第5話 夢の先へ
皐月賞を勝った事でダービートライアルを回避したナリブーはそのまま直行路線をとる。
ついに1994年5月29日。場所は東京府中にある東京競馬場へと物語は移る。そう、ナリブー関係者が口をそろえて目標にしていたレース。東京優駿(日本ダービー)開催日
を迎えた。
この日、東京競馬場は朝から入場する人の列が続いていた。どの人も口にするのはナリブーVSその他の馬。手には新聞を持ち、下を向いて読みながら歩く人の姿も見受けられた。
この日のナリブー人気は皐月賞の勝ち方があったからか、非常に高いもので単勝支持率は61.8パーセント、単勝も1.2倍を付けるなど断然の1番人気として、他馬を迎え撃つ立場へと変わっていた。
この日もいつもと変わらない様子のリブーであったが、関係者の方が緊張していたと後に語っている。
この日も先行で行くものと思われていたナリブーだが、ゲートが開くと同時にわずかに出遅れる。そのまま追走する形をとるのか、それとも先行勢に追いつくためにアクションを起こすのかと観客は注目していたのではないだろうか。南井騎手がとった行動は『そのまま行く』だった。
しかしポジションはそんなに悪い位置ではなかった。だからこそのそのままだったのかもしれない。
レースは淡々と流れていく。タイムは平均ラップを刻んでいた。動きだしたのは3コーナー入り口から。
この日もナリブー警戒が続いていたが、皐月賞の時とは違う事がある。それは開催競馬場の違いであり、中山競馬場と東京競馬場の違い。右回り左回りという違いも大きいが、何より大きな違いはゴール前の長い坂道だろう。
レース中ではあるがここで少し余談を挟むことにする。
日本競馬において、中央競馬と銘打って施行されている競馬は、競馬場によって開催されている。当たり前の事ではあるが。
しかしこの競馬場には右回りと左回りがある事は存じだろうか?
日本における競馬の主流は中山競馬場のように右回りである。それに反して左回りの競馬場は中央競馬会主催の開催場においては2場しかない。東京競馬場と中京競馬場だ。
これは日本においてのみの現象なのだ。
米国競馬において主流なのは左回りの競馬場で、欧州も同様だ。欧州に関してい言うと、英国競馬がそもそも発祥とされているので、ロイヤル競馬におけるダービーが見本となっている。そしてロイヤル競馬において使用されている競馬場は、アスコット競馬場で左回り。
この競馬場がモデルとなって左回りが主となって広まっていった。
現在世界最高峰賞金レースは変わってしまったが、以前はUAEのメイダン競馬場で行なわれていたドバイワールドカップもダートの左回りである。
※現在の世界最高峰賞金レースはアメリカ・ガルフストリームパーク競馬場におけるペガサスワールドカップ インヴィティショナルステークス。
何故この話をしたかというと、ナリブーの4歳(3歳)初戦の事に触れるからだ。
ナリブーの所属は関西の栗東トレセンである。この当時も中京競馬場という左回りの競馬場はあったが、3歳(2歳)戦において大きなレースは組まれていなかった。その為、左回りを経験することはなかなか難しく、左周りを経験させるためにも出走させておく事が重要だったのだ。
それは馬にも左回り右回りの得手不得手があるから。何故あるのかという事はこの作品では割愛させて頂きます。
では日本ダービーの場面へと戻ろう。
ナリブー警戒網は皐月賞の時よりもより厳しいものであった。少し反応すると他の馬も反応するため、仕掛けどころがどこになるのかファンもドキドキしながら観ていた。そんなハラハラドキドキはナリブーの脚色によって一瞬で歓声へと変わる。
長い直線を見越したように、南井騎手はスッとナリブーの位置を外側へと移動させた。と同時に仕掛けに入る。南井騎手に導かれたナリブーはそのまま馬群の外側をまくるように一気に駆け上がり、出走した競走馬の中で一番の上がりタイムを叩き出してゴール板を駆け抜けた。
ダービー馬という栄光を掴むとともに、二冠馬誕生である。
もう一つ、前述した南井氏と大久保氏の話の中に有った「ダービーに勝ってくれ」という願いにも叶えられた瞬間でもある。
こういうお話にドラマを感じるのは自分だけではないと信じたい。
ここまで来ると見えてくるもの。そう三冠馬という道だ。
ダービー獲得を目指していた関係者はここまで来ることは誰も予想していなかったであろう。しかしその栄光にすでに道が見えていて、手の届くところにまで来ている。
ならば目指すことになるだろう。
あの菊の坂道を。
※後書き
お読み頂いた皆様に感謝を!!
作中には競馬用語が出てきますが、良く分からない方もいらっしゃると思います。
そんな時はお気軽に作者までメッセでもいいので聞いてください。
なるべくは感想欄はそのようなことに使いたくないので、よろしくお願いしますm(__)m
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