第8話 げっ!復活!?この混沌獣すんごい面倒!

ノアの活躍により、聖塚市を襲った混沌獣は倒された。




その様子を見守っていたカフェでは。

 

「やるじゃねぇか、あの嬢ちゃん」


「そうね。生身でガイアスと同じくらいの戦闘力を有してるんだもの、とんでもないわ」


「魔法使いってのもすごいわな」


「そりゃそうさね、最強無敵の大魔導師だよ?」


マスターと美人の会話に口を挟む篁。


「よ、よくご存知で」


「孫が大ファンなんだよ。それから、知らないお前さんがおかしいのサ」


カフェ内で軽く笑いが起こる。



その時、美人のコンソールがアラーム音を発する。


「待って!混沌獣の反応、消えてないわ!」


「「なんだって?」」


「こ、これは…」






完全に凍結された混沌獣を尻目に、勝利に胸を撫で下ろす、ナユタ。


「大きな被害がでなくてよかった」


ノアが現れるまで、混沌獣に対しての切り札的存在だったナユタとガイアス。


対処が遅れ、被害を出してしまったことも何度もある。


この度に、悔しい思い、辛い思いをしてきたナユタにとってもノアの存在は大きい。


「ふむぅ…妾がちっとも活躍していないではないか…」


口を尖らせ頬を膨らませる流留。



「まぁまぁ、今回はあんたと混沌獣の能力の相性が悪かったからね~」


ノアが流留をたしなめようとした、その時。


「う、うぷ…」


急に口を押さえ出す流留。


頬がパンパンに膨らむ。


「ど、どうしたの!?流留ちゃん!」


ナユタが流留を心配し、ガイアスから降りようとするが、それを止めるガイアス。


「むむくぐうぷぷ」


人に発音できない音を出しながら苦しむ流留。


今度は胸部が何倍にも大きく膨れ上がる。


手や触手で必死に何かを押さえ込もうとする流留。




だが





腹の中から込み上げてくるそれに抗うことができず。



遂には





「おろろろろろろろろろろろろろ」




「「は、吐いた!?」」




流留の口から黒い"何か"が吐き出される。


口からソレが吐き出されきると、流留は子供の姿に戻っていた。



「な、なんじゃ…なぜ子供の姿に…うぷ…」


四つん這いになり、ぜぇぜぇと息を荒げる流留。


「流留!」


駆け寄るノア。


流留の魔力の流れを確認する。



封印解除の制限時間には至っていない。


それなのに流留が子供の姿に。



ナユタとノアが流留に気を取られている間に、吐き出されたソレは完全に凍結されている混沌獣を取り込んでいた。


「「!?」」



流留の口から出てきたモノと凍結していた混沌獣が融合していく。



ーそうか!そういうことなのね!ー


イヤホン越しに美人(メイレン)の声が響く。


ーそいつは、群体型であると同時に寄生型だったのよ!ー



美人の推測はこうだ。



流留が最初にメガロバイトで混沌獣を喰った時に寄生体兼コアが流留の体内に侵入し、寄生。


ナユタやノアが戦っていたのはコアのいなかった、まさしく有象無象の群体。


その間に、寄生体は流留の体内でたっぷりとノアの魔力を吸収。


ダミーの群体が活動を停止したことにより、姿を現した。


ーということね。この混沌獣は初めてのケースだわー


気をつけて!


美人は状況分析に移る。



「あたしの魔力をたっぷり吸収したってことは…」


ノアは指先を混沌獣に向け、光の魔法、ゴールドインパルスを放つ。



直撃するも、全くのダメージがない。


「やっぱり、ね」


ノアは今の混沌獣に光の力が効かない事を推測した上で、攻撃を仕掛けたのだ。


「あたしの魔力は光属性にものすんごく寄っているの。だから、あたしの魔力をたっぷり吸収したあいつには光属性の攻撃は効かないってことを確かめたのよ」


その間にも混沌獣は形状を変態させていく。


流留の因子も取り込んだのか、本来の腕の他に触手の様なものが8本生え、計10本になる。


「イカ化したわね、あいつ」


「そ、そうね」


触手を生やし終えると、混沌獣は咆哮をあげ、敵であるノア、ガイアスに攻撃を仕掛けると同時に街への破壊活動を強めていく。



『気を付けろ、ナユタ、魔法使いの少女。ヤツのパワーが上昇している』


混沌獣の触手をガードしたガイアスが2人に注意を促す。


「ガイアス!右腕にヴィントスラッシャーの展開を!」


『分かった』


ナユタの指示で右腕にヴィントスラッシャーという3枚の刃を展開させるガイアス。


腕の刃で混沌獣の触手を斬り、対応する。


(相手の触手が多いから迂闊にガイアスの腕を射出出来ないわね)


