第9話 闇のシークエンス炸裂!すんごい必殺技!!

あたし、ノア!!


今、混沌獣との戦いの真っ最中!!


あいつ、とんでもないのよ!


流留の体内に侵入、寄生してあたしの魔力をたっぷりと吸収して、何とパワーアップしたの!


ちょっぴり、ヒヤッとしたけど、あたし達のコンビネーションとマスター達の支援で何とか追い詰めたところ。


何やら、ナユタがすんごい必殺技を使うみたいよ!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ノア!流留ちゃん!すごいのを使うわ!時間を稼いで!!」


ガイアスに搭乗したナユタがノアと流留に援護を要請する。


「流留!行けるの?」


「フン((( ̄へ ̄井)妾を誰だと思うておる!造作もなき事よ!」


流留は魔力で強化した触手を器用に操り、混沌獣の触手全てに絡み付かせる。


「ふはは!恥れものめ!これで動けまい!」


流留と混沌獣の力が拮抗する。

だが、体格差で劣る流留が混沌獣に引き寄せられる。


「流留ちゃん!」


混沌獣の顔付近に引き寄せられる流留。混沌獣は口を大きくあけ、流留を飲み込もうとしている。


「阿呆が!所詮は獣!叡知の神たる妾の深慮に比べ何と浅はかよのぅ!」



流留の身体が混沌獣に飲み込まれ様とする。


「流留ちゃん!」

「流留!」

ーチビ!ー

ー嗚呼!邪神が!ー

ーあれまー


様子をみていた全員が声をあげる。





その時、混沌獣の顔が爆音とともにあらぬ方向に吹き飛んだ。



ーーー「「!?へっ!?」」ーーー



流留以外の全てのニンゲンが邪神が何をしたのか全く把握できなかった。



「ふはは!これぞ妾の秘技の1つ、マッハシャコパンチじゃ!」



ーーー「「マッハシャコパンチ!?」」ーーー




。。



。。。




「おい、美人(メイレン)」


「何?」


「シャコって、あのシャコか?」


「そうね、あの蝦蛄ね、たぶん」


「何で、蝦蛄なんだ?」


「海の世界での最強パンチャーだから、じゃあないかしら…」


「そ、そういうものなのか?」


「たぶん…」


状況を見守っている、カフェの大人2人が、今の状況に何とか追い付こうとする。


「ねえ、ナオト。私、一番肝心な攻撃方法を試させるの忘れてたわ」


「ああ、俺もだ」


「「物理攻撃。何も考えずに、殴る」」


ため息をつく、大人2人。





。。


。。。



「ふははははは!どうじゃ!どうじゃ!!どうじゃ!!!」


流留はマッハシャコパンチの連打で混沌獣を圧倒的している。

触手どうしを絡ませている状態。要は宙吊りの状態だ。本来ならまともに力など入らないところである。


流留のマッハシャコパンチは腕組みの状態から予備動作なし、ノーモーションで超高速で放たれる。

蝦蛄のパンチは時速80km以上と言われている。流留のパンチにも最低でもそれだけのスピードがあると思われる。

さて、どうだろうか?

流留と蝦蛄のサイズ差を考える。蝦蛄の全長は約15cmほど。今の流留は150~160cm以上はある。

本来、蝦蛄は海中の生き物で地上ではその力のほとんどを発揮できない。だが、邪神の流留にはそんなことは関係ない。


今の流留と蝦蛄のサイズ差は歴然。


単純に10倍!


速度を単純に10倍すれば、流留のパンチは時速800km!


更に、魔力による強化などを鑑みると、優に時速1000kmは超えるだろう。

混沌獣を殴ったときの爆音の正体は、さながら音速の壁を突破する音の様に聞こえる。



「ふはははは!娘よ!早く技の準備をせい!さもないと妾がこやつをやっつけてしまうぞ?」


流留のマッハシャコパンチは、極々単純な攻撃だが混沌獣へ与えるているダメージは大きい。


(ふふふ…効いておるわ!つまり、このマッハシャコパンチはニンゲンの娘や小娘にも有効ということじゃ!今一度誰が支配者か思い知らせてくれようぞ!)


