第8話 遠征訓練
すっかり体調を取り戻したエルを加えて、
俺達ギーク分隊は、今回、中隊規模の遠征訓練に参加している。
先ほど、ちょび髭の中隊長がドヤ顔で
今は
俺達が青い顔で座り込んでいるのと、えらい違いだ。
いつもの訓練との違いは・・・ヒマである。
1時間毎に、効率よく訓練で詠唱するのでは無く、
魔物の襲来に備えて魔法使用を控える。
根っからの日本人気質の俺には合わないな? 何か
教えてもらえるなら、解体でも荷物運びでもやるぞと。
分隊長に聞いてみた。
そしたら「他の部署の仕事を邪魔するな」と怒られた。
まあ、素人がうろちょろしてたら危ないか、反省しよう。
しかし暇だ、さっき詠唱したところだし・・・・そうか!
「分隊長、ちょっと離れたところで詠唱訓練してきて良いですか? 」
「なんでだ、ここですればいいじゃないか? 」
「ちょっと恥ずかしいので」
「まあ、いいか。リド、再詠唱まで時間は? 」
リドが杖の柄を見ながら・・・
「あと5(50分)です。」
「よし、ジミー聞いたな? 間違えて魔法使うなよ」
「はい、気を付けます。」
さて、皆から少し離れてと。
分隊魔法じゃないから杖を構える必要もないな。
よしっ
『フリーズ フリーズ フリーズ フリーズ フリーズ・・・・』
フリーズの詠唱は、だいぶ慣れた。
でもなんだろう? なにかこれじゃない感がする。
呪文か? いやポーズか?
どこを変える?
杖を持つ左手で、なにかするのは無理として・・・
後は手袋はめた右手か? 脚か?
脚だと詠唱中に移動できなくなるから・・・やっぱ右手で?
何しよう?
拳を握るのは、当たり前すぎてスイッチにならない。
OKサインか・・・いや、恥ずかしい。
いっそ特定のモノを握ってみるか?
その辺に、何か落ちてないか?
地面を物色していると「ジミー君」とエルから声を掛けられた。
「ジミー君、何してるの? 」
「エル、ちょっと詠唱の練習をね」
「地面見てたね」
「ちょっと気分転換をね」
恥ずかしいから、笑ってごまかせ。
「そうだ、ジミー君、コレもらってくれる? 」
チェーンに菱形のペンダントトップ?
「ありがとう、これなに?」
「この間から、お世話になっているから、そのお礼、地元のお守りなんだ。
この形は仲間の硬い結束を意味してるんだって」
「ありがとう、大事にさせてもらうよ」
すごく、良い物をもらった。
これを握って詠唱すればいけるかもしれない。
野営の為の天幕を張る。
こういうのは新人の仕事だ。
ガラ、ポルト落ち着け・・・そっちに引っ張るな。
訓練所と違い野営では夜間でも魔法使用を制限される。
仕方ないとはいえ、迂闊に詠唱出来ない。
・・・やっぱり暇だ。
あれ?野営地の一角が急に騒がしくなったぞ。
ガラが天幕を置いて、見に行こうとしている。
「ガラ、落ち着け 騎馬兵だ何かの伝令だろ、おまえは天幕張るのに集中しろ」
「わかったよポルト」
「騎馬兵か、何か見つかったのかな?」
ザイド中隊長天幕
【ザイド中隊長】
前衛責任者のガット装甲兵長からの遠征訓練報告を聞いている時、
天幕の外から「伝令」と声が聞こえた。
「入れ」ザイド中隊長の許可で、天幕の中に1人の騎兵が入ってくる。
「報告します。ここから西に5カリムの森林端部で
複数のジャイアントスパイダーを発見しました」
「複数? 確認できた数は?」
「はっ、目視で成体を5体確認しました」
「明朝、目的地に先導を頼む、退出を許可する」
「はっ、失礼します。」
騎兵が退出すると・・・・
「聞いたな、これで明日の目的が決まったな」
「はい、中隊長。それで、明日の作戦内容はどうします?」
カイトスの言葉に、ちょび髭の中隊長は
「そうだな、ヨル 森林端部で5体のジャイアントスパイダー確認だ
お前ならどうする? 」
「ザイド中隊長、趣味が悪いですよ」とネーラが上官をたしなめる。
ヨル小隊長は緊張した面持ちで
「ジャイアントスパイダーですので、詠唱規模は小隊です、
場所が森林端部ですので火は避けて風でしょうか?
詠唱順は カイトス小隊、ネーラ小隊、ヨル小隊でしょうか? 」
中隊長はニヤリと笑いながら・・・
「大体良いぞ、だが詠唱順はヨル、カイトス、ネーラでいく。
釣りだすからな、
3人共、自分のタイミングで撃っていいぞ。
ガット、ヨルの所は新人が多いからな、さっさと実戦で撃たせてみよう。
万一何か失敗してもカイトス、ネーラでカバーする。
あとガット、たまに新人で大ポカをやらかす奴がいる、
先に許可出しとくから、ぶん殴っていいぞ」
「わかった、手加減はしよう」
「よし、今回、ジャイアントスパイダーは9体までを殲滅目標とする。
成体が10体以上確認されたら撤退戦も考えるからそのつもりでな
各部隊に連絡、明朝出発するぞ」
「「「「了解」」」」」
ヨル小隊長が来て、明日の作戦行動について説明があった。
「明朝出立する。相手はジャイアントスパイダー
確認された個体は5
前衛が釣りだした個体を小隊魔法【風】で殲滅する
小隊の詠唱順はヨル、カイトス、ネーラだ
今回は小隊魔法の初実践だ、しくじるな」
「小隊長、ジャイアントスパイダーって見たこと無いんですが、
どん奴なんですか?」
「ガラは見たことないのか、大体3ワンド(3m)位の蜘蛛だ、
通常、火か風の小隊魔法で討伐する」
「はい」
ガラがイメージ出来ないのか気の抜けた返事を返す。
「説明は以上だ、質問が無ければこれで解散する。」
「「「「了解」」」」
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