ナユタも冷静に混沌獣の様子を伺う。



一方のノアは華麗に触手を避けながら魔力弾で牽制をするに留めている。


(お手軽なゴールドインパルスが効かないのは面倒よねぇ…竜魔法はどうしても広域になるからなぁ…)


この世界では元の世界の半分も魔法を使えないノアは戦術を立てるのに難儀している。


「え~い!面倒な触手ね!なら、これ!」


ノアは周囲に水を発現させる。


「ウンディーネスラッシュ!!」


水の刃が触手を切り落とす。


「精霊魔法?精霊魔法が使えるの?」


誰よりも早く反応したのはナユタ。


スタサガヲタクのナユタは誰よりも作品に詳しい。


故に、作中で使われた魔法は全て覚えている。


「まぁね、原界より精霊の力が弱いからその分魔力を使うけどね」


と、ウインクするノア。


しかし、いくら切り落としても直ぐに再生してしまうのでキリがない。



(うぬぬ…水にはあの様な使い方もあるのかえ?)


戦いの様子を伺う流留は密かにノアに感心していた。


「そうか!水の刃なら!ガイアス!バインブレイド展開!!」


『応!!』


ガイアスの右足の脛の部分から巨大な刃が出現する。


「水のシークエンス!流斬脚!!」


『応!!水のシークエンス!流斬脚!!』


ガイアスの脚部の刃が水流を纏う。


そして、その場で中段の回し蹴りを放つ!


脚から巨大な水の刃が放たれ、混沌獣の触手や胴を一気に両断する。


(うぬぬ…この娘も水で刃をつくりよる…)


流留はガイアスの様子も観察する。


(ようし、覚えたぞ!こやつらに出来て、叡知の神たる妾が出来ぬなどありえぬ!)


流留は何か思うところがあるようだ。


『ナユタよ。やはり、根本的なダメージにはならない様だ』


「そう、よね…相手の弱点が定まらない状態では迂闊にファイナルアタックもできないし…しばらくは風や水の刃で食い止めましょう!」


『分かった、ナユタ!!』




たまたま流留の近くに着地するノア。


「ふぅ、やれやれだわ…」


「おい!小娘!」


流留がノアのスカートをつまむ。


「ちょっと、こんな時にスカートなんてめくらないでよ!」


「たわけ!そんなことせんわ!妾も手伝ってやる。もう一度魔力を寄越せ!」


ノアは流留の魔力回路の様子を確認する。


混沌獣とのリンクはされていないようだが、かなりのダメージを確認できた。


「うーん。あんたの気概は買うけど、今の状態だと許可できないな。あんた死んじゃうよ?」


「ぐぬぬ。このまま黙ってやられっぱなしというのも、うぬらニンゲンに任せっきりというのも癪なのじゃ!なんとかせい!」


おっと


とノアは流留の首根っこを掴んで混沌獣の触手を回避しつつ、その場を離れる。


流留の目は真剣そのものだ。



「そうねぇ、あたし達と同じくらいのサイズかつ制限時間5分なら許可できるかな?」


流留の状態を判断した上での冷静な決断だ。


「かまわぬ!やれ!」 


即答である。


ほぅ、とため息を1つついてからノアは流留を放り投げる。


「オーケー。あんたの気持ち、汲んであげる!無理しないでよ!」


『禁書・深淵なる叡知、能力限定解除!!』


ノアは再び流留の封印を解く。


(以外に根性あんじゃん、あのイカ。ちょっと見直したな。ああいうの、嫌いじゃないのよね、あたし)


流留の身体が光に包まれると、人間の大人サイズに変身した。


巨大化状態を人間の大人サイズに縮めたとも言う。


腕を組んでふてぶてしく立つ。


「ふむぅ、このサイズも悪くないの」


流留はキッと混沌獣を睨み付ける。


「よくも謀ってくれたな、許すまじ!!」


牽制と、言わんばかりに口から水の弾丸を飛ばす。


(口から水を吐くのはかわならいのね…)


その様子を見たナユタが少しガッカリする。


(折角、かわいいのに、何か、台無し…)


だが、その水の弾丸が混沌獣の身体を穿ち、穴を空ける。


「「え?」」


その威力にナユタとノアの2人は驚きの声をあげる。


「ふっふっふっ…水を超圧縮させ、高速で射ちだした弾丸じゃ!効くであろう?」



次々に水の弾丸を飛ばす流留。


それは小さいが混沌獣の身体を確実に穿っていく。


(ふっふっふっ。巨大化に割く魔力を攻撃に転化しておるのじゃ、効果がなくては困る!)


