第6話 ちょっとお休み
競馬界には『ダービーに始まり、ダービーに終わる』という格言が存在する。これは文字通りの事で、ダービーを目標にしてスケジュール調整をして何とか出走させたいと願い、ダービーが終わればまたダービーに出走させるための馬づくり(調教)が始まるという事。
つまり日本競馬界はダービーを中心にして回っているのだ。
日本競馬界の権威のあるレースはいろいろある。天皇賞だったり有馬記念だったり、宝塚記念だったり。しかしダービーと比べてしますとやはり格が一つ下がるのだ。現行において3歳馬のみが出走を許可されている3歳馬だけしか出られないクラシック戦線において、その頂点に君臨するのが東京優駿である。
日本競馬界が欧州の競馬を模倣してレースプログラムを組んだ時から、その権威は変わっていない。競走馬の生涯においてダービー馬になるという事は、たった1度の事しかない。毎年数千頭という生れ落ちる競走馬の卵たち。その中でもダービー馬になるチャンスが与えられるのはわずかに18頭でしかない。
※現行の日本競馬会主催で行われている日本ダービーは、枠数8の頭数18頭にて施行されている。一昔前のダービーはさらに頭数が多く22頭等、今よりも出走枠は多かった。
もう少し詳しく知りたい方は、頼庵著『誰かの為になれ!! 日本競馬史』をご覧いただけると分かります。
ナリブーの話に戻しましょう。
ダービーが終わり、次の目標を菊花賞へと定めた陣営は、ここまで厩舎にて管理していたナリブーを短期休養に出すことにした。と言いたいが、実はこれ休養ではなく調整のためのモノ。
テンションが上がりすぎる傾向が強いナリブーの為、使い詰めることでその影響を極力抑えようとしてきたのだが、やはりその影響は大きく、ナリブー自身にも疲れが見え始めたためである。この時飼い食いなどが落ち厩舎内でもイライラするしぐさが増えていた。
そこで思い切った決断をする。
夏場に開催されていた札幌競馬・函館競馬の開催時に使用されている厩舎にて、避暑を兼ねてそこで調整することにしたのだ。
しかしこれは実は前例が無い事。地方にある競馬場の厩舎とは、その競馬場で開催されるレースに出る馬だけが使用を許可されていたから。ナリブーはこの時、どちらの競馬開催にも出走登録はしていない。
ではなぜそのような事が可能になったのかというと、これには競馬関係者の期待も背負っていたからに他ならない。当時の三冠馬と言えばシンボリルドルフの事が思い起こせるのではないだろうか。そのルドルフ以来日本競馬界では三冠馬は誕生していなかった。そこでナリブーの競走成績と実績を考慮したうえで、特例にて馬房を貸し出すことが許可され、北海道の地にて目標に向けた調整が行われることになったのである。
ここで余談ではあるが、ダービー終了時の競馬関係者の発したコメントの中に、そのシンボリルドルフの調教師であった野平氏の物もある。
野平氏はダービーが終わりしばらく経った時に「現時点ではルドルフよりも上かな? これからいろいろあるとは思うけど」と発言している。
三冠馬を育てた野平氏の眼から見ても、この当時のナリブーの強さは際立っていたという事の証左で有りほんの一例に過ぎないかもしれないが、そんなエピソードも残っている。
実はこの夏の避暑はナリブーにとって、良い事ばかりではなかった。それは環境の変化による体調の悪化が出てしまったから。
この時の事を大久保氏は後に「菊花賞を回避することを本気で考えた」と語っている。調教師の先生がそこまで考えさせられるほど、この時のナリブーは体調が悪かった。言い方を変えると、ちょっと厳しい言葉にはなるが『調整失敗』をしていたのだ。
このため、ナリブーの調整には大幅な遅れが生じる。という事は予定していたことが出来なくなることにつながるわけだが、大久保氏とナリブー陣営は既に秋緒戦に向けて動き出していた。
選ばれたレースは菊花賞トライアルの京都新聞杯G2。当然ナリブーはその実績からも前評判的には人気になっていた。単勝支持率は77パーセントを越え、単勝オッズはなんと驚異の1.0倍という圧倒的な人気を叩きだしていた。
この時になるとファンと競馬関係者の間に考えの
※後書き
お読み頂いた皆様に感謝を!!
作中には競馬用語が出てきますが、良く分からない方もいらっしゃると思います。
そんな時はお気軽に作者までメッセでもいいので聞いてください。
なるべくは感想欄はそのようなことに使いたくないので、よろしくお願いしますm(__)m
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