Side:Hiroto 3 ★
…………。
「ん……」
………………。
…………あー……眠れない。眠れるわけない。
さすがにこの状況下で手出すのは最低だってわかってるからやらないけど、興奮しないかって言ったらそんなこともないわけで。
念のために風呂で1回抜いておいたけど同じベッドに潜ったらまた元に戻ってしまったし……。
(……だって、あんな弱り切った姿で何も持たずにおれのところに来てくれたなんて)
仁さんには申し訳ないけれどすごく嬉しい。こんなおれを見捨てないでくれたことが、頼る先にしてくれたことが、とても。
それだけで嬉しいはずなのに、もっと、と欲が出る。もっと一緒にいてほしい。名前を呼んでほしい。好きだって言ってほしい。褒めてほしい。認めてほしい……。
『悪魔憑きめ』
…………母親に、いつか言われた言葉をぼんやりと思い出す。
そうだね、おれは悪魔に魅入られた。でも、それで幸福なんだからいいじゃないか。
(神様が与えてくださったご縁に背いた罰……)
罰はいまだおれのところには下らない。与えられた苹果ではなく、もぎ取った苹果はひどく甘くて。
「……けー……すけ……」
…………ときどき、ひどく酸っぱい。
また時間が過ぎて。でも全然埒が明かないので少し頭を冷やしてこようと思い静かに身体を起こした。
ちょっと外に出て夜風に当たって……ついでにコンビニ寄って仁さんの分の朝ご飯買ってこよう。歯ブラシもあったほうがいいよな。下着も……買ったら怒られそうだけど念のため……あとひげ剃りっているかな、仁さんひげとか生えてこなささそうだけど……。
確かめようと思って仁さんの寝顔を見る。暗くて見えるわけもない。電気つけ……いや、いいや。買っておくだけ買っておいていらなければそれで……。
ベッドから降りようとしたそのとき、Tシャツの端が何かに引っかかったように止まった。
仁さんの身体の下に挟まってたかな?と思って見下ろすと、いつの間にか仰向けになっていた仁さんの手がそこを掴んでいて。
「…………」
「……仁さん、起きてるんですか?」
「……どこ、行くんだよ」
「眠れないのでちょっとコンビニでも行こうかと……」
「……戻ってくるよな」
「もちろん」
「……なら、いい…………」
手が離れていく。……違う、待った。これは。
「…………行ってほしくないなら、ちゃんとそう言ってください」
「…………」
「少しは素直になったほうが楽ですよ」
「……ちげーし。……そんなんじゃ、ない……」
「寝言で敬介さんのこと呼んでたくせに?」
「────ッ!」
「そもそもなんで仁さんみたいな賢い人がマルチなんかに引っかかったんですか。……そういうのがあるってこと自体は当然知ってましたよね?」
「うるさ……」
「さみしかったんじゃないですか?……敬介さんも、湊先輩も、遠くなった気がして。ちょっと違和感があっても今のさみしさを埋めてくれる『新しい友達』を切り捨てられなくて……」
「……うるさいって言ってんだよ……!」
……本当に、わかりにくくてわかりやすい人。
誰かと一緒にいれば気が紛れる。……今だってそう。別に、おれを選んだわけじゃない。誰だってよかった。ひとりでいなくて済むのなら。
「仁さんはさみしくないみたいなんで、おれコンビニに行ってきます。ついでにちょっと走ってきますね。最近運動不足がひどいし」
「…………」
「起こしちゃってすみません。改めて、おやすみなさ──」
「…………で、くれ」
「…………」
「……行かないでくれ……」
「……触ってもいいですか?」
ずるい質問の投げ方をする。ここにいることと、触れることはイコールではないのに。それでも、ここにただ「いる」だけではおれももう抑えがききそうになかったから。
──仁さんが頷いたのを見て、離れていった手を捕まえるように指を絡めた。
「……っ、ふ……!」
Tシャツをめくって、裸の胸に口づける。ちろちろと舐めるたびに熱のこもった吐息が漏れる。仁さんは自分の手で口を押さえていた。
「声出していいですよ……」
「……んんっ」
いやだ、というように首を横に振る。強情だ。電気をつけるのも拒まれてしまったので、ほとんど何も見えないまま動きと微かなシルエットだけで仁さんの気持ちを察していく。どうしたいのか。どうしたらもっと喜んでくれるのか。
「……やめたくなったら、やめてって言ってくださいね」
「…………悪魔って、言わなくていいの」
しばらくぶりに仁さんがはっきりした言葉を口にした。一瞬驚いて、それから頷いて。……ああ、電気つけてなくてよかったかもしれない。心臓が止まるかと思った。
「……それはおれと本当に縁を切りたいときにしてください。これでも結構傷つくんで」
「……傷つくようなこと言わせようとしてたのかよ。変な奴……」
「それくらい本気で抵抗されたらやめるつもりだったってことです」
舌先に触れる仁さんの胸の先端がぷっくり膨らんでいるのを感じる。脇腹から手を這わせて中心に触れると、びくっと全身が震えた。……身体はわかりやすいのにな。
「硬くなってますね」
「言うな……」
「おれに胸触られてこうなったんですか?それともおれに触られる前からずっと、やらしいこと考えてこうなってたんですか……?」
どっちと答えても仁さんにとっては恥ずかしいであろう質問を投げる。だけど、返ってきた答えはそのどちらでもなかった。
「違う……、……夢を、見てて……」
「夢?どんな?」
「…………敬介に、抱かれる夢……」
…………。
「………………でも、抱かれてたのは、俺じゃなくて……」
「……湊先輩?」
仁さんが頷く。
「だって、あいつら今頃本当に……」
「……まあ、そうでしょうね」
恋人が2人きりで2泊3日って、つまりそういうことだ。おれにだって、仁さんにだって、当然わかってる。
「……なんで、あそこにいるのが俺じゃないんだって、まだ思う。告白もできなかった、くせに……未練だけ、こんな……うざいくらいあって……」
「……いいですよ」
「?」
「おれを、敬介さんの代わりにしても」
「────……」
「想像しててください。敬介さんに抱かれてるところ」
「……お前」
「これ以上は黙りますね」
……うん。
すっぱい苹果を選んだのはおれだ。
食べられるだけ幸運だ。そもそもおれに、愛というものはよくわからない。
(要するに特定の相手に対する執着のことだと思うけど)
そういう意味でならおれは仁さんを愛していると断言できる。初めて見たときから。本当は天使さまじゃないって気づいたあとも。ずっと執着している。
(仁さん)
(──好きです。だから、いっぱい気持ちよくしますから……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます