第5話 1/4の不調

「ギーグ分隊・・・・5割5分だ」


ヨル小隊長の冷たい声が響く。


 「「「「「はい」」」」


まあ原因は分かっている。


花子さんエルの不調だ


 詠唱の最中に咳込んで詠唱が止まってしまう


 菩薩アリアが心配そうな目でみている。


 残念リドは諦めの表情だ。


 たぶん喉の炎症だな、栄養と水分取って寝てたら治ると思うけど


 外で詠唱は逆効果だよな。


「分隊長、エルの兵舎での休養を具申ぐしんします、


 治さないと来週の遠征訓練に差し支えます」


 「そうだな、小隊長、いいですか」


 「許可する」


 「アリア、エルを兵舎まで連れて行ってやってくれ」


 「はい、行こうエル」


 うなだれたエルを連れていく


 さて、どうしよう。遠征訓練の成績は大事だよな。


 ここは共犯者に頼むか。



 

 女性兵舎 エル達の部屋

 

【エル】

やってしまった、


以前にも喉を傷めて声が出なくなった事があった。


自分では、気を付けていたつもりだったのに。


また、私のせいで部隊に迷惑をかけてしまった。


声が治っても、皆が許してくれないかもしれない


もしかすると治らないかもしれない


いやな気持ちが頭の中をぐるぐるまわっている。


コンコン「入るよ」


「はい」かすれた声で返事をする


 入ってきたのは、確か食堂のビナータさん


 「だいぶ悪いみたいだね」


 「はい」泣きそうになる。


 「ほら、これ飲みな、ゆっくりね」


 とカップに入った、暖かい飲み物を出してくれた。


 「これは?」


 「ジミーの坊やから、あの子の故郷特製さ」


 「えっ?」


 「朝、昼、晩の3回 夜の分は実も入ってるからね。


 これを3日も続ければ、大概大丈夫だそうだ」


 口にいれると爽やかな香りと味わった事のない甘さが広がる。


 「おいしい」


 「そうだろ、流石に兵舎には置いとけないんで、


  あたしが預かっているんだけどね」


 「そうなんですか」


 「ああ、飲んだらさっさと寝な。夜にまた持ってくるからね」


 「はい、ありがとうございます」


 なんだろう? いやな気持が、もうどこにも無い。


 ジミー君ありがとう。



【ビナータ】


「ビナータさん、ありがとうございます」


「よかったのかい、使っちまって? 」


「いや、薬は使ってなんぼですよ」


「お人好しだね」


「薬効は確認してませんから、実験ですよ」


「まあ、そうゆう事にしとくよ」


「ありがとうございます」


おもしろい坊やだね、しかし、薬は使ってなんぼか・・・どこの格言だろうね?





エルザ大隊長の執務室


【エルザ】


その夜、珍しく、私の執務室に来客があった。


コンコン「エルザ、いるかい?」


「ビナータ、どうしたんですか?」


食堂勤務のビナータだ、


彼女とは歳が近いので何かと話し相手になって貰っている。


「いや、あんたも、のどの調子が悪そうだから、


良い物持って来てやったよ」


「なんですか、それ?」


「のどの薬らしい、効き目はともかく味は保証するよ」


「いや、普通逆でしょう。まったくあなたは」


「高いんだから、味わって飲みな」


「はいはい、ありがたくいただきます」



カップに入った暖かい飲み物、爽やかで甘い香りが立ち上ってくる。


口に入れると、今まで経験したことのない甘味が口一杯にひろがっていく。


驚きのあまり、しばらく声が出なかった。


「なんですか、これは?


伝説のだと言われても信じてしまいそうです」


「美味いだろ、こないだ入った新兵の、故郷の薬を再現した」


「え?」


「のどに効くらしい、魔法士には必須だよな」


「再現って、作ったんですか? 」


「ああ、これは原液を5倍に薄めてある。


 小さいツボ1つで銀貨3枚かかった」


 銀貨3枚!!


「飲みものとしては、ふざけた金額ですね」


「でも、もしまた作るなら、材料が手に入る今の内だな」


「今の内? 」


「それを逃せば来年の今頃まで作るのは無理だ」


「どちらかと言えば、冬用に欲しいですね」


「そうだろうな」


しばらく、考えながら


「この薬、どれくらいの期間保管できます? 」


「水を加えたり、蓋を開けて放っておけば痛むだろうが。


 材料から見ても、蓋をしておけば1年位持ちそうだね」


「そんなに長く保管できるのですか?」


「ああ、おそらくね」


よし、決めた


「とりあえず、私の懐からツボ5個分出しますので、作ってもらえますか?」


「いいよ、うけたまわった」


「その新兵にも手伝わせます? 」


「ああ、頼むよ。まあ仲間が体調崩してるから、


 今は、分隊としては動けてないんだけどね」


「それで、その新兵の名は」


「ああ、ジミーって坊やさ」

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