Side:Minato 7 ★

8月6日。木曜日。ついに、敬介との旅行の日になった。

「……天気なんとか保ちそうでよかった」

「ああ、でも明日はちょっと危ないかもしれないな……」

天気予報は今日が晴れのち曇り、明日は朝から大雨。……特に俺たちが泊まる地域は豪雨が予想されていた。

「状況次第では早めに帰ることにしよう。川沿いの宿だから何があってもおかしくないだろうし、飛行機も予定通りに飛ばないかもしれない」

「うん……」

「……別に、旅行自体を短くするつもりはないぞ。東京に戻ってきて、東京のホテルに泊まればいいんだからな」

「あ、そっか」

「だけど今夜は晴れてほしいな。……地上の天の川、俺も楽しみにしているんだ」

「うん、俺も……!」


***


「わあ……!」

祈りが届いたのか、夜も雲一つない……満天の星が輝く空になった。

お祭りの屋台で買ったりんご飴とフライドポテトを持って、大きな橋に移動する。川一面にきらきらと星の光が反射して輝いていた。

「すごい……。敬介、りんご飴持ってもらっていい?写真撮りたい、写真!」

「ああ」

ショルダーバッグからスマホを取り出して写真を撮りまくる。一通り川と空と景色を写したところで、敬介を振り返った。

「敬介のことも撮りたいからこっち立ってくれる?」

「わかった。……あとで俺も湊のことを撮らせてくれ」

「うん。……あ、折角だから一緒のも撮ろうか」

まずは敬介単独で撮る。……うわー……浴衣すごい似合う……かっこいい……。背景と合わせて一枚絵みたいになるように撮ってから、こっそりズームして顔だけアップのも撮る。ほんと最高すぎる、夢みたいだ……。

「湊、……にやけてるぞ」

「あっ……、……ご、ごめん、敬介がその……かっこよすぎて……」

「……!……不意打ちで照れさせないでくれ」

敬介が口元を押さえながら目を伏せる。……あっ可愛い。これも撮っちゃお。

「って、湊!」

「ふふふ、記念記念」

「……そろそろ交代だ」

「うん」

りんご飴とポテトを受け取って、今度は俺が橋の手すり側に立つ。敬介がカメラを準備している間にりんご飴を一口かじった。おいしい。

「……湊」

「ん?」

「もう一口かじってくれ。撮るから……」

「わかった」

りんご飴を食べているところが気に入ったのか、敬介は何枚か撮っているようだった。スマホを下ろしたので声をかける。

「もういい?」

「ああ、2人で撮ろう」

「じゃあ先に俺のスマホで撮るね」

自撮りモードに切り替えて、腕を伸ばす。背景はほとんど入らないけどしょうがない。自撮り棒持ってくればよかったかな。

「撮るよー。はい、チー……」

敬介が動いた。え、と思っていると俺の持っているりんご飴に横から一口かじりついている。……その瞬間にシャッターが切られた。

「…………」

「……甘いな」

「け、敬介ってそういうことするタイプなんだ……」

「……普段は恥ずかしくてできやしないが……折角の旅行だからな……」

スマホの画面を確認する。驚きでちょっとブレたかなって思ってたけど、今時のスマホの手ぶれ補正のおかげでばっちりきれいに写っていた。

「じゃ、交代!」

敬介のスマホでもツーショットを撮る。さすがに敬介も2回はできなかったらしく、こっちはお互い顔を近づけただけの写真になった。


***


宿に帰って、温泉に入って、2人で泊まる部屋に戻ってきて。

「……湊、ちょっと来てくれ」

「何?」

「ここからも川の星が見える」

大きな窓際に近づくと、細かい砂のようにきらりと輝く川全体が見えた。

「ここから見える景色もいいな」

「うん。近くで見るのとはまた違って、なんかこう……星空が2つあるみたいで……」

天上と地上に瞬く星。天上は明るく静かに、地上は少し暗くなりながらも揺らめいて。

「……来れてよかった」

「うん……」

「……湊……」

見つめ合って、自然に、唇を重ねて。……重ねるだけでは収まらない熱を、互いに感じて。

「…………その、いいだろうか。今晩……」

「……うん。大丈夫。ちゃんと準備してきたから……」

「準備……?」

「ゴムも持ってきたし、あと身体洗ったり……後ろも……」

「…………」

「あ、敬介がその、抱かれるほうがいいっていうなら俺頑張るし、洗い方も教えるし、えっと……」

「……い、いや、そうだな。うん、どちらがどうするか決めていなかったな……」

抱きしめられる。そして、上から、耳に唇が近づいて、囁かれる。

「…………俺は湊を抱きたい」

「……!」

「……いいだろうか」

「もちろん……。……俺も、敬介に抱いてほしい…」


敷かれた布団に移動して、鞄の底に隠していたゴムとローションを取り出す。

「……布団が汚れてしまうかもしれないな。タオルを持ってくる」

「ありがとう」

部屋備え付けのシャワー室から、敬介がバスタオルを持ってくる。それを布団の上に敷いて、俺が下になる形で横になった。

「なるべくゆっくり進めるから……」

「う、うん……」

唇へのキス。額に、瞼に、耳元に。次々と、あちこちに、これまで触れられたことのない場所にキスが落ちる。

(……すごく、優しい……)

頭がぼーっとする。首筋にもキス。声を上げたら、少し強く吸われた。

「…………」

敬介は無言で、だけどどこか楽しそうで。

「敬介……?」

「……いや、なんだか嬉しくてな。……湊が俺のものになった……というと、物みたいで少し微妙な言い方かもしれないが」

「ううん、いいよ。……敬介のものにして」

「……っ」

「あ……っ!」

胸を舐められて声が出た。は、はっず……こんな声出るの俺……。

「湊、……声、我慢しなくていい。もっと聞かせてくれ……」

「……っ、はずかし……」

「全部見せてくれ、今夜は……。全部受け入れるから……」


…………こんな幸せなことがあっていいのかな。

好きな人が、自分を好きでいてくれて。

こんなにも誠実に、優しく、愛してくれて。


「……入れるぞ」

「…………うん」


こんなにも、すごく、うれしくて。


「敬介、……けーすけ、けー……、……ん、んんあっ……!!」




敬介。

好き。

大好き。

世界で一番、敬介のことを愛してる──。



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