第3話 そして、日常へ… ちきゅう!すんごい!
あたし、別の世界からやって来たノア!
ノア・セリーナ!
見た見た?
あたし達の活躍!
あたしがすんごいのは当然なんだけど、ナユタのろぼっと?とかいうのもすんごすぎだよね?
イベントとかいうののショーも楽しかったな~♪
ま、本物の大魔導士ノアが特別出演してたなんて皆、思いもよらないよね?
ムッフフ♪サイコー♪
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ナユタ、ノア、流留の3人が混沌獣を撃退した。
端から見れば、巨大ロボットと巨大な邪神、人間大の魔法使いが戦っているのを見ていた事になる。
ビッグサイトはその話題で持ちきり。
今年のスタサガのイベントは凄かった!
と、SNSで拡散され、今日の出来事は瞬く間に広まってしまう。
「さて、そろそろ帰りましょうか?」
ある程度騒ぎが治まったところでナユタが切り出す。
と、ナユタはノアを見る。
「聞くまでもないけど、あなたその服しかないのよね?」
ノアはキョトンとする。
そりゃそうでしょう
と言わんばかりの顔だ。
「その格好で歩くと。常日頃からノアのコスプレしてる人だと思われるから…とりあえず、帽子と上着と手袋取ろうか」
郷に入っては郷に従う。
とりあえず、ナユタの言うとおりにするノア。
上着の下は黒いベアトップのインナーである。
上着を着ていても分かる大きめな胸がより強調される。
夏も始まり、何とか現代社会に溶け込める服薬だ。
「帰りに、何か羽織れるもの買いましょう」
と、話しているところに。
「あー!いたいた!まだいてくれてよかったよー」
と、イベントのプロデューサーが現れる。
「イヤー、君のお陰でイベントも盛り上がったよ!これ、少ないけど…」
と、急遽ATMで下ろしてきたであろうお金をノアに手渡す。
「どうだい?これからも…」
とプロデューサーが言いかけたところで
「あの、この娘まだ東京に出てきたばかりで此方になれてないので、そういうのは困ります」
行こ
とナユタはプロデューサーに一礼してノアと流留の手を引きながら足早に立ち去った。
その際、とりあえずノアに渡された封筒もナユタが預かった。
「あの寸劇ってのちょっと楽しかったのにな」
「だめだめ。あなたはそういうのには向かない性格でしょ?」
ナユタはスタサガは大のファンだ。
故に、作品を通してではあるが、ノアの性格は分かっているつもりだ。
ま、それもそうか。
と、カラカラと笑うノア。
「おい、娘。妾は先のすぽーつどりんくとやらが気に入った。所望じゃ。出せ」
と、黙っていた流留が口を開く。
「でないと、乾く!干からびる!暑すぎじゃ!」
と、腕をバタバタさせて訴える。
どうやら、流留は暑さに弱い様だ。
「そうね、流留ちゃんも頑張ったからご褒美あげないとね」
と、ナユタは駅の自販機でスポーツドリンクと珈琲を買う。
ピッとボタンを押して、時計をかざす。
ピピッ、と商品が出てくる。
「な、な、な、な、なにその鉄の箱!すんごい!」
はじめて見る自販機に大興奮のノア。
2人にペットボトルを渡し、飲み方を教えて、自販機について説明をするナユタ。
「フフ。原界とは大分文化が違うからとりあえず、驚かないでね」
と、釘を刺すものの元々好奇心旺盛で新し物好き。
何でも自分で体感してみたいノアを押さえきる事は出来なくて…
「な、な、な、な、なにこの大きな鉄の箱!人がいっぱいいるよ!どうやって動いてるの!魔法?」
「これは、電車と言って、電気で動いてるの。とても一般的な乗り物よ」
と説明したり
「なにこれ!階段が勝手に動いてるよ!何かのトラップ?」
「これはエスカレーターというのよ」
と説明をしたり
「なにこれ!何か色々売ってるみたい!」
「これはコンビニね。後でゆっくり寄りましょう」
「なにこれ!女の人がたくさん並んでるよ!」
「そこはおトイレです」
等々
着いたのは新木場駅。
構内の某アパレルショップに寄るナユタ。
「とりあえず、ノアと流留ちゃんの服を買いましょう」
ナユタは手早く、ノアと流留の部屋着や肌着、今、ノアに着させるものを見繕う。
あ、さっきの封筒。
プロデューサーから預かった封筒の中身を見るナユタ。
うわ!結構入ってる!
