第8話 誕生!!
菊花賞での締め切り直前オッズは1.7倍を付けていた。今まで通り俄然圧倒的1番人気であったものの、前走での敗戦で少し人気が流れたことと、馬場への不安からか数字は少し落ちていた。
菊花賞では約二週することになる京都競馬場は向こう正面からは上り坂があり、3コーナーから4コーナーに向けて下っていくという、通称淀の坂が待ち受ける難コース。そしてもう一つの特徴はそれまで経験のない距離。3000mというモノだ。
もちろんこの距離はそれまでどの馬も経験したことが無い。だからこそ適正距離がつかめないままに挑むことになるので、予想する側からすれば血統との勝負な感じで面白い。
レースは淡々と進む。平均ラップを刻みつつ1週目のゴールまでは特大の声援を出走馬は受けることになるが、さすがにこの時に怯んだりする馬はいない。この時の声援は、先頭集団にいるナリブーに注がれているモノが大半で有ったのではないだろうか。
レースが動き始めたのは2週目の向こう正面に入った時から。先頭集団と後続集団との差がだんだんとでき始めると、淀の坂を上っていた先頭集団は少しスピードを上げた。坂の頂上付近から駆け下りてくると見えてくるのは4コーナーなのだが、すでにこの時にはナリブーは持ち出していて先頭に並ぶ間もなく一気に先頭に躍り出ていた。
ゴールに続く直線は既にナリブーの独壇場と化していて、後続馬とは大きく離れ、そのまま影を踏ませることなく先頭でゴール板の前を駆け抜けた。
三冠馬誕生の瞬間である。
競馬場内には大歓声と共に、馬券の紙吹雪が舞っていた。
この日は前述していた通り、馬場は稍重であったが、前年度に兄であるビワハヤヒデが勝利と共に記録したタイムをさらに上回るレースレコードを記録。
日本競馬界史上5頭目の三冠馬という栄誉と共に、記録にも記憶にも残るモノを手に入れたナリブーであった。
後日談にはなるが、このレースの事を武豊氏が評して「ナリタブライアンは2000mのレースをした後に、また別の馬達と1000mのレースをしたような物でしょう」と語っている。それほどまでにレースの内容がナリブーとその他の競走馬たちでは違いすぎたと見えた事への証左ではないだろうか。
このレースに実は武豊氏は騎乗してはいないので、外側から見た競馬関係者の話として、面白い話だと思う。
ここまではナリブーの三冠馬までの軌跡を取り上げてきたが、取り上げなくてはならない人物の話をしておこう。そう鞍上の南井克己氏の事である。ナリブーが菊花賞を獲得したことにより、ダービージョッキーという栄光と共に、三冠ジョッキーとしての栄誉も手に入れた。新馬戦からずっとナリブーに騎乗し続けたが故の栄光。大久保氏と交わしたかどうかは今になってしまうと分からないが、ダービーに勝つてくれという願いにプラスして大きな勲章をプレゼントした南井氏は、当時すでに一流と呼ばれていたが、更に大きく名声を得られたのではないかと推測する。
そしてここまで来ると気になってくるのは、ナリブーの次走の予定。大久保氏陣営が選んだのは、年末の大一番である有馬記念だった。
古馬と初対戦となる有馬記念ながら、有馬記念はどの馬も平等に登録出走できるものではない。ファンや関係者による一般投票という形で出走馬が確定するのだが、ナリブーはこの投票で約18万票を獲得し、勿論人気投票による出走を手に入れた。
開催日にはオッズが1.2倍を付けるなど一番人気の座を譲らず、そのまま出走時間を迎えることになった。
ちなみにこの有馬記念での2番人気はネーハイシーザーなのだが、2番人気でオッズが12倍を超えており、いかにナリブーの人気、支持が多かったかが伺える史実である。
有馬記念でもいつものナリブーを貫く。先頭集団にピタッとつけて追走する先行策を取ると、4コーナー出口ではすでに先頭に立ち、そのまま突き抜けるように後続を振り切り優勝を飾った。
この時の様子をまたまた武豊氏が「2頭のスプリンターがリレーみたいに途中でバトンタッチしても、今のナリタブライアンには適わないんじゃないですか?」と笑顔で応えている。
印象深いレースを制してきたナリタブライアンの4歳(3歳)はこうして幕を閉じた。年間成績は7戦6勝。G14勝を取っており、1994年のJRA賞年度代表馬と最優秀4歳牡馬を獲得している。
この時の得票数は総数が172票で、そのうち171票がナリタブライアンに投票されての年度代表馬受賞。
因みに残りの1票はノースフライトに入っている。
※後書き
お読み頂いた皆様に感謝を!!
作中には競馬用語が出てきますが、良く分からない方もいらっしゃると思います。
そんな時はお気軽に作者までメッセでもいいので聞いてください。
なるべくは感想欄はそのようなことに使いたくないので、よろしくお願いしますm(__)m
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