Side:Jin 4 ★
中井駅で降りて、地味な住宅街へ。地味ながら妙にしっかりした造りのマンションに案内された。きれいなエントランスにオートロックまでついている。
「……お前もしかして結構金持ちだったりする?」
「そんなことないです。苦学生ですよ」
「苦学生ってもうちょっとボロいアパートに住んでるもんじゃねーの」
「金がないからこそセキュリティだけは妥協したくなかったんで」
エレベーターで最上階へ。……しかも角部屋ときた。これだけで家賃が相場より1~2万高くなってるのがわかる。苦学生とか明らかに嘘だろ。
「どうぞ」
廊下の突き当たりにある扉を開けると、散らかっている……というわけではなく、純粋になんだか変な部屋だった。部屋の中央にベッドがあって、その隣にサイドテーブル……というか折りたたみの簡素な机があって。部屋のスペースは十分確保されているのに、椅子らしきものがない。四方の壁は本棚でできている。よく見えないが窓すら本棚で塞がれているようだ。
本棚とベッドと机。これだけで構成されている部屋。……湊の家の本も大概だが、こっちはそれに増して少し異質だ。
「見ての通り椅子はないんで、ベッドに座ってもらえますか」
「いや、酒こぼしたらどうするんだよ。床に座るって」
「床の高さに合わせたテーブルも座布団もないです。こぼしてもおれは気にしないんでどうぞ。用意するんで待っててください」
「……」
ちょっとは気にしろよな……と思いながらベッドに腰を下ろす。少しして、ボトルとグラスを持った円が戻ってきた。俺の隣に座って、グラスをテーブルに置く。
「ジンの水割りとかどうですか」
「……水?ロックじゃなくて?」
「結構うまいですよ。ストレートより飲みやすいですし」
「……まあ、もう割ったんなら飲むけど」
捨てるのも勿体ないし、とグラスを合わせるだけの乾杯をして一口。……あれ。
「……なあ、これ本当にジンか?なんか……香りが違うっていうか……」
「ジンです。カクテルベースに使うような普通のジンじゃなくていわゆるクラフトジンってやつですね。柚子の香りとか、結構来ません?」
「あー……言われてみれば確かに、柚子……柚子だなこれ……いいな……」
「いいでしょう」
柚子の他にも……なんだろう、桜?檜?両方?わかんねーけど、植物の香りがする。そもそもジンってジントニックとかのカクテルでしか飲んだことないからこれはなんだか意外だった。ジンってこんな味にもなるのか……。
「……うん、これうめーな……」
「よかった。仁さんに気に入ってもらえて」
「……つーかもしかして、俺の名前と同じだから買った……?」
「いや、下の名前知ったのは昨日なんでさすがに偶然です。……おれ缶チューハイとかじゃまったく酔えない体質なんで、たまに飲みたくなったときのために度数高めのいい酒を何本か家に置いてるんですよ」
「酒つえーってのも大変だな……」
そのままちびちび飲みながら他愛もない話をする。
円はああ言ったが、敬介の話をする気にはなれなかった。終わった恋のことなんて他人に話したところで仕方ない。本屋のバイトの話とか、そういう円が惚れたであろう俺の話を適当に零す。今日話題の盾になってくれた礼としてはそれで十分だろ……。
「……う、……」
…………あれ、ていうか、ジンって度数何度だっけ……。
……飲みやすくて気づくのが遅れた。……あ、やばい。落とす前にグラスを置く。
「仁さん……」
「……悪い、飲みすぎた、かも……。水ほしい……」
「…………わかりました。持ってきます。寝転んでもいいですよ」
「うー……」
背もたれもないベッドの上でずっと座っているのも限界だった。ぽすん、と柔らかい掛け布団の上に倒れこむ。すごいぽかぽかする、気持ちいい、……久しぶりに、こんなに酔った……な……。
「……?」
……なにか、触られてる。
肌に、……肌に?脇腹に、誰かの手が、這って……。
「……ッ!?」
「……あ、おはようございます」
「え、……あれ、え、……なに、ここ、どこ……」
最初に目に入ったのは明るい天井だった。そのすぐ横にシャワーヘッドが見える。……シャワーヘッド?風呂場?なんで?
「仁さんが吐いたんで、仁さんを洗ってます」
「え、俺吐いた?……悪い……」
……って「仁さんを洗ってる?」
「…………は!?」
そこでようやく俺自身が全裸だということに気づいた。水を張ってないバスタブに入れられて、円が俺の身体を後ろから抱きしめながらボディソープを絡ませた手で洗っている。……ってちょっと待て、円も裸なんじゃ、これ……。
「や、……やめろ、何してんだ、お前……っ」
「だから、洗ってるんです。暴れると滑って転びますよ」
「っ……」
胸と腹を行き来していた手が、だんだんと下に移っていく。ぬるっとした感触がチ○コを包み込んで「うあっ」と情けない声が出てしまった。
「ま、て、吐いただけならこんなとこ、洗う必要、な……ッ」
「洗います。……だって仁さん、嘘を吐いたんですから」
「嘘……?」
「敬介さんのことそんな目で見たことないって」
「は……?」
「嘘ですよね、敬介さんのこと大好きで、……今も好きで」
「……っ、く……!」
ぐちゅぐちゅとボディソープが泡立って、上下に擦られて、追い込まれていく。
(なん、なんで……)
逃げようとしても酒のせいなのかうまく手足に力が入らない。バスタブの縁を掴んで押し寄せてくる快楽の波に耐えるのがやっとだった。
「……気づいてました?湊先輩のこと、まるで敵を見るような目で睨んでいた瞬間が何度かありましたよ」
「…………おい……っ」
「先輩はめちゃくちゃ鈍いから気づいてなかったかもしれないですけど、敬介さんはもしかしたら気づいてたんじゃないかな……」
「……あ、……うっ、ちょっ……マジで、やめ、そこ……っ」
「言ったじゃないですか、おれ。全部吐き出してスッキリしておきませんかって」
酒のせいかガチガチに硬くはなってないけれど、それでも確かに身体が反応してしまっている。……くそっ、最悪、なんなんだよ……!早く終われ……!
「だから観念して全部出してくださいね」
円に左腕で胸の辺りを抱きとめられながら、右手で扱かれる。明らかにイかせるつもりの手の動きだ。ふざけんなと睨みたくても首がそこまで回らない。マジで声がこれ以上出ないように我慢するのが精一杯……。
「――――うあッ!?」
急に首の後ろを噛まれた。明らかに噛まれた以上の衝撃が背筋を伝って腰まで落ちる。
「……あ、ここ弱いんですね。耳とか顎とか全然平気そうだったんでどこかなってずっと探してたんですけど」
「い、……今、何した……っ」
「何って、噛んだだけです。次は舐めてみましょうか」
左腕が離れて、俺の後ろ髪を触る。首筋が露わにされるのがわかる。親指の腹が頸椎をなぞったり、舌先が押し当てられたり、唇で吸われたり……。
そのたびに、身体がびくびくっと跳ねる。なんで……なんでだよ、首だろ!?
「や、やめ、……もうやめ……」
「仁さん可愛い……」
「ふざけて……ん、のか、お前……ッ……い、やだ、や、イっ……!」
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