ナユタは比較的裕福な家の娘でお金に困らないが、入っていた金額には驚いた。
とりあえず、これはそのまま、ノアに渡しましょう。この世界でのお金の説明も必要だし。
そう思い、レジに並ぶ。
ノアの胸のサイズは分からないからとりあえず目測ででブラトップ買ったけど、いいよね?
ナユタがお買い物をしている間ノアは流留を監視?しながら人の流れを興味津々に眺めている。
「とりあえず、わたしが出てくるまでそこで静かに待っててね」
と釘を刺されている。
歩く人、歩く人がそれぞれが違う格好をしていたりしているのがノア的には見ていて飽きないのだ。
一方の流留はベンチでへばっている。
どうやら、兎に角、暑いらしい。
「お待たせ。とりあえず、このシャツを羽織ってね」
とノアにシンプルな夏様のシャツを羽織る。
「うん!いいわね!」
なんとなく、気に入ったノアである。
「ほら、流留ちゃん、行きますよ」
と、流留と手を繋ぐナユタ。
「おい、娘。暑すぎじゃ!なんとかならんのか?」
「ん~、ならない、かな?電車の中は少しなら涼しいと思うけど…」
「ならば、早くそのでんしゃとやらに乗せよ!干からびてしまうぞ!」
はいはい。
ニコニコ微笑み流留の手を引きながらナユタは地下鉄の改札に向かう。
「ねえねえ!立ったままご飯食べてるみたいだけど、あれは何?」
「駅では手早く食べられる所が多いの。立ち食いも多いのよ?」
ふーん。と、感心するノア。
そういえばお腹空いたな。
ノアはふと思った。
「ねえ、ナユタ。お腹空いた!」
そういえば、混沌獣との戦いのあと何も食べてないな、とナユタは思う。
「そうね。家まではまだ1時間以上かかるから、おやつ買ってくるね」
と、改札に入る。
「あ、こんびにだ」
ノアは先程、ナユタに説明されたコンビニを見て指差して言う。
「駅のコンビニは最低限のものしかおいてないのよ。何食べる?」
「ん~、この世界の食文化まだよく分からないからおまかせ」
「流留ちゃんは?」
「すぽーつどりんくを所望じゃ」
はいはい。
と返事をして、自分とノアの分の甘いパン。
(流留ちゃんは海のものの方がいいわよね)
と、流留にはエビマヨのおにぎりとスポーツドリンク。
レジに並び、腕時計をかざして電子マネーで支払うナユタ。
現代人にとっては最早普通の行動である。
が、別の世界から来たノアにとっては違う。
「ねえ、ねえねえ!あなたのその腕のやつどんな魔法なの?さっきもゲートみたいなのもそれで通ってたし!」
ナユタは、ハイテク時計をしている。
ノアからすれば腕輪をかざすだけで品物が買えてるのが不思議でならいのだ。
「コレについては、あなたがもう少しこちらに慣れたら説明するわね」
と、ノアにパンを渡すナユタ。
流留には、おにぎりとスポーツドリンクを。
「ふむ。エサか。喰わせよ」
「はいはい。教えるから次は自分で食べるのよ」
と、おにぎりを準備して流留に与える。
はむっ
と、おにぎりにかぶり付く流留。
目がパアッ~と明るくなる。
「これは……海老か!」
流留は今日一番のご満悦顔でエビマヨのおにぎりをあっという間に食べてしまう。
「娘!美味であった!誉めてつかわす!」
「そう、それはよかったわ」
とニコニコするナユタ。
「ところでさ」
ノアが割って入る。
「何でナユタは『娘』であたしは『小娘』なのよ!」
「ふん!そのままじゃ。妾を敬う気持ちが欠片もないうぬなぞ『小娘』で十分であろう!」
「はあ!?あたし1000年以上生きてるのよ?」
「ふん!たかが1000年程度でいきがるでないわ!小娘が!」
などど、駅のホームで口喧嘩を始める2人。
「2人とも、電車の中では静かに、ね」
と、微妙にナユタに凄まれ、黙る2人。
来た電車にナユタに先導されて乗る。
