第7話 聖塚市を護れ!あたしたちのチーム、すんごいのよ?

あたし、ノア!


今、あたしはイカの邪神、流留の首根っこを掴みながら混沌獣が現れた場所に向かっているの。


何か、あたしとナユタと流留はチームみたい。


ナユタはともかく、このイカは…


ま、ガーディアンズとしての最初のお仕事、張り切っちゃうよ!


何か、そーりとか言うエライ人も見てるしね!


あたしのすんごさ見せつけますかね!

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街中に現れた混沌獣。



混沌獣は出現と同時に伸縮性のある腕部を振るい破壊活動を始める。


「昨日のとは違うタイプね」


「ふん!どちらでもよいわ!さっさと封印を解かんか!小娘!」



はいはい



ため息をつきながらノアは流留を放り投げる。


『禁書、深淵なる叡知、封印術式限定解除!!』


ノアは流留の封印を一部解除する。


光に包まれ、みるみると巨大化していく流留。



そして



「ふはははは!!


これじゃ!


これじゃ!!


これでこそ妾!!!」


全長10mくらいのサイズにもどりいい気になる流留。


服装もかわいらしいロリータではなく、元々の着物風だ。


「はいはい。さっさと弱点見つけてね」


ノアは多数の魔力球を作りだし、混沌獣に放つ。


「ふん!言われなくても分かっておるわ!」


流留は髪の毛の一部を鮫の頭の様な形状に変化させる。


「ふはははは!!喰ろうてやるわ!」


鮫の頭に変化させた髪の毛で混沌獣に食らいつく流留。



ガブリッ!


両の鮫の口が混沌獣の両腕に食らいつく。



いとも簡単に喰いちぎり、咀嚼。


ゴクリ


飲み込む。



「うぬ?」



小首を傾げる流留。



「どうしたのよ?」



「う、む…ぅ。味がない…」



「?どゆこと?」



「弱点が分からぬ…魔力も獲れぬ…何なのじゃ?」


分けが分からない、という感じの流留は気を取り直し、混沌獣の他の部位に噛みつく。


同じ様に、喰いちぎり、咀嚼。嚥下。


やはり、同じだ…


何度か、同じ様にしてみる。


そして、5度目。


ムシャ、ムシャ


咀嚼するも。


ペッ!


喰いちぎった部位を吐き捨てる流留。


「不味い…


不味い!


不味い!!


不味いいいい!!!


もう喰えぬ!!!!!


