第3話 武勇伝
「米兵はなぜ殺したんですか?」
「ああ、あの頃は浮浪児で暮らしていたから、米兵がやって来てお菓子をくれるふりをするんです。それで近づいて行ったら、捕まえられて、転ばされて、足を上から思い切り踏んづけられて・・・骨を折られたんです。こっちは病院に行く金もないし、自然に治るのを待たなくちゃいけないのに・・・傷ができて感染症で死んだ子どももいました。みんな酷い目に遭っていたから、俺が殺してやろうと思ったんですよ。返り討ちに遭って死んでもよかった。こっちは身寄りがいないんですから、やけくそですよ」
おじいさんは先日と同じ話を繰り返した。
「よく捕まらなかったですね」
「ええ。それから姿をくらまして、一先ず下関まで逃げました」
「船で?」
「ええ。金がないから貨物に隠れて乗り込んで・・・それからは、食うものがないから、盗んだり、物乞いをしたりしていました。結局、食えないからやくざの使いっぱしりになって」
「え?」
「それでしばらく食わせてもらってました」
「はぁ」上品な雰囲気には似ず、やくざの子分だった時期があるのか・・・。
「私も20になった頃には、いっぱしのやくざ気取りでした。私自身も浮浪児を30人くらい束ねて組を作りましてね、そこの親分。やくざってのは小さい組がいっぱい集まって、大きくなってますからね。その一部なんですが。上の組の親分に頼まれて、私の子分を引き連れていろいろ悪いことをしましてね。恐喝、賭博、暴力、抗争、殺人・・・」
「はぁ」
「こう見えて、私も背中に入れ墨が入ってるんですよ。夏は透けるんで白いワイシャツだと見えちゃったりして」
おじいさんは笑った。
「あ、そうなんですか・・・でも、そこからまた別のところに行かれたんですか?」
「ええ。命を狙われましてね。キャバレーにいい女がいたから口説いて、いい仲になったら、その女が他の組の親分の女で・・・それで、誰にも気付かれないようにして、夜逃げしたんです。大阪まで逃げました」
「その時、いくつだったんですか?」
「25かな」
気が付いたらもう会社のすぐそばだった。俺は近所をもう一回りくらいしてもらいたかったけど、そんなに余裕があるわけじゃないから、おじいさんにお礼を言って、車を降りた。
「明日もお願いしますね。お話が面白くて・・・」
俺は笑顔で別れた。おじいさんは軽く会釈したが、別に俺に対しては何の思い入れもなさそうだった。
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