第4話 ちきゅうの朝!あにめ、すんごい!

PCの画面越しに2人の女性がリモート会議をしている。


一人は30歳程の女性。


年相応の美しさ、聡明さを感じる口元をしている。


もう一人は60歳程の女性。


年齢以上の若々しさとエネルギッシュさに満ち溢れている雰囲気だ。



「ナユタの報告、ご覧になりましたか?」


「ああ」


初老の女性はモニターにノアの写真をアップする。


「別の世界から来た、本物の大魔導師ノア、ねぇ」


「ニュース映像も見ましたが、ナユタの言う様に本物のようです」


画面の片隅にはビッグサイトで起こった騒動の報道の動画が流れている。


「面白いじゃあないか。アニメで見たまんまだねぇ」


「あら?ご存知で?」


「孫が大好きでね、よく一緒に見させられるのサ」


「そういうことでしたか。とりあえず、私は明日、ナユタを通して彼女に会います。ナユタの報告からすれば二つ返事で協力を承諾したそうですから」


「そうさね。頼むよ。また、アタシの所にもあの娘らしい、面白い申請が来てるよ」


「と、いいますと?」


「現代日本で生活させるために大魔導師殿と例の邪神に戸籍を与えてくれ、とさ」


「なるほど、確かにナユタらしい」


「あの邪神は兎も角、大魔導師は頼もしい戦力になりそうだからねぇ…」


「そうですね、会うのが楽しみです。それでは」


「ああ、お休み」


2人の短いリモート会議が終わり、初老の女性は画面をクリック。


ノアの姿がアップされる…




大魔導師ノアの朝は早い。


朝起きたら、魔力を高めるメディテーションを行っている。


1000年以上続けている彼女の朝のルーティーンだ。


大魔導師ノアは理の守護者でもある。


今、メディテーションをしながら自信の感覚を研ぎ澄まし、知覚力を広げ、この世界の理、魔力の流れを感じている所だ。


ゆっくりと目を開ける。


「なるほど、ね」


腕を組む。


「この世界は魔力事態が希薄な世界なのね」


ノアが感じた自分の世界との違い


・魔力事態が希薄であること


・自分のいた世界の天使や魔王の力は感じない


・精霊の力は弱いが感じる


・竜達の力は使える


といった所だ。


昨日1日で大方感じていたことを核心に変えたのだ。



んー!


と、ひと伸び。



「てれび見よっと」


部屋を出てリビングに向かうノアだった。








布瑠部ナユタの朝は早い。


朝5時。


目覚ましが早いか、自分で起きるかが早いかの勝負が毎日繰り広げられる。



~♪


目覚ましの音楽が鳴る。


今日は目覚ましの勝ちの様だ。


目を覚ましたナユタは、ベッドの中で大きく伸びをする。


ベッドから起き上がると、天気を確認。


今日も快晴!


しかも、真夏日の予報!


ナユタは晴れの日は朝、軽く運動をすることにしている。


寝巻きを脱ぎ、ナイトブラを外し、スポーツブラを着ける。


ジャージに着替え、朝のおトイレを済ませ、キッチンで水をコップ2杯飲む。


そして、ランニング。


やや、早めのスピードで20分程走ると、人気の少ない公園に着く。


そして、公園でカンフーの鍛練。


ナユタは小さい頃、身体が弱く、身体を強くするためにおばの影響からカンフーを始めた。


身体も強くなっていき、大きくなるなつれカンフーに興味を持ったナユタはたまたま両親の仕事の都合で訪れていた中国で本格的なカンフーを学ぶ。


今では八極拳、劈掛拳を体得している達人だ。


公園で型の確認を20分程行う。


「おはようございます!」


鍛練中も犬の散歩などをしている人達に積極的に挨拶。


そして、また20分程をかけてマンションに戻る。


戻ったらシャワーを浴び、汗を流す。


その間に洗濯機を回す。


シャワーを終えたら、髪の毛の手入れをしてトレードマークの編み込み。


そして、朝食の用意。今日から3人前の用意だ。



「おはよー、早いね、ナユタ!」


朝食の用意を始めたところでノアが起きてくる。



「あら、ご飯はまだよ?」


Tシャツにハーフパンツというラフな服装のナユタ。


「てれび見て良い?」


ああ、そういうこと。


と言わんばかりの顔でニッコリ笑って「どうぞ。断らなくていいから」とナユタ。


やった!