さっきの、すぱげってぃなぽりたんとやらの方が遥かに美味ぞ!」


キレだす。


「その鮫口で食べたら弱点分かるんじゃないの?」


「そうじゃが、こやつは何が違う…」


すると、流留が吐き捨てた部位、喰いちぎり地面に落ちていた腕の先などがモゴモゴと動き出し、高速で本体へと戻っていく。


「「もどった!?」」


その頃には混沌獣の身体はもとの通りに再生されていた。


「これは、めんどくさそうね~」


愚痴を漏らすも、何処か愉しそうなノアであった。






ナユタは駆ける。


ガイアスを呼び出すには一定以上の広さが必要だからだ。


ある程度広く、人目につきにくい所。


カフェから普通の人がに走って10分くらいの場所にある神社の公園。


この時間は殆ど人もいないし、混沌獣出現による退避支出も出ている。


10分かかる所をナユタは3分ほどでたどり着く。


ナユタの身体はガイアスの契約者になった時点で強化されているのだ。


そのため、彼女が本気を出した時の身体能力は常人の数倍以上になる。


流留を軽く片手で持ち上げられるのもそのためだ。


勿論、日常生活では問題なく力をセーブできている。



ここなら…



人気がないことを確認し、ペンダントを掲げるナユタ。



「ガイアス!!」



ガイアスの名を呼ぶ。



地面に光のサークルが描かれ、そこからガイアスが姿を現す。


顕現したガイアスはナユタの前に膝をつき、左手を差し出す。


差し出された左手に飛び乗るナユタ。


立ち上がりながらナユタを肩に乗せるガイアス。


『どうした、ナユタ』


「混沌獣よ!今、街の方でノアと流留ちゃんが戦ってるわ、急ぎましょう!」


『応!!』


ガイアスは大きく地面を蹴り、戦いの場に向かう。







一方、その戦いの様子をモニタリングしているカフェでは。


「芳しくねぇな」


「その様ね」


マスターと美人(メイレン)が様子を伺う。 


イヤホン越しにこんな会話が聞こえてくる。


ーおい!小娘!何を手加減しておる!ー


ーしょーがないでしょ!どれくらいの威力で魔法をぶっぱなせば良いか分かんないんだから!一応、街中だしー


なるほど、とマスターは思う。


「ノアっていったか?俺の声が聞こえるな?そのまま話せ」


マスターの声に一瞬びっくりする2人。


ーあら、マスター。今の聞いてたのね?ー


「ああ。街の被害とか気にしてる様だな」


ーそうなのよー


マスターはソファーで足を組ながら様子を伺う篁をチラリと見る。


篁はニヤリと微笑み、頷く。


このやり取りで2人には十分通じるのだ。


「よし!ノア!気にするな、好きにやれ!」


それを聞いた美人がこめかみを押さえ、ため息をつく。


ーマジで!!よーし!見ててよね!ー


そこで、通信を1度止める。


「それで、どうするのよ?」


美人がマスターに聞く。


「今はあの混沌獣の情報分先が先だ。お前の国の言葉にあるだろ?敵を知ればってやつ」


「孫子ね。全く。その辺は抜け目ないのね」


「おう。惚れ直したか?」


「冬瓜(ドングァ)!」



美人は手近にあった紙ナプキンを丸めてマスターに投げつける。


「とりあえず、分析、頼むぜ」


はいはい


と、ため息混じりに答える美人。


その様子を見た篁は喉の奥でクックックッと笑い様子を見守る。


(全く…この子らは、素直じゃないねぇ…)







「突き抜ける黄金の閃光!ゴールドインパルス!」


被害は気にせず戦え!


と、言われたノアは早速魔法を連発する。


マスターが出したこの指示は実に的確なもので、ノアの性格を一瞬で見抜いた上でのものだ。


ノアは昔から



強力な魔法をガンガン使いたい!



という欲求を持っている。


最も、理の守護者としての責務は忘れないので、節度はある程度守っている。



「あら、やっぱり元にもどるのねぇ」



ノアのゴールドインパルスという魔法は光属性による破壊力を超密度に圧縮させ放つものだ。


光の閃光が一瞬走ったと思った次の瞬間に、魔法の対象は致命的なダメージを負っている、というものだ。


手加減した状態で邪神モードの流留の身体の半分は吹き飛ぶ威力がある。


その魔法を持ってしてもこの混沌獣にはダメージを与えられない。


一瞬で身体が元通りになってしまうのだ。


「単発じゃダメか~。じゃあ、再生が追い付かないくらい連発したらどうなるかな?」


ノアは両の手でゴールドインパルスを連発する。



(な、なんじゃ、この小娘はぁ…この威力の魔法をこの速度で連発できるのかえ?)


高速で放たれる魔法に流留は冷や汗をかく。


混沌獣の身体が空間からなくなった様に見える。



「ん~?ダメね、これは」


ノアが攻撃の手を止めると、すぐさま混沌獣は元の形に戻る。


(再生とか言うレベルではないかも…)


