第17話
ダンゴ将軍との模擬戦を終えた翌日。全身酷い筋肉痛になっていた彩葉は起き上がるのも億劫だったが、張り詰めた身体を何とか起こし予定されていた葬儀に向かった。
今日で戦死した兵士の葬儀自体は終わる。ただ数万人の民がいるギルム国内では聖剣による葬儀を希望する者は徐々に増えてきているため、この先の予定自体はまだあった。
とはいえ先の戦から昨日の模擬戦までの間に聖剣の魔力を使い、今まで充填できていないこともありその残量は五割に差し掛かろうとしている。なので彩葉は葬儀の募集を一時中断し、その期間の間は聖地の台座に聖剣を差して魔力を充填させていた。
「あの葬儀のおかげで、兵の募集には事欠かなそうです」
「
「……畏まりました」
(人生で一回は言ってみたいガーランド単語、自然と混ぜれたぞ)
自然溢れる聖地で待機している間に内政を担当しているコルコから内政に関する報告を聞いていた彩葉は、内心満足しつつも聖典に映るウルズ領の使者を見据えていた。
聖典にはギルム国周辺の地形図が大まかに記されていて、そこにある特産物の品目などがわかるようになっている。だがその聖典で見通せるのはギルム国の周辺範囲のみで、他は霧に包まれているように見えない。
ただその霧はギルム国の偵察隊が進むことでその周辺が晴れ、そこの情報は聖典で見ることが出来る。なので彩葉は偵察隊が発見した使者の規模を先んじて知ることが出来ていた。
「大方キルサが既に占拠していると見込んで、手土産の奴隷候補でも連れているのだろう。ギルム国の領土を大した損害もなく取ったとなれば、ウルズ領もいずれ危ういからな」
ウルズ領の使者はかなりの大荷物を馬車で運んでいるが、その人数表記にどうもズレがある。恐らく馬車の中に多くの人が詰められているからだろう。
ウルズ領にとってギルム国は、キルサ国に対しての緩衝地帯として有用だった。ギルム国の西に位置するウルズ領は奴隷制度を導入していないため、キルサ国と友好的な関係を築くには至らない。
なので同じく奴隷制度を導入していないギルム国にあっさりと倒れられてしまうことは不利益にもなるため、以前から度々助太刀するような交渉は持ち掛けられていた。しかし縛りゲー下にあったギルム国はそれを国の威信に関わると拒否し続けた結果、キルサに本国まで侵攻される形となった。
それこそ漁夫の利を狙えるほどキルサが弱っていれば、ウルズが打って出ることも可能だった。だが負けに次ぐ負け戦でその弱小国ぶりを露わにしていたギルムは、キルサを勢いづけるだけだった。
だからこそウルズは今までに出揃っている情報からしてギルム国はろくな抵抗もできず陥落したと予測し、周辺国の中で一歩抜きん出たキルサとの友好関係を少しでも築いておこうとしているのだろう。
「今回の防衛戦の成果で多少は見直してくれることを期待したいが……」
「ギルム国内ですら疑心暗鬼なこの状況では、それも期待できないでしょう。キルサ軍内で突然流行り病に襲われて敗走した、という方が信憑性はあります」
「…………」
そんなコルコの進言に彩葉は今日の魔力充填を終えた聖剣を抜きながら視線を返したが、彼は狐のように目を細めたまま表情一つ変えない。『ガーランド』と変わらず初心者にも構わずにずけずけと物を言うチュートリアルキャラ失格なその態度に、彩葉は軽くため息をつく。
「そう言う割に女王勢力は随分と息を潜めているようだが」
「キルサを退けたとはいえ、有事であることに変わりはありませんからね。今は気にせずともいいでしょうが、一体どれほどの功績を王が積めば謀反を起こされずに済むかはわかりません」
「そのためにも将軍カシスの協力は不可欠だが、模擬戦すら断られる始末だ。こうなればコルコ直々に兵を出してもらう他ないか」
実際『ガーランド』でもコルコを将軍として出そうと思えば出せる。彼も人並みには鍛えているし、王への謀反を起こした際は自ら武装して前線に立つくらいの腕はある。
だがギルム国を影から支えてきたバールベント一族の数少ない生き残りというだけあり、コルコの顔は広く内政にとても重宝するキャラだ。そんな彼を戦争に駆り出して戦死させようものなら、仮にその戦争を勝ったとしてもその後の内政に大きな支障をきたすだろう。
「王は以前と違いご自身の立場をよくわかっていらっしゃる。そのような愚行は起こさぬと信じていますよ」
「それなら少しはカシスを説得してほしいものだ。虫人との模擬戦でも私の戦闘経験は積めるが、カシスが錆びていては勝てる戦も勝てない」
「王が戦に出なければ滅ぶ国など、早々ないでしょうね」
また昨日と同じように虫人の隠れる森に向かうであろう王らしからぬ彩葉に、コルコはそう愚痴を零す。
「報告ご苦労。引き続きよろしく頼む」
「キルサを退けられたその武勇、存分に磨いて頂けると私の仕事も無駄にならずに済みそうです。こちらこそよろしくお願いしますよ」
それに意気揚々と手を挙げて応えたイロハ王を見送ったコルコは、その場所だけ自然と手入れされているが如く綺麗な聖剣の台座を愛でるように撫でた。
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