第9話 注目の兄弟ケンカ?

 1994年というのはナリブー陣営にとっては飛躍の年であり、満足のいく成績になった事だろう。

一方でその兄であるビワハヤヒデはというと、どうだったのだろうか?

実はこの年はハヤヒデvsナリブーの兄弟対決が話題になった年でもある。弟のナリブーは春の時点で既にクラシック戦線にて結果を残しており、世代中の競走馬の中では群を抜いた能力馬と競馬関係者の間でも認識されていた。

 

 このため、春の競馬界において3戦3勝を挙げ、G1も手にしていた一つ年上のお兄さんであるビワハヤヒデがライバルになるのではないかと、まことしやかに囁かれ始めていた。

 当時、ハヤヒデの調教師であった浜田氏は、ナリブーが皐月賞に勝った時点で「4歳春の時点での比較ならば、ナリタブライアンはハヤヒデを越えているよ」と語っている。続けて「ナリタブライアンが順調に成長・調整が出来ているのであれば、年末の有馬記念での兄弟対決は避けられないかもしれないね」と語っている。


 なぜ有馬記念での対決という話になったかというと、コレには事情が有った。ナリブー陣営は春競馬が終わりダービーの時期に近づいて来ていた時期には既に、菊花賞の後はジャパンカップは回避して有馬に向かうと明言していたのだ。


 なので、兄弟対決があるとするのならば、早くても年末の有馬記念が濃厚。という話は既に出来上がっていた。


 このことに刺激を受けていたのかどうかわからないが、ハヤヒデが天皇賞・春を勝った後の浜田氏のインタビューにて、「弟が強い勝ち方をしているのだから、兄であるハヤヒデの面目にかけても負けられない」と話し、後にナリブーがダービーに勝つと、「兄弟対決は絶対にやりたい。そのためにハヤヒデは休養に出さずに調教する」と語っている。


 当時はこの2頭の対決が話題に上がることが多く、別のレースに出ている騎手の方々にもこの2頭の事を聞いているインタビューなどが多くある。

そのインタビューの中でも当時記憶に残っているモノがある。菊花賞の所にも登場した武豊氏が同年の宝塚記念後に語ったもので、「ブライアンならもっとずっと強い勝ち方をするはず。現時点ではハヤヒデよりもブライアンの方が上じゃないかな。あの馬の強さは桁が違うから」と言っている。


 鞍上としてナリブーに乗った事の無い武豊氏でも、間近で見たナリブーの強さには一目置いていたという証ではないだろうか。


 そんな形で、競馬サークル内部では兄弟対決がわだいになることも多い中、ハヤヒデ陣営では後半のシーズンインを前にすでに、ハヤヒデのジャパンカップ回避を明言した。


 これにより、菊花賞の後の体調次第とはなるが、有馬記念での兄弟対決が現実味を帯びてきたのだ。


 しかし残念なことにこの兄弟対決がこの年に実現することは無かった。


 天皇賞・秋に出走したハヤヒデが、故障を発症。そのまま出走することが出来る状態ではなく、そのまま引退することが決定した。


 この1週間後に行われた菊花賞において、実況を担当していた杉本アナの「弟は大丈夫、弟は大丈夫だ」というフレーズは有名だ。


 実現しなかった兄弟対決について、競馬関係者の中でも色々な話が出ている。兄弟の比較に関してルドルフの調教師であった野平氏は「中距離では互角かな? ただ長距離では柔軟性のあるブライアンに分があると思う」と述べているし、血統評論家久米氏は「マイル~2000mはハヤヒデ。クラシックは互角で3000mを越えたらブライアンが有利」と書き記している。


 更に競馬評論家である大川氏は「もし有馬での兄弟対決があったのならば、ハヤヒデが勝っていたと思う」とテレビ解説の中でも語っていた。


 色々な話が錯綜する競馬関係者の間の話題は、この対決に持ち切りだったことは否めないのではないだろうか。


 ハヤヒデの調教師であった浜田氏は後年になってからではあるが、「ハヤヒデが有馬に出ていたら、多分勝ってたんじゃないかな? 相手は三冠馬だから敬意は表すどころの存在じゃないけど、安定性のハヤヒデと闘ってみるのも面白かったんじゃないかな」と語り残している。


 『たられば』はどの世界にもあるが、このたらればを競馬に当てはめて考えると、また違ったドラマが見えてくるかもしれない。


 それが今日話題になっているメディアミックスにもみられるが、本当の史実を知ってからそのメディアミックス版を見ることで新たな発見につながるかもしれない。



※後書き

お読み頂いた皆様に感謝を!!


 作中には競馬用語が出てきますが、良く分からない方もいらっしゃると思います。

 そんな時はお気軽に作者までメッセでもいいので聞いてください。

 なるべくは感想欄はそのようなことに使いたくないので、よろしくお願いしますm(__)m

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