と、早速覚えたテレビの操作をする。


ノアが少しずつ現代に適応していく姿がナユタには微笑ましい。


エプロンをつけて、ポットにお湯を沸かす。


その間にもノアは


「おお!」



「何これ~!!」



「すんご~い!!!」


等とリアクションを取っている。



「たのしい?」


ナユタはポットにお茶とお皿に個包装されたお菓子を少し用意してくる。


「うん!絵が動いてるよ!面白~い‼️女の子達カワイイ~🎶」


今日は日曜日。


朝からアニメの放送がされており、ノアは魔法少女もののアニメを見て興奮している。


「これはアニメというのよ。大人も子供も夢中になれるの」


「へえ、あにめ、すんごいね!」



ノアは魔法少女もののアニメが気に入ったようで



「あっ!魔法だって!!」


「あっ!!変身だって!!服が可愛くなった!すんご~い‼️」



「おお!まほうしょうじょの女の子3人いる!!剣を使う娘と弓を使う娘だって!!なんかあたし達みたいね!!!」



などなど



今、ノアの見ている魔法少女のアニメはスタサガの三聖人と呼ばれるキャラクターをモチーフにしていると公式の発表がされている。



なお、ノアはその三聖人の1人なのだ。



(あっ!良いこと思い付いた!!)


ノアはムフフと笑い、席を立つ。


「どうしたの?」



「ちょっと部屋に!今思い付いた魔法試してみる!」


完成は見てからのお楽しみね♪


と、意気揚々と部屋に戻る。


「少ししたらご飯だからね~」


と釘を刺すナユタにノアは手をヒラヒラと振って答える。




食卓に出来た食事を並べるナユタ。


トーストに目玉焼き。


シュリンプのコブサラダ。


ミネストローネ。


料理巧者なナユタにとってはパッパッとこれくらい作るのは文字通り「朝飯前」である。


事前に色々と仕込んでるから、なんだけどね。



と、人に聞かれると答えることにしている。



「ノア~!!流留ちゃ~ん!!ご飯よー」



はーい!


と、元気よく返事をして部屋から出てくるノア。


その顔はニンマリしていてどこか嬉しそうだ。


「あ、その顔は上手くいったのね?」



「まぁね♪まぁ、大したものじゃないけど楽しみにしててよね!」


席に着く。


「流留は?」


「起こしましょう」



ナユタは流留の部屋に入る。


「流留ちゃん。ご飯ですよ、起きて!」


流留の身体をゆする。


昨日の電車の中同様、目を空けたまま寝ている流留。


「うぬ?よきにはからえ」


電車で起こした時と同じ反応である。




あっ、この娘、寝ぼけてる時はこれしか言わないんだ…


ナユタは理解する。


とりあえず、寝ている流留をつまみ上げ、食卓に連れていくナユタ。



ほどなくして、流留をテーブルに着かせる。


「よきにはからえ」


その時、流留の鼻がヒクヒクと動く。


「この匂い!海老か!!!!」


大好物の海老の匂いを嗅いで完全覚醒である。



「あら、流留ちゃん、おはよう」


ニコニコしながら流留に朝の挨拶をするナユタ。




だが




「娘!誉めて使わす!妾の好物を用意するとわ!ほらほら、早く妾に海老を寄越せ!!」


「流留ちゃん、おはよう」


ニコニコしながら流留に朝の挨拶をするナユタ。




「ええい!早くせんか!」


「流留ちゃん、おはよう」


変わらぬ笑みで流留に朝の挨拶をするナユタ。



「はよせい!むすめ!妾の餌をださんか!」



「はぁ~、朝のご挨拶をしているのに、出来ませんか?流留ちゃん?」


笑みは変わらずだが、声には凄みが少し。


「じゃあ、流留ちゃんの特別なご飯を用意しますね?」


と、立ち上がり冷蔵庫からタッパーを取り出すナユタ。


そして、何かを取り出し、ザクザクと切り分け、シソとツマを盛り付けた更にそれを盛る。



「はい、どうぞ。美味しいわよ?」


変わらぬニコニコ顔のナユタ。



「うむ。妾のために特別な食事を用意するその心構え、ここな小娘に見習わせたいぞ!」


咳払いをして


でわ!



と、皿を見てフリーズする流留。



「む、むすめ?こ、これはまさか、、、」



「あらあら?イカの沖漬けよ?そろそろ味も馴染んで来る頃だから、朝食べる予定じゃなかったけど、流留ちゃんが、どうしてもっていうから…」



そう、皿の上には調味料で漬けられたイカが無造作に切られ盛り付けられている。



「む、娘?もしかして、怒ってる?」


ニコニコしながらナユタは答える。


「全然怒ってませんよ?


