、
そして自分の呼吸を意識的なものに変える。
口で一定時間吸う、息を止める、鼻から息を吐く それを何度か繰り返す。
前世で覚えた呼吸法だな。
そして意志を込めて口を開いた。
「エルザ大隊長、俺を師団長の所に連れて行ってもらえますか」
エルザ大隊長が目を見開いた。
※作中のアイスクリームとプリンの作り方はフィクションです。
決してマネをしない様にお願いします。
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