第3話 成瀬孝弘

「ちょっと待ってくれ!」

 俺は話をぶった切って叫んだ。これ以上は耐えられないと思ったからだ。

「飲み込み切れない! このままだと脳が焼き切れる!」

「僕もそうだったよ」

「少し整理させてくれ。大城さんっていうのはあの、大城薫のこと?」

「そう。大学でサークルが一緒だった大城薫」

「でも彼女は事故で亡くなってるはずだろ。葬儀にも行ったし」

「……意識を取り戻した後、世界に変化は感じられなかった。だが死んだはずの大城さんが、生きて、目の前にいた。僕が異世界にいるっていう疑いを持った理由の一つがそれだ」

「一体どういう事なんだ?」

「多分、パラレルワールドの類なんだと思う」

「大城さんが生きている世界線ってことか……?」

「そう。他にも細かい違いはあったよ。例えば成瀬、向こうの僕は君とは疎遠になっていたみたいだった。電話に連絡先が無かったから」

「そっか……」

「文化や歴史……そういったものは今いるこの世界と変わらないようだった。でもたった一つ大きな違いがあったんだよ。それは、『星』という言葉と『金玉』という言葉が入れ替わっていることだった」

「……聞いてもよく分からない」

「簡単な話だよ。金玉は向こうでは星の意味で、こっちでいう星という言葉は金玉を指すってだけ。例えばこれ……」

 星は本棚まで歩いて、『星の王子様』を手に取り俺に見せた。

「向こうの世界だと、金玉の王子様になってた」

「読むのに抵抗がある本だな」

「星のカービィは金玉のカービィだし、中島みゆきの地上の星は地上の金玉、星野源は金玉野源になる」

「となると巨人の星は……」

「もちろん、巨人の金玉だよ」

 予想通りの返答が返ってきたのに、やけに居心地が悪かった。ただ、そこでやっと俺は重大な問題に思い至った。

「……え、ちょっと待てよ。じゃあ、お前の名前って……」

「ああ。金玉新きんたまあらただ」

「うん。まあ……清潔感はある、と思う……だけど、ということは……」

「そうだよ。僕は大城さんに向かって、『生まれてからずっと金玉だ! 金玉新だ! 星なんて名前じゃない!』って言ってたってことになる」

「……そりゃ帰るだろうな」

「だからあの後すぐに彼女に連絡を取って謝ったんだ。電話に連絡先が入ってたから。……彼女はすんなり許してくれたよ」

「良かったな」

「まあね……。それからしばらくは夢のような日々が続いたよ」

「だろうな……お前、ずっと大城さんのこと」

「……うん。好きだったから」

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