Side:Jin 14 ★
「――――」
…………最悪な夢を見た。敬介に抱かれていて、わけがわからないまま、流されるままに抱かれていた。だけど。
『……湊』
敬介が呼んだのは湊の名前で、俺は、俺だと思っていた身体が湊のものであることに気づいて。
嫌だ、俺は、俺として、敬介に俺を見てほしくて、違う違うこんなの望んでないって、必死に夢の中を走り回って……そこでようやく目が覚めて。円の家に泊まったことを思い出した。
……目覚めは最悪だったのに、淫夢だったせいか勃起してて、最悪で。しかも間の悪いことに円が起きていた。顔を覗き込まれて、必死に寝てるふりをして。
離れていってほっとしていたらベッドが微かに揺れて、寝直したんじゃなくてベッドから降りようとしているってことに気づいた。
(…………待って)
円まで俺のそばからいなくなってしまうような気がして、咄嗟に、シャツの裾を掴んでしまった。
そのまま、なし崩しに触れることを許してしまった。
勃ってることを指摘されて、夢を見たことを正直に話した。
そうしたら円は――。
「……いいですよ。おれを、敬介さんの代わりにしても」
そう、言った。
信じられないことに本当にそれからあいつは黙りこんでしまって。チ○コを舐められながら尻に指を突っ込まれて、どうにかなりそうで、助けてって、言ったら。
「――誰に助けてほしいんですか?」
……そう、耳元で囁かれた。
あとはもう、わけもわからないまま、……敬介の名前を呼んで。
ああ、これもう人に手伝ってもらってるだけで最低な自慰行為なんだな、なんて思いかけたとき、円の様子がおかしいことに気づいた。
(…………続き、して、こない……?なんで……?)
てっきりこのまま犯されるのかと思っていたし、俺もそうなるならなったでもういいやと思っていた。だけど円が手を出してこない。真っ暗闇の中、円が何を考えているのかわからなくて怖くて、電気を点けて。
いつもよりほんの少し弱った顔をした、円を見た。
(……なんでそんな顔するんだ)
「はあっ……、……はっ、……円。……もういい。わかった。……敬介の名前を呼んだところで、お前が敬介になるわけじゃない」
「……だめでしたか」
「敬介に○○○なんてできるわけねーだろ」
「ああ、そこから……」
「それにさ」
「……」
「……それにお前、おれのこと好きなんだろ」
「はい」
「…………だったら、嫌だろ、お前も。……俺がお前を敬介の代わりにしてるなんて」
「嫌……?」
自覚がないかのように円が俺の言葉を鸚鵡返しする。……バカ。それが喜んでやってる人間の顔かよ。
「…………円」
ああもう、しょうがないなって、思った。
「……はい」
「……抱いていいよ、俺のこと」
目を見ながら言うのは恥ずかしかったから、円の肩に顔を埋めながら言って、そっと顔を上げる。……円の顔が真っ赤になって、だいぶ動揺しているように見えた。
……なんだよ、お前も人並みに照れることあるんじゃん。
そんでまあ、改めて風呂場で身体洗って準備して……ヤったんだけど……。
「あー……、喉いってぇ……」
朝起きたら喉がカラカラだった。……なんか、めちゃくちゃ声出した気がする。円はまだ寝ていたからそっと身体を起こして、その寝顔を見下ろす。……やっぱ素顔だとびっくりするくらい顔いいなこいつ……。
「まど……」
――……博士って呼んで、ください。今は……。
(…………っ!!!)
思い返して死にそうになる。俺何回こいつの名前呼んだ?……覚えてねえ。わかんねえ。あーもう、あーもう!!
(……ていうか、……あれ、俺とうとう素面でもこいつとヤっちゃったわけだから……。……俺らの関係って、今、一体何……?)
1回だけなら、酒が入っていたから、酔った勢いでとかノーカンとかなんとでも言えたけど。2回目もあったとなるとそうはいかない気がする。今回はちゃんと始まりも合意があって、お互い名前を呼び合って、まるで恋人みたいなセックスを、……して……。
…………でも、俺は、別に、こいつのことを、恋愛的な意味で好きなわけでは、なくて…………。
(……つまり、セフレってこと……?)
一番しっくりくる単語はそれだ。セフレだったら真夜中に訪ねてきて、セックスしてもそうおかしくはない、んじゃないかと思う。円はなんだかこういう行為自体に慣れているっぽかったし、そもそもこの顔なら俺と出会う前に普通にいろいろ経験してきてるだろうし……。
(…………敬介しか見てなさすぎて初彼女にも勃たなかった俺よりよっぽど……ヤってるよな……きっと……)
――え、……まさか本当だったの……?ゲイって噂……。
頭を抱える。もう顔もちょっとうろ覚えになってきている元彼女からドン引きされたときの一言を思い出してしまった。
(まあ、あいつに言われるのは仕方なかったんだよな。マジでゲイならそもそも女と付き合うなって話なんだし……)
1年付き合って、彼女の誕生日に初Hなんてシチュエーションで勃たないどころか女体に迫られて萎えるってのはもう本当に、うん。悪いことしたなって思う。
……ただ、あいつは俺がゲイだってことを別れた後も黙っていてくれた。だからおかげでその後の学生生活は平穏無事に過ごすことができていて、それは感謝している。あいつへの感情はそこ止まりだ。最後まで、ちゃんと好きじゃなかった。
気づいたら、ってレベルで昔から敬介のことが好きだったから、敬介以外の人間にどうときめいていいのかがわからない。……いやほんと、湊の手助けしてる場合じゃなかったな。なんでそんなことしちゃったんだろ。
(お人好し過ぎるのかな……。好きなやつを譲って、好きでもないやつに抱かれて……)
……なんてつらつら考えていたら、音楽のようなものが鳴っていることに気づいた。どこからだ?と見回している間にもその音がだんだん大きくなっている。耳を澄まさなくても普通に聞こえる音量になった辺りで、突然隣で眠っていた円が身体を起こした。
「うわ!?」
「っ……、……あ、おはようございます、仁さん」
「お、おはよ。……この音楽何?」
「目覚ましです。すみません、止めてきます」
円はベッドを降りてパジャマを着直してから部屋を出ていく。どうやらあの和室に入っていったようだった。音楽が止まって静かになり、また戻ってくる。手にはスマホを持っていた。
「スマホ、お貸しします。これで駅に電話してください」
「あ、そうだった。ありがと」
「……こっちは履歴とかブクマとか見ないでくださいね」
「見ねえよ。心配なら見張ってろよ」
「ちょっとやることがあるので、すみません。20分くらい席外します。……おれが戻ってくるまで絶対にあの部屋を開けないでください」
「…………」
……なんかおとぎ話にそんなのあったなって思った。鶴の恩返しだっけ?
まあいいか。再ロックかかる前にちゃっちゃとやろう。つかまず駅の電話番号調べねーと。……Andoroidの使い方よくわかんねぇな……。
駅の電話番号を調べて電話する。……円の予測通り、浜松町駅で届けられていたらしい。午前中に取りに行くことを約束して電話を切る。
「はー……よかった」
電話自体は5分もかからなかったから、15分くらい余る。見……ねぇぞさすがに。スマホを置いて視線をそらし、脱ぎっぱなしだった服を着る。……ていうかあいつはあの部屋で何してんだか。
「…………」
……なんだか変な感じだ。ここまで何も知らない相手の、裸だけは知ってるなんて。
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