新木場は始発駅なので問題なく座れる。
ナユタの家は新木場から電車で1時間以上かかる。
まもなく、電車は動き出す。
「ねえねえ。何かまだ夜でもないのに真っ暗になったよ?」
「ああ、この電車は地下を走るの。終点までずっと、ね」
ふーん、と返事をするノア。
それよりも、色とりどりの服や様々な個性的な髪型をした人達を見る方がノアは楽しかった。
流留はというと、座ったまま正面を見たまま動かない。
「静かね、流留」
「そうね。寝てるのかしら?」
「でも、目、開けてるよ」
うーんと2人は腕を組む。
あ
と、ノア。
「こいつ、海の生物の能力みたいなの使えるじゃない?」
「そうね」
「もしかしたら、魚みたいに目を開けたまま寝てるのかもよ?」
まさか
と、一瞬、ナユタは思ったが一概に否定できないところも、ある。
ノアは今日見たことをナユタに色々と聞いていたが、次第に目がとろーんとしてきた。
「もしかして、眠たい?」
「うん、少し」
「いいわよ、寝ても。着いたら起こしてあげる」
電車に揺られながら寝るのって気持ちいいのよ?
と、持論を展開するナユタ。
「そっか~、じゃあ少し寝るね」
目を閉じるノア。
もとの世界から飛んで来て、いきなり色々な事があった。
さすがのノアも少し疲れた様だ。
その間にナユタは今日の戦闘報告のメールを作成していた。
混沌獣との遭遇戦。
異世界から来た魔法使いと邪神の戦い。
ノアは協力的、流留は協力せざるをえない状態。
この2人は単純に地球を護るための戦力になりそうだ、と。そこはクールに。
でも、ナユタの本心は、昂っていた。
あの、大好きな大魔導師ノアが力を貸してくれる!
友達になれそう!!
もっとノアの事が知りたい!!!
などと、想っている内に、間もなくナユタの住む埼玉県聖塚(きよつか)市に着く。
「2人とももうすぐ着くわよ」
すっかり気持ちよく寝ていたノアと流留に声をかけるナユタ。
目を覚まし、ん~、と伸びをするノア。
「あ、もう、夜なんだ」
外の様子を見る。
「ほら、流留ちゃんも」
「うぬ?」
急にハッとする流留。
「何処じゃ?ここは?」
「もう、降りますよ」
「うむ、よきにはからえ」
少しボーッとしている流留。
「あんた、寝てたでしょ?」
「うぬ?それがどうかしたかえ?」
ノアとナユタは「「やっぱり」」と口を揃えて言う。
「目、開けたまま寝てたわよ」
「??普通であろう?何をぬかすやら…これだから地上の生き物は…」
と、ぶつぶつと。
ー間もなく、聖塚駅、聖塚駅~、JRはお乗り換えです。お忘れものありませんようお気をつけ願いますー
電車のアナウンス。
駅入構。
プシュー、という音とともに電車のドアが開く。
聖塚駅に降りる3人。
あ
「暑い!暑い!暑い!暑い!暑い!先程より暑いではないか!娘!何とかせよ!」
と手をバタバタさせる流留。
さながら、ワガママな子供そのもの。
聖塚市は海からも遠く、近くに山もない。
国の計測地になっていないため天気予報などで取り上げられる事はないが、やはり、暑い。
地元民は「ここが一番暑い!」と言うほど。
「はいはい。お家に帰れば涼しいくしますから我慢しましょうね?」
と流留と手を繋ぐナユタ。
一方のノアは…
「あ、またこんびにあった」
「あ、じはんきだ」
「あ、たちぐいだ」
「あ、えすかれーたーだ」
などと指を指しながら教わったことを確認している。
そして
「ここに、切符をいれるのよね?」
改札の通り方を確認し、改札を出る。
もちろん、ナユタはピッと時計をかざすだけ。
「いいな~、それ」
「うふふ、あなたがもう少し、この世界になれたら、ね」
ナユタの住まいは駅から徒歩で15分ほど。
道中でもノアは
これ何?あれ何?
