第14話
「で、どうなんだい。太鼓を壊した犯人には対処できそうなのかい」
「無理でしょうね。これじゃ、皮を張り替えても、また同じよ」
「どうする。これを機に、こっちの方で預かるか。いっそ、その方が早いだろう」
「そうですな。その方がこちらにも都合がいい。しかし、そうなると計画を変更する必要がありますな」
「そうね。邪魔モノは処分する必要があるわね」
「うむ。それはリストに従って粛々と進めよう。時代も変わった。用済みには消えてもらわねば」
「ですが、まずは明日の祭りですね。このまま進める訳にはいかない」
「そうだ。多少の無理も仕方ないじゃろう。あの者らだけに良い思いをさせる訳にはいかんからな。ハンバーガー屋さん、分かっておるの」
「ええ。任せてください。必ず従わせて見せます。その道のプロを手配してありますから。明日、本部からやって来るそうです」
「そうか。さすがは組織の一員だ。頼もしい。期待していますぞ」
計画? 組織? 用済みを消す? どういう事だ。その道のプロを手配しただって? どの道だ? ま、ま、まさか、殺し屋か。東地区の人たちは、ウチの太鼓を狙っている。そして、西地区の人たちの命も。組織とか本部って、まさか犯罪組織と手を組んでいるというのか。だとすると、あの黒尽くめの連中は、その組織に雇われた者たちかもしれん。ぬう、これは許せん。自分たちの欲望のために、美歩ちゃんの夢を壊したというのか。おのれ……怒りで体がブルブルと震えてきたぜ!
「ん? 誰だ。誰かそこに居るのか」
しまった。こんな時にネックレスの音が……。畜生、逃げ場が無い。
「こら、出て来い。その車は俺の新車だぞ。傷でもつけやがったら……」
そうか、新車だったのか。どおりで、やけに丁寧にワックスが……て、そんな事はどうでもいい。何とかして逃げなければ。仕方ない、ダッシュだ。
とにかく走って道に出よう。ここに居たら捕まってしまう。全速力で……なんだ、高いブレーキ音が、危ない! だから車は嫌いなんだ! 誰だよ、もう少しで轢かれるところだったぞ。運転席から降りてきたな。よーし、一蹴り食らわして……おや、この人は……。
「びっくりしたあ、桃じゃないか。急に飛び出すなよ」
「高瀬のおじさんか。よかった」
「怪我しなかった……おいおい、どうしたんだ、慌てて」
「すまん、勝手に乗るぞ。すぐに出してくれ。追われているんだ」
「ああ、東地区の皆さん、おはようございます。今日も相変わらず暑い……」
「そんな事はいいから、早く乗れ。車を出すんだ。ここはヤバイ。退散するぞ」
と言ってダッシュボードを叩いているのに、何のんびりしているんだ。早くしろ、邦夫さん!
「いったい、どうしたんだよ、桃、そんなに興奮して。――すみませんね、皆さん。じゃあ、行きますね」
ふう。高瀬生花店の配達車に出会うとは、ラッキーだった。助かったぜ。これで大通りも渡れる。我が家に帰れるぞ。
まったく、朝っぱらからとんでもない目に遭った。しかし重要な手掛かりも掴んだことだし、まあ、良しとするか。
そのまま「フラワーショップ高瀬」の前に到着すると、奥さんの公子さんが出てきて邦夫さんに「あなた、遅いじゃないの。輪哉を迎えに行く時間でしょ」と言う。俺と交替で助手席に乗り込んだ公子さんは少しお洒落な服装だ。駅まで息子さんを迎えに行くそうだが、久々に帰省する我が子に恰好をつけているようだ。邦夫さんも呆れ顔をしている。
「気をつけてな。輪哉さんに宜しく」と言っても、二人とも返事もなしに車を走らせるか。相当に舞い上がっているな。
さてと、俺も、いつものルートで自宅に戻るとするか。腹も減ったし。しかし、どういう事なんだ。東地区の人たちがウチの西地区の太鼓を狙っているのなら、なぜ、皮を破ったんだ。いや、毀損の犯人は別口のような言いぶりだったぞ。「犯人に対処できるか」とも言っていた。やっぱり、犯人は幽霊……うう、寒い。これだから夏に怪談が流行るのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます