Day2-3 告白ラッシュ
2日目・午前中
学校に行く途中や、教室に入るまでの廊下でクラスメイトに出会うと挨拶をしてくれる。
うれしい。
教室ではネレアやベルデだけでなく、他のクラスメイトも僕に話しかけてくる。
うれしい。
前世ではずっとボッチだったから、こんな経験も初めてだ。
ふと廊下を見ると、ものすごい数のギャラリーがいた。
他のクラスだけでなく他の学年の女の子たちが、出入り口や窓から中の様子をのぞき込んでいる。
「それにしてもヒロト君はモテモテですね。あんなにたくさんの女の子があなたを見に来ていますよ」
「ネレアを見に来てるんじゃないの?」
「私もここまで人気はないですよ」
「無知なヒロト君にお伝えしておきましょう。今、廊下にいる女の子たちですが……」
まるでデータベースのごときベルデの知識が披露される。
―――あの方は豊穣の女神と呼ばれています。彼女のユニークスキル『祈祷』を畑で使えば、その年は豊作になります。この学園で一番おっぱいが大きいです。
―――あの方は聖女です。ものすごい回復魔法の使い手で、近隣諸国の要人の怪我や病気を治す重要なお仕事をしています。神秘的なかわいさです。
―――あの方は公爵令嬢です。彼女の美しさは大陸一と言われていて、様々な王侯貴族から何度も求愛されているけど全て断っているそうです
―――あの方はイチゴタルトがおいしくて有名なケーキ屋さんで働いています。お店の制服がすごくかわいくて、彼女はアイドル並みの人気があります。
―――あの方は類まれな商才の持ち主です。紅茶や香水を販売して大成功を収めた経営者です。あと彼女からはすごくいい香りがします。
「どの女の子もかわいいですね~。はぁはぁ」
紹介して疲れているのか女の子に興奮しているのか、ベルデは鼻息が荒い。
「そんな彼女たちにヒロト君は好意を持たれているんですよ?」
「もの珍しさから見に来てるだけじゃないの……?」
「まだ、そんなことを言っているんですか?そうじゃないことはすぐに分かりますよ」
一人の女の子が教室の中に入ってきた。
みんな遠巻きに見ているだけだったのに、均衡を崩した彼女。
周りから『あいつは何だ?』みたいに厳しい視線が注がれる。
その彼女が話しかけたのは僕ではなくネレアだった。
「ネレア様。少しだけヒロト様とお話させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ」
僕がきょとんとしていると、ベルデがすかさず教えてくれる。
「ネレアさんは王都で1番の歌姫と言われていますが、2番人気が彼女です。ネレアさんのライバル的な売り出し方をしていて、キャッチコピーは歌の女神です。私達より一つ歳が下です」
「へぇ、そうなんだ」
「付属の生徒なのに、この学園の方に入ってくるなんて度胸がありますね」
緊張した面持ちで僕の前に立った。
「……あにょ!……ヒロトしゃん、はじゅめまして!メルレともうしましゅ……」
全然口が回ってなかった。
「はじめまして、ヒロトです」
「……あひっ!ヒロト様がわたひに話しかけてくれた……」
そのまま倒れてしまった。
「ちょっと君、大丈夫!?」
「過呼吸ですね。心配しなくても大丈夫です。それよりもヒロトさんに回復魔法(ヒール)をおかけしますね」
いつの間にやら違う女の子がすぐそばにいた。
メルレの様子を見に来たのんじゃないのか。
「こんなところに彼女が現れるなんて……」
「知っているのかベルデ……!?」
「もちろんです。私は王都にいるかわいい女の子のことで知らないことはありません」
「そいつはすげえな」
「彼女は非常に俊敏性が高くて1ターン目に回復魔法(ヒール)を使うことで有名な回復職(ヒーラー)のアニヤさんです」
「どこで有名なんだ」
「冒険者界隈です」
「1ターン目に回復魔法を使うって意味なくない?」
「お決まりみたいなことです。『回復魔法(ヒール)しちゃった、てへ!』はすごく流行ったんですよ」
「冒険者界隈のことが全然分からない……」
アニヤは何もダメージを受けていない僕に回復魔法(ヒール)をかけてきた。
何か森林浴をしているみたいな、少しさわやかな気持ちになった。
「ヒロトさんに回復魔法(ヒール)しちゃった、てへ!」
「出たっ!本物だぁ!生で聞けるなんて感動です」
「すまん、ベルデ。全然共感できない」
また別の女の子がやってきた。
分厚い財布を僕に押し付けてくる。
「ぜ、全財産さしあげてもいいのでデートしてもらえませんか? お店や土地の権利書とかは後日持ってきますんで」
おい!商売の目端は効くのかもしれないが、男につぎ込むのは間違ってるぞ!!あ、でもいい香り……。
「あなたがどうしても私と結婚したいとおっしゃるのであれば、考えてさしあげてもよろしくてよ」
うわぁ! 侯爵令嬢はツンデレだ!!
「ヒロト様の豊穣をお祈りさせてください」
うわぁ! 近くで見ると本当におっぱいが大きい!!
「ちょっとみなさん!ヒロト君が困ってます!一度に来ないでください」
ネレア、助かる……。
初めて体験したけど、モテモテってこんな感じなのか?
一発ギャグを順番に見ている感じで、モテてるって気分じゃない……。
「あなた達は何をしているんですか!もうすぐ授業が始まりますよ」
廊下で声が響く。
この声は生徒会長だ。
「ちょっと待ってください!私、まだヒロト君に告白できてないんです」
「私もです」
「会長お願いします!私もヒロト様に告白させてください」
女生徒たちが口々に不満の声を上げる。
「……ここはヒロトさんの教室でしたか。分かりました。ただし、あと1人だけ。持ち時間は1分です。それ以上はダメです。指名も私がします。それでいいですね?」
会長が言うなら仕方ない、と彼女たちは引き下がった。
「それではヒロトさん。こちらに来ていただけないでしょうか?」
僕は呼ばれて教壇の上に立った。
女生徒たちが教室に雪崩れ込んで来てからは、告白されているのか一言アピールを受けているのかよく分からない状況だった。
引き続きよく分からないけど、なぜか今からルリノが選んだ女生徒が一人、僕に告白をすることになった。
誰が来るんだろう?
そう思っていたが、ルリノは誰も呼ばない。
僕の目の前に立っているのはルリノ。
少し顔が赤い。
そして、深呼吸をした。
……あれ
今から告白をするのって……?
「会長ズルい……」
「騙された」
「職権乱用だ!」
外野がルリノにブーイングを浴びせている。
「静かにしていてください」
彼女に睨まれると、一気に静かになった。
「ヒロトさん」
「……はい」
「私はみんなから完璧超人かのように言われています。勉強も一番で、戦闘も得意で、生徒会の仕事もこなして……。あと、恥ずかしいですが美しいと言われたりしています。自分ではそうでもないと思っています。私は弱い人間です。ヒロトさんのような素敵な人がそばにいてくれたら、私は少しだけ強くなれる。そんな気がするんです。私を彼女にして頂けないでしょうか?」
ルリノは深く頭を下げて、手を差し出してきた。
僕はその手を取った。
「よろしくお願いします」
僕は
ルリノと
キスをした。
周囲では悲鳴や歓声が上がる。
過呼吸で倒れた女生徒も数人いた。
僕はルリノに小さな声で言った。
「何か僕、たくさん彼女を作りそうなんですけど、問題ないでしょうか?」
「全然問題ないです。その中でも私は頑張って一番になりたいと思います」
カオスな状況の中、授業が始まるベルが学園内に響いた。
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