混沌獣にパンチを繰り出しながら、よからぬ事を考える流留。


マッハシャコパンチのあまりの威力に混沌獣が流留を引きはなそうとする。

流留を絡み付けている10本の触手をほどこうとする。


「ふはは!放してよいのかえ?獣よ!離れれば妾の10刀流がうぬを切り刻むぞ?」


流留の言葉が分かったのか分からないのかは計れないが、混沌獣は流留を離す事を選ぶ。

つまりは、それだけマッハシャコパンチが効いていたということだ。


解放された流留は触手の先端からウォーターカッターを噴射させ、例の10刀流で混沌獣を切り裂いていく。




『ナユタ。今のうちに闇のシークエンスの準備を』

「ええ」


流留の活躍を尻目に、ナユタとガイアスは闇のシークエンス発動準備に取りかかる。


ナユタは胸の前で手を合わせ、エネルギーを込める。

そして、ゆっくりと両手を離していく。

その手のひらの間には小さな黒い球体が発生していた。大きさはピンポン玉くらいだ。その球体はバチバチとエネルギーの奔流を撒き散らす。


「く、うう…」


ナユタが苦悶の表情を見せる。


『耐えろ、ナユタ。闇のシークエンス発動にはまだまだエネルギーを圧縮する必要がある』


「わ、分かってる…」


ナユタを気遣うガイアス。

ガイアスの両手と胸の球体のパーツから黒い球体にエネルギーが注入され続ける。


「すんごい、パゥワーね。あの、黒い球体。ブラックアビスと同じ系統の力を感じる…」


ノアはガイアスの様子を見ながら、魔力を集中する。


「流留!とばしすぎ!5分のところ3分も持たないわよ!」


ノアは流留に供給している魔力から彼女がオーバーペースで力を使っている事を示唆する。


「黙れ、小娘が!そのくらいわかっておるわ!チンタラやるのは妾には合わぬ!なれば、魔力を攻撃に転化するわい!」


そう言う流留の身体が縮み始めてきた。

ノアが与えた魔力による活動限界が近づいているのだ。


「くう!もう終りかえ?なれば!」


流留は触腕から水流を噴射し、混沌獣の顔付近まで跳ぶ。


「ふはは!今一度喰らうがよいわ!妾のマッハシャコパンチを!!」


流留は残りの魔力を使い、混沌獣の顔面に正面からマッハシャコパンチを叩き込む。


ベコン!


混沌獣の顔が見事に凹む。


「ふはは!オマケじゃ!」


噴射していた水を止め、頬をパンパンに膨らませる流留。

次の瞬間。


ブシューーーーーっ!!