と、気になるものは何でもナユタに聞く。
もちろん
「あ、またこんびにあった」
「じはんき、たくさんある!すんごーい!」
など。
「うふふ。ここがわたしの家から一番近いコンビニよ。飲み物と甘い物くらい買っていきましょうか?」
行く~!
と、ノアも行く気満々。
「よきにはからえ」
と、暑さでぐったりしている流留は、駅から出てからそれしか言わない。
「いらっしゃいませ~!」
コンビニに入ると若い女の子の店員さんが元気に声をかけてくる。
「!?涼しいではないか!」
途端に流留が元気になる。
ノアはコンビニ内をぐるっと回る。
「確かに、駅のこんびによりも品物が多いね!見てて楽しい!」
ナユタは2人に説明しながら、アイスコーヒー、スポーツドリンク。アイスクリーム等を買い物カゴに入れ、レジに並ぶ。
ここでも、ピッ!と決済。
「やっぱり、いいな~、それ」
ナユタは氷の入ったカップを持ち、コーヒーメーカーの前に。
「ここに、このコップをセットして、このボタンを押してみて」
と、ノアに説明する。
言われた通りに操作をするノア。
すると…
「すんごーい!珈琲出てきたよ!こんびにって淹れたての珈琲も買えるのね!すんごーい!」
コーヒーメーカーから珈琲が抽出される様を見て大興奮のノア。
ナユタは別のマシンでアイスカフェラテを作る。
はい、どうぞ。
と、蓋とストローをセットしてノアに渡す。
「へー、こんなにカンタンに珈琲が飲めるんだ!しかも美味しいし♪すんご~い♪」
ノアはコンビニコーヒーにご満悦だ。
今はどのコンビニもこだわったコーヒーを提供してるのよ?
ナユタとノアは珈琲を飲みながら歩く。
ほどなくして、ナユタの住むマンションに着く。
駅チカのタワーマンションの最上階。
間取りはゆうに4LDK。
高校生が1人で住むのにはオーバースペックな物件だ。
「ここで靴を脱いでね」
玄関で靴を脱がす。
「えーっと、この世界の基準はよく分からないけど、あなたのお家、広い?」
「ええ、まぁ…」
このマンションはナユタの両親が買ったもの。
ナユタの両親は考古学者で数年に1度くらいしか日本に帰ってこない。
物件の管理を任されるというか押し付けられる形でナユタが住んでいるのだ。
2人をリビングに案内し、エアコンを調整するナユタ。
暑がりの流留のため、普段より少しだけ冷房は強めに設定。
「直ぐにご飯にするからテレビでも見て待っててね」
ピッ、とテレビをつける。
言うまでもないが、テレビも大きなサイズだ。
勿論、ナユタの両親が用意したものだ。
テレビをつけるなんて、現代人にとってはごく普通の当たり前の行為。
だが
「わあ!なにこれ!大きな板に何か映った!すんごーい!」
ノアはやはり大興奮。
「これはテレビよ。色々な映像が見れるの。後でちゃんと使い方教えるから、いまはその番組見ていてね」
わかった
と、ソファーに腰掛けて足を組むノア。
片手には先程のコンビニコーヒー。
見た目はちょっぴり現代に溶け込んでいるノア。
流留もそれに習い、ソファーにちょこんと座り、近くにあったクッションをぎゅーっと抱える。
キッチン
此方もなかなかなキッチン用具が揃っている。
住まいを整えるのは両親の趣味な様だ。
これだけキッチンが整っているのだから、えてしてナユタは料理好きになった。
クリスマス何かに自分でご馳走を作って親しい友達や知り合いを呼んでパーティーをしたりなんて事もしている。
さて
エプロンをしながら冷蔵庫をあけるナユタ。
今日は遊びに行くことを決めていたのですでに食事のほとんどは仕込みをしてある。
仕込んでおいた料理をレンジでチン!
なお、時折リビングでは
すんごーい!
すんごーい!!
