第3話 1/16の情報
「私がヨル小隊の隊長、ヨルだ、諸君らの奮闘を期待する。」
うん、線の細い神経質そうな眼鏡の小隊長だな。
支給されたばかりの右の皮手袋に覆われた手を
ニギニギしながら小隊長に注目する。
小隊長の印の黄の
バナナにしか見えないな。
訓練所では縄香を使わないので
半刻(1時間)毎に時刻を告げる鐘が鳴る。
そして、その5分くらい前に
この前鐘を目安に詠唱すれば、
ちょうど1時間に1回の詠唱間隔がとれるらしい。
もう少しすると4キャス半(午前9時)の前鐘が鳴るはずだ。
魔石は既に黄色に替えてある。
「次の前鐘を合図に全員、水を詠唱せよ
今回笛は省略するからそのつもりで。」
前鐘が鳴ると同時に俺は左手の短杖を
ギーグ分隊長に向けて水の詠唱を始めた。
「*>?$%&# *>?$%&# *>?$%&# ・・・・・・・」
他のネイド分隊、セラ分隊も同時に詠唱を始める。
分隊長の杖が光りだすのは、
やはり新人の居ないセラ分隊が一番早い。
続いてギーグ分隊、僅かに遅れてネイド分隊の順だ。
ヨル小隊長の短杖の先端が光る。
『破滅型目覚まし時計』
ヨル小隊長の起動キーに合わせて短杖の先端から
まるで消防車の放水ホースのように水が放出されて、
およそ3秒ほどで止まった。
スゲー、ヨル小隊長。
あれ放水の反動感じてないな。
物理法則無視、さすが魔法。
一人だけトンチンカンな感想を抱きながら
分隊長の号令
「黄から黒に交換」に従って
右手で黄色の魔石を掴みネジって外す。
ネイド分隊の方から「あちっ!」という声が聞こえた。
ホルダーから黒を出して杖にねじ込み
「交換完了」と発声する。
全員の交換が終わったあたりで
周囲に4キャス半を告げる鐘が大きく響いた
「各自、楽な姿勢で良し、注目せよ」
小隊長の言葉に従いその場に座り込む。
「先ほどの小隊魔法発動時間はセラ分隊は合格、
ギーグとネイドは不合格だ
送られてきた魔力の量は私の体感ではセラは9割、
ギーグが4割とネイドが3割といったところだ。
つまり威力は一般的な分隊の半分ぐらい、正に半人前だな
これを最低8割までもっていかないと、
集団魔法の威力が目標値に達しない
集団魔法で倒せなければ、
次の詠唱までにいたずらに死者が増える事になる
まず、今日中にギーグとネイド各分隊の威力を
6割まで上げる事を目標にする、
前鐘を合図に練習せよ
6キャス(12時)の詠唱後に昼食を取れ、
8キャス(16時)の小隊魔法で進捗を確認する。以上杖礼」
「「「「杖礼」」」」
分隊毎に集合する。
「よし次の5キャス(10時)の時は、
全員1歩づつ俺に近づいて魔石と杖が一直線に
俺の魔石に向く事を意識してやってみてくれ」
「「「「了解」」」」
「ギーク隊長」
「なんだアリア」
「どうして今回は水魔法なんですか」
「それは万が一新人がミスっても被害が小さいのと」
「小さいのと?」
「水魔法だと魔石が熱くならないと思って
素手で触ろうとするバカが必ずいるので、
最初に痛い目を見せるためらしい」
「ああ、納得です」
皆がガラのツンツン頭を見ながらうなずいた。
5キャス(10時)の詠唱では
この方法を意識して軽く6割を成功したので
5キャス半(11時)では1歩下がって詠唱し
6キャス(12時)では分隊長の体感で
6割5分までもっていった。
「よし、上等だ。皆食堂に行くぞ」
疲労を感じた体を引きずって食堂に向かう
食堂では各自食事のトレイを受け取りテーブルに移動した。
手早く食事を済ませて、聞くことを聞こう。
「休日のお出かけの、おすすめスポット教えて」
ん、エルは苦笑いアリアは唖然としているな。
この街出身のリドからは昨夜情報を絞り出したせいか、
うんざりした顔をしている。
「ジミーは店や食べ物の話に目が無い、
訓練所でもこんなだった」
エル、フォローありがとう。
「うちの村には行商の兄ちゃんしか来なかったからな、
こういうの珍しいんだ」
「昨日は僕も分隊長もさんざん聞かれたよ、
日用品関連は大概話したと思う」
「村では甘味といえばネネの実ぐらいだったからな、
日持ちするなら母さんや姉ちゃんにも送ってやりたいし」
それを聞いてアリアがこの街の菓子店や甘味屋果物屋
それに乾物や調味料の店を教えてくれた。
「ありがとうアリア、助かった。今度なにか礼をする。」
アリアは断ったが、この情報はかなり有益だ絶対礼をする。
アリアの笑顔が仏さまに見えてきた。
心の中で手を合わせ彼女を『
午後の訓練では、我々ギーク分隊は8キャスを無事7割で達成した。
『土産か、そういえばいろんな地方に行かされたな。
大概は、支店や支社の閉める前の設備撤去だったけど。
俺が会社で褒められたのって、土産のセンスだけだったな』
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