口から勢いよく黒い液体を混沌獣の顔面から足元に向けて吹き出す。攻撃力はないようだが、ベッタリと黒いものが混沌獣の顔面に纏わりつく。


ーー墨っ!?ーー


カフェの大人2人が口を揃えて驚く。


「ふはは!ただの墨ではないぞ!当面は剥がれんわ!これぞ!スミヘドロじゃ!」


………


ーねえ、ナオトー

ーなんだよー

ー私、あの娘のネーミングセンス、何処かズレてると思うのよー

ー気にするな。俺もだー

顔は見合わせないが、同時にため息をつく、カフェの大人。


………


流留のスミヘドロは攻撃力は皆無だ。ねっとりとしたスライムの様なヘドロ状の墨が混沌獣の顔から足元まで吹き付けられ、行動を阻害している。


「ふはは!動けまい!」


最も、それは流留も同じでべちゃりとカラダ全体で着地する。

「案ずるな!大したことはない!」

ナユタやノアに気を使われる前に声をかける流留。


その間にノアは次の魔法を完成させている。


「全てを打ち砕く緑!破壊の運命!グリーンディスティニー!」


ノアは竜皇が1つ。グリーンディスティニーの力を使う。彼は竜皇の中でも最も強靭な肉体を有する。

その竜皇の力の象徴である鮮やかな緑色の竜の鱗がノアの手足を覆う。


「でえええええええええええーい!!」


ノアは混沌獣との間合いを一気に詰め、ワンツーパンチお見舞いする。

竜鱗は砕け散るのと同時に混沌獣の顔や身体に突き刺さる。

続けざまに顎の辺りから蹴りあげる。

同じく緑の竜鱗が砕け散り、同じく同時に突き刺さる。そして、混沌獣は大きく仰け反る。

その様からノアの繰り出したパンチやキックの威力が伝わってくる。


「これで!」


飛び上がったノアはそのまま強烈な踵落としを叩き込む。その破壊力は強烈で混沌獣は頭から地面に叩きつけられる。

そのまま、ノアは高速で飛行し、地面で潰れている流留を回収し、離脱。


「やるじゃん。ちょっと見直したよ」

「フン((( ̄へ ̄井)うぬに誉められても嬉しくもなんともないわ!今のはなんじゃ!大袈裟な割には殴る、蹴るだけではないか!妾のマッハシャコパンチの方が上じゃ!」

「まあ、瞬発力や連打力はあんたの方が確かに上ね」

ノアは一呼吸置き。

「ムッフフ♪お楽しみは、こ・れ・か・ら♪」

「なに?」

ノアが言うや否や、砕けた竜鱗から植物の芽が発芽。急成長し樹木の枝が混沌獣を拘束する。


「これがグリーンディスティニーの力。司るのは大地の力。もちろん植物も、ね。ま、アイツ自体はとんでもない脳筋だけど…」


樹木の枝で完全に拘束される混沌獣。どんなに暴れようとしてもびくともしない。


「その破壊力と拘束力は折り紙つきよ♪」


ウインクするノア。

(ま、あれで倒せないのは少し癪だけどね)

「ナユタ!今よ!」

ノアの力が混沌獣を完全に拘束する。


『ナユタ!今だ!一気にパワーを集中しろ!』


「ええ!」


ガイアスの胸の前で生み出されていた黒い球体に力が圧縮されていく。

球体が大きくなるにつれ、周囲に漏れるエネルギーの奔流が強まっていく。



ーこ、これはー

パワーの測定値を見ていた美人が驚きの声をあげる。

ーどうしたんだよー

ーガイアスの胸元、ものすごい重力エネルギーが集まっているわー

ーつまりは?ー

ー冬瓜(ドングァ)。ガイアスのあの黒い球体は言うなればブラックホールを超圧縮している様なものよー

ーん?それってー

ーとんでもない、威力ってことよー



「う、くぅ、うう…」


苦悶の表情を浮かべながらブラックホールの圧縮を続けるナユタ。


『こらえろ、ナユタ。後少しだ』


ガイアスの胸の前の両掌の中に生み出されていた黒い球体。超圧縮されたブラックホールはすでにソフトボールくらいの大きさになっていた。


パリッ!パリッ!