とノアの歓声が聞こえてくる。
それが少しだけほほえましい。
寝かせておいた魚の切り身を手際よく刺身に。
他にも貝や、イカなどもお刺身に。
イカの肝は取り除き、多めに塩を振り、塩辛を仕込む。(今食べるわけではない)
ツマや取り合わせも手際よく用意し、山葵は鮫肌のおろしで擦る徹底ぶり。
あっという間に、大皿に刺し身の盛り合わせを完成させる。
仕込んでおいたつみれでお汁を。
ナユタは魚好きなので、料理のレパートリーも多い。
30分もたたずに豪華な夕食が出来上がる。
なお、これらの魚介類はナユタの知り合いの釣り好きの人からお裾分けをいただいたもの。
その釣り好きの人がナユタの作った肝の塩辛が大好物なので、ナユタはイカをいただく度に作ってあげているのだ。
お料理の前に食事のテーブルにお皿を運ぶと…
「見て!見て!見て!このてれびってのにあたしがいるよ!すんごーい!」
ノアがテレビを見て興奮している。
テレビては今日のビッグサイトでの出来事が報道されている。
「ぐぬぬぬ…」
不機嫌にテレビを見つめる流留。
地上に顕現し、ノアにあっさり撃退された様が先程から何度も繰り返し報道されているのだ。
「こすぷれの人達もいっぱい出てたよ!」
テレビに興奮するノアの姿は子供みたいでほほえましい。
「さあ、2人ともこっちに来て。ご飯にしましょう」
はーい
とナユタに促され、テーブルに移動するノア。
「すんごーい!良いにおいだねぇ!お腹鳴っちゃう!」
「ほら流留ちゃんも」
と後ろから抱え、テーブルまで運び座らせるナユタ。
テーブルにはお刺身の盛り合わせ、つみれ汁にイカ飯が並べられている。
「もう少ししたらオーブンで焼いてるのが出来上がるから、先に食べましょう」
とナユタ。
「あなた、お箸は使えるのよね?」
うん。と答えるノア。
ノアの世界の食事の作法は差程、現代と変わらない。
そのため、ノアはお箸も使えるのだ。
「いただきまーす」
と、用意された料理を食べようとするノア。
「これ、何?」
と、刺身を箸で差す。
「お箸で食べ物を指してはいけませんよ。マナー違反」
と釘を刺してからお刺身の説明をする。
「へー、生のお魚なんだ~。あたしたちの世界ではお魚は生で食べないからな~」
と、何の躊躇いもなく食べていくノア。
「おいしー!」
と、ご満悦。
これは何?これは何?と食べていくノア。
一方、散々、自分が負ける映像を繰り返し見せられ不機嫌な流留は腕を組んで口をとんがらせている。
「エサか。娘、喰わせよ」
と偉そうに言う。
「はいはい。ちゃんと教えるから次からは自分で食べるのよ」
と、一つ一つおかずを口に運ぶ。
「うぬ?これは、鰯か!美味である!」
と、つみれの団子を食べてご満悦。ちょっぴり機嫌も治る。
次のおかずを口に運んでもらう流留。
「おお!カワハギか!」
口にした瞬間に食材を当てる流留。
「これなに?」
「カワハギの肝のお刺身よ。新鮮なものでないと食べられない珍しいものよ」
とノアには食材の説明をする。
「この風味…ホヤか!珍しいの!」
とか
「鮪か!」
「ほうほう、鯛か!」
「こやつは!我が不倶戴天の敵!」
なんのこと?と言う表情のノアとナユタ。
「蛸じゃ!蛸!でも、喰うと旨いの」
と、すっかり機嫌もよくなってくる
そして、ナユタが刺身ではない食べ物を流留の口に運ぶ。
「ふむふむ、これは…」
「当ててみて」
と、ちょっと楽しくなってきたナユタはニコニコしながら流留に聞く。
「こ、こ、これは…」