朝のご挨拶をしない流留ちゃんのこと、別に怒ってませんよ? 


ただ、急に沖漬けの塩梅を確かめたくなっただけよ?


ささ、肝も漬かってるから、そのままどうぞ、流留ちゃん?」



ナユタ、激おこである。



顔は変わらずニコニコ。




こういうのが一番怖い(笑)



端から見ていて肩をすくめるノア。



「食べさせてあげますね? 


ほら、あ~んして、あ~ん」



流留の顎を抑え、口を開かせるナユタ。



そして、イカの顔の部分を箸で持ち上げ、流留の口元に運ぶ。



イカの目と流留の目が合う。


目と目で通じ合う、イカどうし。





ひ、



ひ、、




ひいいいいいいあいいいいいあい!!




人には発音できない悲鳴をあげる流留。



「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」



「おはようございます。おはようございます。おはようございます!」



「これから、ご挨拶ちゃんとするから!!!」



「共喰いだけわ!共喰いだけわ!勘弁してくれ!」


ナユタの顎を抑える力が強くなる。



「勘弁して下さい、ごめんなさい」



力を弛めるナユタ。



「そうよー、ご挨拶はしっかりね。じゃあ、こちらのをどうぞ」


2人と同じメニューを渡す。


ただ、海老はお好み焼きとかに入れるあの小さいやつが1匹ある。



勿論、昨日の伊勢海老の件をまだ許していないナユタである。



「い、頂きます」


手を合わせて、いただきますの挨拶をする流留。



「あら?流留ちゃん!いただきます出来るのね?わたし、感心しちゃった!」



女3人よれば何とやら。


賑やかに朝食が進んでいく。




食事を終え、ナユタはノアに珈琲を出す。


ノアと流留はテレビを見ている。



洗い物を終え、自分のカップを持ってソファーに座るナユタ。


「ねぇねぇ、ナユタ!今日は何を教えてくれるの?」


ナユタは珈琲を一口飲んで


「今日はあなた達のお洋服を買いに行こうと思ってるの。


地球では、元の世界みたいにいつも同じ服って分けにもいかないの」



なるほど、ねぇ



ノアは納得する。



「じゃあさ、昨日ナユタがしてた『ぶらじゃー』ってのも買える?」



「ええ、勿論。今日のお買い物でノアには日本でのお金の使い方を覚えてもらおうと思うの」



「そっか~、楽しみ!」



「行くときになったら声かけるから、それまではのんびりしてて」



「はーい♪」




ナユタは流留を見る



「流留ちゃんは?」



流留はスポーツドリンクを飲む手を止める。



「妾は行かぬ。暑い!」


「あら、お留守番できるの?」


「風呂とやらに水をはってくれぃ。そこでおとなしくしておる」



じーっと流留を見つめるナユタ。



「ちゃんと、昨日教えたお風呂のルールを守れるの?」



「守る!守ります!守るからお風呂とやらに水をはって下さい!」



ナユタの「お仕置き」を想像し、出来る娘アピールする流留。


「分かりました。じゃあ、水風呂も用意するね?」


「うむ!よきにはからえ!」



何やかんやとやっている間に


10時頃



「じゃあ、ノア。行きましょう」



「オーケー!」



「流留ちゃ~ん!キチンとお留守番してるのよ!」



しなかったら…お仲間と一緒に干しちゃいますね!



「ま、まかせよ!まかせよ!お風呂とやらでのんびり、おとなしくしてるから!」



おやつはテーブルの上のものだけ!



ナユタが決めたルールである。



「流留ちゃんにはキチンと人間社会のルールを覚えてもらいますからね!」


覚えない場合は、わかりますね?


とニコニコ顔で流留に顔を近付けるナユタ。



「わ、わかっておる。まかせよ!」




くっ、この娘!


深淵なる叡知、深海の邪神クトゥ・ル・ルーに恐怖を与えるとわ!


侮れぬ…


だが、小娘ともども、今に見ておれよ!



と、仕返しの機会を伺う流留であった。



最も、それこそ子供のイタズラ程度の仕返ししか出来ず、逆にお仕置きを受けてしまうことになるのは言うまでもない。





そして、ナユタはノアを連れて街に繰り出す。


女の子どうしでお買い物なんてほとんどしたことがないナユタにとってもとっても楽しみな1日が始まったのだった。

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