冷静に状況をモニタリングしている美人はあることに気づく。



-触手の再生スピードは早いけど、ボディへのダメージの修復のスピードは落ちてきているわ。そのまま攻撃を続けて!ー


インカムを通し、3人に指示が飛ぶ。



「任せよ!」


流留は髪の毛(触手)を器用に動かし、混沌獣の触手に向けていく。


その毛先からは高圧の水が噴射されている。


そして、その水の刃で容易く混沌獣の触手を切り落としていく。


現代科学の理論からいえばウォーカーカッターと同様である。


「ふはははは!どうじゃ!妾にかかればこの程度造作もないわあ!これぞまさしく、10刀流じゃ!!」


ーーー「「10刀流!?」」ーーー


ナユタ、ノア、それからカフェのマスター、美人、篁は口を揃えてその衝撃的な発言を復唱する。


たしかに、10本の触手からウォーカーカッターを出しているからあながち間違いではないのだが…


ーあっはっはっ!面白いネェ、気に入ったよ、あの小さいの!ー


インカム越しでカフェで大笑いする篁の様子が伝わる。


「ようし!流留!そのまま触手を牽制して!」


ノアは少し間合いを取る。


「任せよ!」


流留は高速で鞭の様にしなる触手を動かし、混沌獣を牽制する。


その間にノアは魔法の体制を整える。


「ナユタ。あなた達のシークエンスってこういうこと出来る?よく見ててよね♪」


ウインクする、ノア。


右手に水のエネルギーを、左手に、風のエネルギーを終息させていく。


そして、全く同じ力に調整し、2つのエネルギーを合わせる。


「これが、水と風の属性融合の1つの形!ブリザードスプラッシュよ!!」


ノアがつき出した両手から吹雪が巻き起こり、混沌獣を包む。極低温により、動きを低下させる。

そして、舞い踊る氷の刃が混沌獣を切り裂いていく。


「す、凄い…」


ナユタはノアの魔法に見とれる。


「ガイアス。シークエンスの合成というのは可能なの?」


『分からない。今までの契約者にはそういうことを考える者はいなかったからな。仮に出来たとしても君の負担は大きいだろう。』


「そう…」


ナユタは混沌獣を見据え、自分の取るべき攻撃方法を模索する。


ノアの放つ吹雪と氷の刃が止まる。


冷気のダメージにより混沌獣の動きが鈍る。


「あまり、ダメージないのねぇ、しょうがない!やっぱり、コレしかなさそうね!」


ノアは胸の前で1度両手を合わし、ゆっくりと開いていく。


手を開いていくとそこには小さい黒い球体が出現する。


『凄いエネルギーだ』


誰よりも最初にノアの魔法の威力を感じ取ったのはガイアスだ。


「この魔法は、本来あたしと相性悪いからあんまり使いたくないんだよね~」


ノアが魔力を込め黒い球体を大きくしていく間にもその黒い球体のエネルギーがノアの衣裳を破壊していく。


「あたしの魔力は光属性にものすんごく寄っているの。その対極に位置する、闇の超魔法のコイツは相性悪いわけ」


と、説明するノア。


ナユタにヒントを与えるための説明だ。


さあ、いくよ!