次第に顔色が悪くなる流留。
「美味しいしわね、これ!中にモチモチしたのとプチプチしたのが入ってるのね!」
「こ、こ、こ、こ。コ、コ、これ、コレ、此れは、此れは…」
とわなわなと震え出す。
「まさか、烏賊、か?」
「当たりよ~、スゴいわね流留ちゃん」
その回答を聞いた瞬間に流留の髪の毛(兼触手)がピーンと伸び、顔が真っ青に。
「と」
そして震える唇が言葉を紡ぐ。
「「と?」」
と、
と、と、
と、と、と…
「共食い…」
とだけ呟き、目をぐるぐるさせ、泡を吹いて気絶する流留。
「あ、コレ、イカに色々詰めたものだったのね!」
「ええ、イカ飯というのだけど…」
………
「こいつ、イカだったのね」
「そう、みたいね」
と気絶した流留をみて呆気にとられる2人だった。
しばらく無言の2人。
チーン
オーブンが調理終了を告げる音を鳴らす。
「あ、焼けた」
ナユタはテーブル中央のお刺身の大皿を少しだけずらしてからオーブンに。
あ、良い感じ
と蓋を開けて、ミトンを着けて鉄板ごとテーブルに運ぶ。
「あ、良いにおいね!」
ノアもオーブンから立ち込める香りについ言葉が出る。
そして、テーブルにそれが運ばれてくる。
「伊勢海老のオーブン焼きよ」
オーブンから鉄板のままテーブルに並べるナユタ。
海老独特の香りが部屋を満たす。
気絶している流留の鼻腔の奥にもにもその匂いは届き…
流留の鼻がひくひくと動く
ガバッと覚醒し、テーブルに飛び乗る。
まだ熱々の伊勢海老を手づかみして、頭から殻ごとバリバリ食べ出す。
あっという間に、2尾の伊勢海老を食べ尽くしてしまう。
「ん~~~~!美味!美味!美味ぃ!」
と、ご満悦でお腹をさすりながらテーブルの上で横になる。
「娘よ、烏賊を喰わせたことは不問にする。またこの海老を用意せよ!」
た
「た?なんじゃ?」
「楽しみにしてたのにー!伊勢海老!!」
と怒りだすナユタ。
「ノアと一緒に食べようと、楽しみにして帰って来たのにー!!」
その怒りは最早止まらない
「流留ちゃんにはお仕置きが必要ね」
と、途端にニコニコしだすナユタ。
「そうね、流留ちゃんのご飯はしばらく烏賊にしましょう。たくさんいただいたから遠慮しないでね?もう、口に、これでもか!って言うくらい、たくさん入れてあげますからね♪」
目は全く笑っていない。
「そうだ!明日も30℃以上の猛暑日だから、流留ちゃんを干しちゃいましょう!肝を取って、直ぐに食べきれない烏賊を干物にしようと思ってたから、丁度いいわよね?」
ひぐっ!
と、人間には発音できない言葉を発する流留。
「あーー、後は食べきれない烏賊をお味噌とマヨネーズで漬けようと思ってたんだ❗流留ちゃんも一緒に漬けてあげますね?」
みぎゅ!!
「あー、それから明日のご飯様に茹でておこうとおもってたから、流留ちゃんも一緒に茹でてあげますね?」
ぴぎゃ!!!
それからそれから、と、考え付くイカの調理法をどんどん口にするナユタ。
流留の想像力が自分に起こるであろうことを想像させる。
そして
ご
「「ご?」」
流留が、言葉を発しだす。
「ごめんなさい。共食いだけは勘弁してくれ…下さい」
謝れるんだ、この烏賊の邪神。
と、ノアとナユタは思った。
「干物も勘弁してください‼️茹でるのも勘弁してください‼️」
「じゃ、お味噌とマヨネーズ漬けね♥️」
「あは♥️衣を着けて~、高温の油で揚げて~、天ぷらやフライも美味しくイカを食べられるわね♪」
油に…入れられる…!?
