プロローグ2 1/30の大砲

なんとなく、自分が死んだのは覚えている。


前世は成人男性で会社員。


死因はイマイチ覚えてないが


「これ、あかん」という記憶はある。




気が付けば、赤ん坊で中世で髪の色がバラバラで、


大人は小麦かなにか作っているようだ


たぶん、この薄茶のキレイな髪の女性が母親か? 


それと濃い灰色のもじゃ髪と髭のおっちゃんが父親だと。


おっちゃん頭がだいぶ薄くなってるな、


前世での自分の容姿も、あまり覚えていないのに


何故か今、背筋が寒くなった、


この瞬間、前世の頭皮ケア方法が俺の中で最重要項目になった。




母親らしき人が何か唱えると、


なんとカマドに火がついた『えっ?』


驚いた顔の俺を見て、


父親らしき人が何か唱えると


今度は空の器に水が現れた。




『ここ魔法あるの?もしかして剣と魔法のファンタジー世界、


冒険者ギルドとか転生者得点で魔法最強とかあるの? 』


と一人興奮し、じっと見ていた。


いかんいかん、俺の最重要項目は別の物頭皮ケアだ。


家には小学生位の男の子と幼稚園児位の女の子と男の子がいた


多分、俺の兄弟だろう。


こっちを好奇心満載の目で見ている


「こっち見んな」


俺の意志が伝わる訳もなく、俺の口が鳴き声を上げ、


母親が止めるまで色々触られた。


これは後でわかった事だが・・・


 長男セラス(8)


 長女リリー(5)


 次男トニー(3)


 俺の名前は ジミー(0)だった。


うん、ヒーロー物の主人公の名前じゃないな、


というか日本だとモブ確定ネームだよな。


父親は セバス 母親は アンナ 


ここは ネルモルカの村というらしい。




3歳くらいか? 少し大きくなって教会の祭司である、髭のじいさんに


「この子は魔法士の素質がある」とか言われて


ちょーしにのってた時期がありました。


ええ、ありましたよ。




言葉が話せるようになって


お父さんに「冒険者ギルドは?」と聞くと


「冒険者ってなんだ?」と聞き返され。


お母さんに「魔物が出たらどうするの?」と聞くと


「国軍がやっつけてくれるわよ」と言われる。


・・・・てか魔物いるんだ。


なにか会話が嚙み合わない。


「剣士や魔法使いや祭司(僧侶)が魔物を倒すんじゃないの?」と聞くと


「なんだ、それは、何故そこに祭司が出てくる」


「兵士と魔法士の事かな?」と不思議がられる。


両親に色々不振がられながらも聞きました。


この世界の魔法(じょうしき)の事を・・・




この世界に魔法はある、


そして俺には素質があるらしいが・・・



素質があると魔法のが、


小学生の投げるから


高校生の投げるぐらいになるらしい。


「へぇー、そうなんだ」




素質があると魔法の発動回数が、なんと倍に・・・


2時間に1回から1時間に1回に増えるらしい。


「へぇー、そうなんだ」




うん、弓矢の方が断然有利だね。


ただし、杖を使うと大勢の魔法士の力を纏める事が出来るらしく、


それを使って集団魔法まとめてドンで魔物に対抗するらしい。


うん、人の力は集団の力、数は力だよ兄貴・・・じゃなくて


大体30人位魔法士が集まって、


大砲並(この世界には無いが)の強力な1発が出せる。


つまり、魔法は使い勝手の悪い戦術兵器。




なんだろうネガティブなイメージが沸き上がってくる。


中世のヨーロッパかな、映画であったよね、


大きな船の日の当たらない甲板の下、


鞭で殴られながら必死にオールを漕ぐ30人の奴隷


「俺、魔法士になるの辞める」思わず呟いた。




でも、魔法士は人気職ではあるらしい。


城壁や兵士の壁で敵を食い止めて、


集団魔法まとめてドン、後はしばらく役立たず。


つまり公然と休憩が出来る。


しかも、魔法は3種類しかなかった。


 火(魔法)、水(魔法)、風(魔法) これだけ。


威力は人数で変わるから、


火の最上級魔法や極大魔法なんて物も無い。


訓練所に入った時点から給料も出るし、


衣食住はもちろん軍持ち。


なんと訓練所のある街までの交通費や宿泊費まで出してくれる。



ここまでうまい話が出てくると、


帰ってうさんくさくなってきたぞ。


大丈夫か?何か裏はないか?