ノアは呼吸と魔力を整え、それを解き放つ。


「全てを飲み込む漆黒の奈落!ブラックアビス!!」



ノアは竜皇が1つ。全てを飲み込む漆黒の奈落、ブラックアビスの力を使う。

文字通り、全てを飲み込む闇のエネルギーを行使する竜皇だ。その力は強力無比。あまりの威力に術者をも傷つけてしまうほどだ。



黒い直径30cmほどの球体が放たれる。


その闇の球体は周囲の空間を削り取りながら混沌獣に迫る。


本能的に危機を察した混沌獣が回避の動きを見せる。


「愚か者め!逃すとおもうたか!」


流留は魔力で強化した触手を伸ばし混沌獣に絡め動きを阻害する。


このままだと混沌獣を縛り付けている触手が闇の球体に巻き込まれると察したナユタが叫ぶ。


「流留ちゃん!巻き込まれるわ!」


「気にするな、娘!妾の触手ならすぐに再生する!」


黒い球体が混沌獣に迫る。


全力で抵抗する混沌獣。


流留の拘束がありながらも半身をずらす。


そこに黒い球体が直撃し、混沌獣の体を飲み込み、消滅する。


「くぅー、外れたかぁ…」


魔法を外したことを悔しがるノア。


「おい!小娘!今のをもう一度じゃ!」


流留が直ぐ様、触手を再生し、混沌獣を牽制する。


「いゃぁ、そうしたいのは山々なんだけど、この魔法、連発できないのよね」


ノアは別の魔法を使い、状況を確認しつつ牽制する。




カフェにて。


「す、すごい威力」


美人が感嘆の声をもらす。


「ありゃー、連発されたらこの界隈消し飛ぶわな~」


マスターも顎をさすりながら感嘆の声をもらす。


モニターを見ているマスターがあることに気付く。


咥えていた飴の棒でモニターを指す。



汚いわね!と、言わんばかりの顔をする美人。



「おい、あいつの再生、遅くねぇか?」


マスターに指摘された美人は、この戦闘中に取った混沌獣の復元のスピードと比較する。


「確かに、邪神から吐き出された後は何が違うわね」


何か気がつくマスター。


「おい、チビから吐き出された後の個体への属性攻撃を受けた後の再生スピードを照合しろ」


「もう!いちいち偉そうね!」


愚痴を溢しつつも、マスターに言われた通りにデータを照合する。



。。


。。。


「やっぱりな、最後の攻撃だけ再生力が圧倒的に遅い」


「そうね、そこから導き出される結論は…」


「「弱点は闇属性だっ!!」」


マスターと美人は顔を見合せ確信の声をあげる。




ーと、言う分析。あいつの弱点は闇属性よ!ー


直ぐ様、美人はインカムで情報を伝える。


「闇属性…」


「闇かぁー、やっぱりねぇ」


珍しく、ノアが困った様な声をあげる。


「ブラックアビスは連発出来ないのよね~。あれくらいの威力の闇魔法はそうそうないんだよなぁ…」


と、ぼやきながらも器用に牽制の魔法を闇の精霊魔法に変えるノア。


「…ガイアス。闇のシークエンスとかないの?」


ナユタは何気なくガイアスに問う。


『……ある…』


ガイアスは少し、間を起き、答える。


『だが、闇のシークエンスは君に大きな負担をかける』


「いつも気をかけてくれてありがとう、ガイアス。でも、大丈夫よ!覚悟はできているから!」


『そうか。やはり、強いな、君は。闇のシークエンスは君が私に搭乗しなければ使えないシークエンスだ』


「なら、やることは1つ!ガイアス!ハート・イン!」


ナユタはガイアスの胸部の球体に飛び込む。


とぷん


穏やかな水面の湖に飛沫をあげずに飛び込む様に、ガイアスの内部に入っていく。


そして、ガイアスの心臓部にあるコックピットにたどり着く。


「ガイアス!アクト・アズ・ワン!!」


ナユタの掛け声と共に、ナユタの髪が銀色に変化しガイアスと接続され、文字通り一心同体となる。



額にサークレット、両手首、両足首に金色のブレスレットの様なものが装着される。


それぞれが地球を模した装飾がなされている。


最後に胸のペンダントが同じく地球の様な宝玉に代わりナユタの胸元に半分埋め込まれる様な形になる。


そして、その胸の宝玉からナユタの全身に蒼く煌めく光の奔流が流れる。


ガイアスにも変化が現れる。


肩や腕、足のパーツが盛り上がりナユタの全身を流れる蒼い煌めきの奔流が、ガイアスの全身にも現れる。


後頭部から銀色に輝く長い鬣の様なものが発現する。


これがナユタ、契約者と一心同体になったガイアスのフルパワーモードの姿である。



『では、ナユタよ。君に闇のシークエンスを伝える』


ガイアスはナユタの脳に直線闇のシークエンスの情報を伝える。


過去の戦いにおいて使われた闇のシークエンスの記録が一気にナユタの頭に流れ込み、フラッシュバックの様に映像が再生される様な錯覚をナユタは覚える。


新しいシークエンスを解放する時の儀式の様なものだ。


「これが、闇のシークエンス…恐ろしい、技だわ…」


ナユタは一瞬で闇のシークエンスの危険性を感じ取る。


『流石はナユタだ。君ならこの技の恐ろしさを直ぐに感じてくれると思っていた』


コクリと頷くナユタ。



だが、今、状況を打開するのはこの闇のシークエンスしかないのだ。



「ノア!流留ちゃん!すごいのを使うわ!時間を稼いで!」



ナユタは、2人に声をかけ、闇のシークエンスの発動準備に取りかかる。



決着の時はもう、まもなくだ。

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