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません、もうしません、もうしません!」
と平謝りの流留。
その様子を見て、あはは、と笑うナユタとノア。
「そこまで謝るなら、今日のところは大目に見てあげましょう」
とニコニコしながら言うナユタ。
「流留~」
「なんじゃ?」
「ご飯をくれる人と、普段おっとりしてる人だけは怒らせちゃだめよ?」
「ぐぬ、理解した」
今の出来事は、流留に深い恐怖の念を植え付け、これ以降、流留はたまに反抗することはあってもナユタには従順に従う様になったのだった。
流留はもう、お預け状態でナユタとノアはゆっくり話ながら食事を楽しむ。
途中で流留は
「む~、つまらん!妾はてれびとやらを見ている。2人はゆるりと食事せよ」
と、食卓を後にする。
「ん~、どれも美味しいよ!この世界の料理、すんごい!」
食べ終えたノアが感想を述べる。
「うふふ、大魔導師殿にお褒め頂き恐悦至極です」
と、嬉しそうにナユタも答える。
「そうじゃ!そこじゃ!いけいけ!ふははは!流石、妾じゃ!」
流留はテレビにかぶりついている。
先程と違うニュース映像で、混沌獣との戦いが報道されている。
そこではノアにコテンパンにされた流留ではなく、混沌獣と果敢に戦った流留の姿があり、活躍している自分の姿にご満悦なのだ。
「さ、2人とも。テレビは後にしてお風呂入りましょう」
ナユタは2人をお風呂に誘う。
「2人とも着替えはこれね」
ナユタは新木場駅で買ってきた寝巻きとインナーを用意する。
「ナユタの下着?何それ?かわいー♪あたしもしてみた~い」
ノアはナユタの下着姿を見て興味を持つ。
「?ブラジャーのこと?」
ノアはナユタの外したブラジャーを指差して言う。
ナユタのは白地にピンクで模様が入っているかわいらしいものだ。
「そうそう、そのぶらじゃーっての。原界にはなかったものだからさー」
それに
と一言付け加え
「あなたのぶらじゃー、良いものね!品が!あたしもそういう良い品使いたい!」
「あら、よくわかったわね。母から『下着はいつも油断なく良いものを着けなさい!!」って教わって、少し高めのをしてるの」
やっぱり、良いものは違うのね~
と裸になりながらナユタは話す。
「さ、どうぞ」
と2人を浴室に招く。
「おお!水の張った大きな槽があるではないか!気が利くの、娘!」
流留が一目散に浴槽に行こうとしたところを捕まえるナユタ。
「流留ちゃん。湯船には身体の汚れを落としてから入るの。こっちに来なさい」
と、シャワー前の椅子に座らせ、シャワーをかけ始める。
「なんじゃ?ずいぶんと温い水じゃのう」
おぶ
頭からシャワーをかけられシャンプーでわしわしと頭を洗う。
身体も軽く泡立て洗い、シャワーで流す。
「はい、湯船にどうぞ。泳いじゃだめよ」
流留を湯船に浸からせる。
「むお?こっちも温いのかえ?でも心地よいの~」
プカ~、と湯船に浮かぶ流留。
「ほら、ノア。使い方教えるわ」
「うん。見てたから大体分かるけど…」
「けど?」
と、ノアはナユタを頭から爪先まで見渡し…
「あなた!結構スタイルいいのね!」
「へ?」
「服着てたら分からなかったなぁ…」
ノアの言う通り、ナユタはゆったりした服を好むので自分のスタイルが際立つ様な感じではない。
「おっぱいも綺麗な形してるし」
ツンツンとナユタの胸を突っつくノア。
ナユタは意外に胸があり、ノアの言う様に形も整っている。
スラリとした体型で余計な脂肪などはほとんどない。
腹部にはうっすらと縦線が見てとれる。
普段から拳法の稽古で鍛えている賜物である。
見よう見まねでシャワーを使い、洗髪、洗体を済まし、湯船へ入るノア。
「ん~!やっぱりお風呂はいいわね!」
ナユタもノアの隣に入る。
「ねえ、この世界は何て言う世界?」
「ん~、地球、かな?地球って世界の日本という国ね」
「そっか、ちきゅうか!」
ノアはうーんと伸びをする。
「ナユタ。ちきゅうってすんごいね!見るものも聞くものも知らないこと新しいこと、あたしのいた世界とは全然違うのね!」
「気に入った?」
「もちろん!明日からも色々教えてね!」
こうして、別の世界から地球にやって来た、大魔導師ノアと出会った地球の少女ナユタの1日が終わっていく。
大魔導師ノアは恐るべき早さで現代地球に溶け込んで行くのだが、それはまた別のお話……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地球楽しいね!
ワクワク!ドキドキが止まらない!
てれび、サイコー♪
あたしの活躍何度も見ちゃったよ!
でも、ナユタ、面白い娘だよね!
見た見た?
あの烏賊邪神が完全に恐怖に屈したところ。
あたし、笑いが止まらなかったよ~
さあ、明日は何がまってるのかな~♪
ムッフフ♪楽しみ~♪
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