第2話
『ガーランド』において兵ユニットを用いて領土を巡っての戦争を起こすことは大きな要素であり、それは二つに分けられる。戦争前にどれだけ兵ユニットを増やして育てられるかといった内政面と、実戦でどのように兵ユニットを配置して攻守を行うかといった戦略面。
ただプレイ時には神のような視点から領地を見下ろしているため、こうした個人の戦闘を観測することはイベントムービーくらいだ。大勢の兵ユニットが戦っている光景などの重い場面は家庭のVRでは処理が追い付かないため、簡素にしか描写されていない。
(そういうゲームじゃないんだけど……。夢との解釈違いが凄い。というか、これ本当に夢なのか……? 剣の重量感とか、風を感じるほど鮮明な夢は見たことないと思うけど)
だからこそ彩葉は目の前に迫るカシスの剣技を捌ける技術はないのだが、何故か聖剣を持つ身体が勝手に動き彼を守っていた。それを夢補正だと片付けていたがそれにしたって剣での打ち合いが長く、そろそろ欠伸が出そうなものだった。
「ぜっ……!」
そんな彩葉の態度にカシスは目を見開き全力で斬りかかるが、風の刃を纏う彼女の剣は聖剣と打ち合う度にそれを打ち消され、魔力を消耗させていく。それにこの数年彼女は肉体、精神共に追い込まれていたためか完全な実力は引き出せていなかった。
しかしそれでも普通の兵ではとても介入できない高度な戦闘であったため、コルコたちはそれを見守ることしかできなかった。そもそもカシスが王相手に魔法を行使できること、そしてイロハがそれを捌き切っていることも予想外すぎた。
「
将軍カシスは風魔法により在籍している兵ユニットの行軍速度を速める破格のスキルを持っているが、それはどうやら戦闘面でも有効なようだ。これも夢ならではの表現だと思うと楽しいが、いい加減チャンバラごっこは飽きた。
そんな彩葉の言葉に呼応するように聖剣は輝きを増し、その剣技は速度が上がった。そしてカシスの剣を巻き上げるように弾き飛ばし、それは乾いた音を立てて床に打ち立てられた。
その事実が信じられないと言わんばかりの顔で地に落ちた剣を片目で追うカシスを前に、彩葉は聖剣を鞘に収めた。
「既にキルサの軍が都市に迫っている頃だろう。反乱をしている暇はもうない。こちらも早急に軍を動かすぞ」
「……何を、今更!! 貴様の命令などもはや誰も聞かん!」
「そうか。コルコも同意見か?」
「…………」
「なるほど。わかった」
信頼度が底を抜けているネームドキャラはろくに言うことを聞かないものなので、彩葉はコントローラーでもある聖剣の鞘を横向きに掲げた。すると彼にしか見えない不可視のウィンドウが立ち上がり、ギルムの現状を映し出す。
(操作自体はガーランドと同じだ。やっぱり夢だろうけど……まぁもし仮に現実なんてこともあるかもしれないんだし? ちょっとは挽回しとこうか。夢だったなら思い込みの笑い話で済むんだし)
この感覚が夢とは思えないと確信してからの夢オチも何度か経験したことがあるので、現状は十中八九夢だと思う。だが念のためそんなことを考えながら浮かび上がったウインドウを注視する。
(副都市から何までキルサにいいようにやられてるな。まぁ、相手は序盤特有の侵攻国家だしな。このままじゃギルムの民は全員奴隷ENDで俺は処刑が妥当だ)
キルサは『ガーランド』では奴隷の労働力を搾取して成立している典型的な悪い国家として描かれているが、ゲームの序盤に出てくることからして強さはそこまで高くない。初プレイでも問題なく倒せるかつ、滅ぼしても良心が痛まない国家だ。
ただ縛りプレイの影響でそんなキルサに追い詰められている現状では、もはや普通の手を打って挽回することはできない。何より信頼度が完全に尽きている内政を司る宰相コルコと、兵力の根幹を担う将軍カシスの協力が得られないことには普通の手すら打てないだろう。
(ユニットこれで動かすのは……出来ないか。操作関連は大体できない。情報表示してるだけ。魔力系の操作はできるっぽい。これにも魔力消費してるの、地味に細かいな)
聖剣はギルムの聖地で補充した魔力を使用し味方の士気を上げたり戦略攻撃を行うこともできるが、どうやらこのウィンドウを表示するのにも魔力を使用しているようだった。それに先ほどの戦闘でも少し使用されたのか、その残量は97%から丁度1減った。
(まずは当面の安全は確保して……ってところで目が覚めるっていうのがあるあるなんだけど、中々覚めないな。それならそれでいいんだけど)
夢に逃げたくなるくらいには現実に希望を持っていない彩葉は、どうかこの夢が覚めないよう願いながらも王の間を一人出た。
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