Side:Keisuke 4
「宿の予約よし、飛行機の予約よし、旅行雑誌準備よし……!」
「2泊3日だからもう少し色々寄れるかもしれない。俺ももう少し調べてみるから、行きたいところがあったら言ってくれ」
「わかった!」
7月上旬の日曜日。今日は、夏休み中に旅行に行きたいという湊の希望を汲んで2人で旅行の計画を立てていた。……つまりデートである。
学生最後の夏だからせっかくだしちょっといいところに行きたいと湊が選んだのはとある川沿いの温泉宿だった。旧暦で七夕祭りを行う地域で、8月上旬に行くと"地上の天の川"とも呼ばれる、川の水面いっぱいに浮かぶ星空が見られる……というのが決め手だった。
銀河鉄道の夜の映像を見て結ばれたのだから、2人の初めての旅行も星空が見える場所がいい――と。
行き先とやりたいことと日程さえ決まれば、あとは予約などの事務手続きを進めるだけだ。今どきは全部スマホからできてしまうから、湊の家から一歩も出ないまま手続きが完了してしまった。
「楽しみだなー!」
笑顔で言う湊に頷く。一区切りついたところで湊がお茶のおかわりを持ってきてくれて、2人で一息つく。
……そのタイミングで俺から切り出した。
「話は変わるんだが……。……最近、仁の様子が変なんだ」
デート中にこの話をすべきかは迷ったが、相談できるタイミングは今しかなかった。
それに2人で会っているときに他の相手の名前を出しても大丈夫だと思えるくらいには、俺と湊は信頼関係が築けている……と信じていた。
「……やっぱ敬介もそう思う?」
湊は怒るでも不機嫌になるでもなく、純粋に心配そうに声を落とした。頷いて返す。
「忙しいんだろうと思っていたが、……なんだろうな。避けられているような気がする」
「俺も!なんかLANE既読つくのすごく遅くなったし、会話もなんか続かないし、会って話さないかって何度か言ってるんだけど全部はぐらかされてるっていうか……」
「……円と何か関係があるのだろうか」
「わかんない。円は円で何も教えてくれないしさ……仁のこと諦めたわけではなさそうなんだけど、だからといって会いに行ってるわけでも連絡を取ってるわけでもなさそうで……」
「……今更だが、彼はどういう人間なんだ?……いや、その。仁の親友として、仁に相応しい相手なのか知っておきたいというか……」
「敬介、仁のお父さんみたい」
湊がくすくす笑う。……可愛い、と思ってしまうのは許してほしい。決して文脈そのものを蔑ろにしているわけではないのだが、目の前にいるのはやはり惚れた相手なのだ。
「円かあ」
「そもそもどういう経緯で知り合いになったんだ?再履で一緒になったとは聞いたが、それだけで友人になったのか?」
「……あー、……いやもう時効だし言っていいかな……。再履で一緒になったときは当たり障りのない会話しかしてなかったんだけどさ……。空き時間にスマホで…………男同士の恋愛の悩みとか扱ってる掲示板見てるところを見られたんだよね」
「…………」
「それで直球に『先輩ってゲイなんですか?おれもです』……って。そこからなんか懐かれたというか、同じ嗜好の持ち主同士会話するようになったというか……」
「……それって」
……もしや彼は最初湊が目当てだったのでは?という疑問が浮かぶ。湊がそれを察したのか首を横に振った。
「俺もぶっちゃけ『え、もしかしてこいつ俺に気があるの……?』って思ったんだけどさ、試しに聞いてみたらすぐ否定されたよ。『先輩はおれの好みじゃないです』って」
「ばっさりだな……」
「うん。なんかこう、はっきり物言う奴。言えないことのときはするっと話題変えてくるから弱点とかも全然わかんないし」
「…………」
「仁ともちょっと似てるなって思うのは、頭の回転が早くて隠し事ができないなってとこ。なんか見透かされてるっていうか、考えを読まれてるっていうか……」
「なるほど……」
それは仁とは少し相性が悪そうだなと思う。……仁は相手の要望や思考を読み取って先回りするのが得意なタイプだ。そうして会話の主導権を握ったり、場を盛り上げたりする。逆に「読まれ」たり「読み取れない」相手は苦手なはずだ。
「今の時期物理学科って忙しいの?」
「暇ではないだろうが……連絡も返せないほど忙しいわけでもないはずだ。特に仁は就職活動も終わっているし……」
「……だよなあ」
「そういえば湊、この前の面接の結果は?」
「まだ返事待ち。そろそろ決まってほしいんだけど!」
俺の就職活動も先月無事終わっているのであとは湊だけだ。
「全部終わってすっきりした状態で旅行行きたいー」
「そうだな。……いい返事があるといいな」
「うん」
湊の頭を撫でる。目を細めて気持ちよさそうにしているのを見ると、こう……クるものがある。
(いや、我慢だ我慢)
やはりこう、初めてというものは大事にしたい。せっかく旅行の予定を立てたのだからそのときに……。
「……敬介」
「…………」
……キスだけなら、いいだろうか。
顔を上げた湊の顎に軽く触れ、ゆっくり唇を撫でてからキスをする。
……結局、仁の様子がおかしいのでは、という問題は特に解決策がないまま宙ぶらりんになった。
まあ、また連絡を取ってみよう。単に何か違うものに集中しているとか、そういうことかもしれない……。
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