迸るエネルギーの奔流が地面や周囲の建物などを削り取っていく。


「あああああっ!!」


遂に、黒い球体がハンドボールくらいの大きさになる。


『由!いいぞ、ナユタ!』


「分かったわ!ノア!流留ちゃんを連れて離脱を!」


ナユタはノアに離脱を促すと、一気に間合いを詰める。


「ガイアス!闇のシークエンス!ファイナルアタック!」

『応!闇のシークエンス、ファイナルアタック!』


『「縮・退・掌!!!」』


ナユタはハンドボール大の黒い球体。幾つものブラックホールを超圧縮したそれを混沌獣に叩き込み、即離脱。

球体が混沌獣に叩き込まれたほんの数瞬で体内の中心部に到達。

そこからエネルギーの爆縮が起こり、爆縮の中心部に混沌獣の身体が飲み込まれていく。

その威力と勢いは凄まじく、混沌獣のコアが脱出しようにもその瞬間すら与えずに中心部に圧縮されていく。


「わぁお、すんごい威力♪」

縮退掌の威力にノアも感嘆の声を漏らす。


『まだだ、ここからだナユタよ』

「うっ、くぅ。分かってる」


距離を取ったガイアスは右手をエネルギーの奔流に向ける。

『縮退掌の威力からの周囲への影響を最小限に押さえ込む。これがこの技の最も難しいところだ』

「う、うん…」

ガイアスの右手が淡く光ると縮退掌のエネルギーが周囲に拡散しないように薄いバリアーの様なものがエネルギー場の周囲に張られる。

バリアーの中で暴れ、渦巻く漆黒の超エネルギーの奔流。気をぬけばバリアーを突き破り、周囲を破壊し尽くすほどのパワー。それを押さえ込むナユタとガイアス。


「ううっ、ああっ!」


苦悶の表情を浮かべるナユタ。


ピシッ!ピシッ!


頬が切れる。

つきだしている右腕から掌にかけポロポロと銀色の皮膚片の様なものが飛び散り、青く輝く液体が出血しているかの様に滴り落ちる。

苦痛に耐えながらも、目を見開くナユタ。


「あああああああああ!!」


気合いを込めて叫ぶ。

バリアーが割れたガラスのように飛び散ると同時に、漆黒の渦巻くエネルギーの奔流も雲散霧消していた。


「良かっ、た…」


ガイアスの中で崩れ落ちるナユタ。気を失った様だ。

『魔法使いの少女、ナユタを頼む』

ガイアスの胸の球状のパーツからナユタが排出され、それをガイアスが優しく受け止める。

髪こそほどけているものの、服などは元の服装。

「ナユタは大丈夫なの?」

駆け寄ったノアはガイアスに問う。

『気を失っている。全身の擦過傷その他、同じく全身の骨にひび程度。特に右腕はひどく、砕けている。だが、この程度ならばすぐに修復されるだろう。大きな問題はない』

ガイアスの冷静な状況説明に、言葉を失うノア。


いや。普通に大怪我なんだけど…


「て、いうか。あなたナユタ以外とも話せたのね」

『ああ、よろしく頼む』

ガイアスの全身を光の粒子の様なものが包む。

『私も活動限界だ。ナユタも活動を一時停止している。では、また会おう、魔法使いの少女』

わずかな時間でナユタをノアに託し、光の粒子と化し、消えるガイアス。


「いや、さすがのあたしも、おいてけぼりなんだけど…?」


姿を消したガイアスのいた場所をぽかーんと眺めるノア。


う、ううっ…


ナユタが目を覚ます。


「ナユタ!大丈夫なの?」

「うん。これくらいなら直ぐ治るから」

ナユタもガイアスと同じことを言う。

「いやいや、普通に大怪我なんだけど?」

「うん。わたし、普通じゃないから…」

言っている側からナユタの全身の擦過傷が治っている。

そして、何事もなかったかの様に、立ち上がる。

「もう大丈夫よ」

「どゆこと?治癒魔法でもつかったわけ?それとも再生能力でもあるの?」

ナユタの状態に頭の追い付かないノア。

「どちらかと言えば後者、ね。後で詳しく話すね」

「うん」


一方、ナユタはノアを見る。

「何か、衣裳がボロボロね、あなた」


「あー、これね?」


ブラックアビスの魔法の反動で服が破けてしまっているノア。

「この衣裳は特別製で、形状記憶、自己修復の魔法がかけてあるの。放っておいてももとに戻るのよ。それに、魔力で強化してあるから防御力、魔法防御力もバツグンなんだから」

ウインクするノア。


ノアの全身を光の粒子が包みこむ。

粒子が弾けとぶと、ノアのコスチュームは先程買った私服に戻っていた。


「じゃあ、カフェにもどりましょうか?」

「そうだね」


ナユタとノアは戦いの場を後にする。

激しい戦いの後のほどよい疲労感を感じながら。


しばらくして


「あれ?流留ちゃんは?」


「あっ、忘れてた…」







疲れて眠っていた流留。


ハッ!と目を覚まし、2人がいないことに気付く。




「おい!小娘ども!妾を置いていくな~!」

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