混沌獣が思考の為一瞬隙をみせたノアに向け攻撃の構えを取る。


「おい!小娘!」


流留がそれに気付き声をかける。


混沌獣の触腕が伸びる。



その時



上空に輝く白銀の巨体




『ブースターキック!!』



ガイアスが混沌獣に強力なキックを食らわせる。



真っ二つに裂ける混沌獣。


ガイアスが着地をすると、地面がメキメキとひび割れる。



今のキックの威力が推し測られる。



「大丈夫?二人とも?」



ガイアスの肩の上からナユタが声をかける。


「ナユタ!良いところに現れるわね!」


と、ウインクするノア。


「戦況は?」


「ま、あれを見てよ」


ノアは顎で混沌獣を指す。


そこにはガイアスのキックで真っ二つに裂けた混沌獣がもとの形にもどっているところだった。


「再生した?」


「そゆこと、まぁ、再生とは少し違うみたいだけどね…」


肩を竦めるノア。



「何か思うところがあるのね?なら、色々試してみないと!」


ナユタはガイアスの顔をみて



「ガイアス!!ヴィントスラッシャー!!」


『応!!ヴィントスラッシャー!!』


ガイアスの右腕の前腕から3枚の大きな刃が現れる。


「シュトゥルムアーム、機動!!」


『応!!』


ガイアスの前腕が風を纏い、高速で回転を始める。



「いや~、すんごいわね!」



風の刃と鋼の刃の回転が最高潮に達する。


「今よ!!小間切れよりも細かく刻んであげる!!」


『応!!風のシークエンス、風刃旋!!』


ガイアスは風を纏う右前腕を射出する。


射出されたガイアスの腕は風の刃と鋼の刃で混沌獣を切り刻んで行く。


まさしく、ミキサーにかけるかのように混沌獣を刻んでいく。


対象を刻み終わり、前腕がガイアスに戻る。


「やった!」


喜ぶナユタ。


だが、ガイアスは冷静に状況を確認する。


『いや、効果がない』


ガイアスが言うや否や混沌獣は元の姿に戻る。


「そんな!?原子レベルまで切り刻む風刃旋が、効果がないなんて…」



『ふむ。やはり、魔法使い殿の言う様に再生というレベルではなさそうだ』


混沌獣の攻撃を捌きつつ弱点を探す2人。







その頃カフェでは…


「どうみる?」


「そうね、確かに再生能力とは違う気がするわね」


美人がカタカタとコンソールをいじる。


「強いて言うなら群体、かしら」


「群体?」


「ええ。本体、というかコアの様な個体がどこかにいてそいつが超高速で増えたり、千切れたパーツを接合したりしている感じね」


美人の説明にマスターは数秒間こめかみを押さえ考え込み。


「わかった!スイミーみたいな感じだな!」


「ド、、、、って、あながちまちがいでもないわね、その認識」


例えが酷いが美人の言いたいことの認識はしているマスター。


「だったら、そのスイミーを倒さないとこいつは倒せないわけだな」


「まぁ、そうね。でも…」


「でも、なんだよ?」


ため息を1つついて、美人は答える。


「スイミーはやめてあげて。せめてコアとかいいなさいよ」







ーと、いうことだ。分かったか?ー


マスターは美人が導き出した仮説を伝える。


「それは、なんとなく感じてたけど、だからといってどうするの?一通りの攻撃はしてみたけど?」


魔法で牽制しつつノアが答える。


ーそうだな、奴ら自身が行動できなくさせるとか、だな。例えば凍らせる、とかな?ー


「なる♪じゃあ、任せてよ!すんごいの、いっていい?」


ノアは思うところがあるようだが、地球の被害を考え躊躇っていた魔法があるようだ。


ナユタがノアを見る。


カフェでは美人と篁がマスターを見る。


流留は欠伸をしている。



一呼吸置き




ーかまわねぇ!ぶっぱなせ!ー




マスターの一言に、美人はこめかみを押さえ、篁はクックッと喉を鳴らす。




ナユタはため息をつく。




流留はもう一度欠伸をする。




ノアは目を輝かせる。



「分かってんじゃん!マスター!じゃあ、遠慮なく、いっくよー♪」



言うや否や、ノアはキリッと表情を引き締め、魔力を紡ぐ。



「うぬ?何か、寒いの?」



温度に敏感な流留が反応する。



周囲の温度が急激に下がっていく。



「絶対零度の白き恐怖!ホワイトフィアー!」


白い霧の様な冷気が混沌獣の周囲に立ち込める。

竜皇が1つ、絶対零度の白き恐怖の威名を持つ、冷気を自在に操る、ホワイトフィアーの力を解き放つノア。


『ナユタ。私から離れないように』


「え、ええ」


ガイアスはノアの力を感じ、ナユタに注意を促す。



白い霧が混沌獣の周囲を覆うと、それは混沌獣の熱の全てを奪い凍結させていく。


必死に抵抗し、群体を分量させようとする混沌獣だがすでに全身の殆どが凍結している。



「無駄無駄。ホワイトフィアーの冷気に包まれたら最後。後はただ凍るだけよ。絶対零度の霧からは逃れられない」


ノアは魔力を強め、完全に混沌獣を凍結させる。


白い霧が晴れると、全ての熱量を奪われ運動を停止した氷の彫像がそこにはあった。



「ま、ざっとこんなものね」


ノアは腰に手を当て胸を張る。


大きな胸がたゆんと揺れる。



「す、凄い…」


『確かに、物凄い威力の攻撃だ』



ナユタとガイアスもノアの力に驚愕の声をもらす。



混沌獣は完全に凍結し、動き出す気配もない。


「今回はあなたの出番は少なかったわね」


『確かに。だが、私が戦うと多かれ少なかれ被害が出るからな。私が大きな力を使わないのは君の身体のことも考えると、よいことだ』


ガイアスの肩の上でナユタは微笑む。


街はノア達の活躍で護られたのだ。 



カフェでその戦いの様子を見守っていた3人もひとまず胸を撫で下ろすのだった。

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