まあ3歳児が悩む事では無いな。



俺が3歳になったことで、


セラス兄さんとトニー兄さんと外出を許された。


近くの林に連れて行って貰えるようだ。



有用な葉っぱや木の実を拾って、


行っちゃいけない事を教えられる。


傷薬に使うヨモギっぽいイサの葉や


ドングリっぽいクックの実を拾う。


クックの実は処理して俺たちのおやつになるらしい。



トニー兄さんがまだ黄色いイチゴの様な実をもいで


セラス兄さんに怒られてた。


「トニー、赤くなるまで取っちゃダメだろ。


黄色はまだニガイんだから、前も言ったよな」


セラス兄さんが「1個だけな」と言って、


俺の口に赤い実を1つ入れてくれた。


前世のサクランボに似た甘さが口に広がった。


「セラス兄さん、ありがとう。おいしいや」


俺が5歳になったら、


川や池等水の有る所にも連れて行ってくれるつもりらしい。


それは楽しみだ。


向こうの茂みにピンポン玉位の緑の実が成っている。


葉の形は前世の柑橘系に近く光沢があるな。


「セラスにいさん、あの実何?」指さすと。


「ジミー、あの実は酸っぱくておいしくないよ、


しかも枝にトゲがあって触るとケガするんだ」


「うん、苦くて酸っぱかった。すげえ痛かった」


トニー兄さん、あんた食ったのか。


「あの実、何ていうの」


「食えないから、皆 ”ニガ”って呼んでる」



家に帰ってから、


クックの実は殻を取って砕いて練って焼いてクッキー風に


赤いネネの実(というらしい)はそのまま食べた。


無事5歳になった俺は「素質がある」と言ってくれた


教会にじいちゃんに読み書きを習った。


同じ年ごろの子供は皆行くんだけどね。


驚いた事に識字率がほぼ100%だ、


流石はファンタジー。



文字と発音を覚えないと、


魔法が覚えられない?


魔法は日常生活にも使うから?


そういえば・・・


どこの家にも3枚の板切れがあった。


枠が赤・青・緑に塗られいて文字が彫られてた。


えっ? あれが魔法書?


いや書ですらないし。




前世で壁に貼られたひらがな一覧と


世界地図を思い出した。



晴れた日は外に板を持ち出して、


兄弟そろって魔法の練習だ。


イメージとしては九九の練習に近い、


万が一を考えて、外で人の居ない方を向いて練習する。




兄達は、初めの詠唱で魔法が発動して、


その後は一緒に声を出しての練習になる。


1時間以上練習すれば魔法が発動する可能性はあるが、


子供の集中力がそんなに続く訳がない。


とりあえず、板を見ながらなら詠唱出来る様になりました。




家では、簡単な算術も教えられた。


「農業に算術いるの?」と聞くと


「馬鹿か? 自分の畑がどの位の大きさで


どれだけ収穫が見込めるか理解してないで、農業が出来るか。」


お父さん、ごめんなさい。ごもっともです。




俺は三男だし、才能があるんだから、その才能を生かそうかと、


父ちゃんと相談して 12歳で魔法士の訓練所に入った。


うん、俺、これは母さんに似たのか背も高くないし力もそんなに強くない、


金属の鎧で固めて魔物とクロスレンジ至近距離で切りあう・・・無理。


俺にはそんな体力も気力も根性も無いから魔法士1択でお願いします。


現代知識で俺スゲーするには、能力も金も無いんだ。


村長に


「ネルモルカ村のセバス三男ジミーを国軍魔法士訓練所に推薦する


 ネルモルカ村長 バーク」


と一筆書いてもらう。


「村長の名前バークって言うんだ、初めて聞いたな」


そうして俺は住み慣れた村をでた。


行商の馬車に相乗りさせてもらい。


代わりに次の町での荷卸しを手伝う約束で。


ガタガタと音をたてる荷馬車に揺られながら


『故郷を出て馬車で就職か、前世では新幹線だったな。』と呟いた。








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