事件検証 @ 体育倉庫

「うーんと、被害者は秋月匠あきづきたくみ。17歳の高校3年生。俺達の高校の先輩だよな。女タラシの有名人」


「光秀くん、最後の一言は余計じゃないですか? 」


「この間の【球技大会ハチマキ事件】だって、女に無駄に愛想振り撒き過ぎるから犯人だって疑われてたろ?

 結局、千紗が真犯人を見つけ出したけどさ。

 そういや、あのときも深読みと考え過ぎで、推理に迷ってたな……。ミステリーオタクの弊害だな」



「全ての可能性を考えて迷うのは仕方なくないですか? 言葉にも行動にも責任が伴うんです。

 探偵は間違う訳にはいかないんです。に頼りきりになりたくないんです。


 ……って、それより光秀くん。秋月先輩は悪い人じゃないですよ?

 先輩も【にゃん太朗のしびれる事件簿】好きって言ってました。

 事件解決のお礼に、このキーホルダーをくれたんです。可愛すぎて家の鍵につけていつも持ってます。

 更には最新刊を今度貸してくれるそうで――」


 ふりっ ふりっ

 チリンッ チリンッ


「千紗っ! いつの間にそんなにあいつと仲良くなったの?! 」


「はい? 何か問題でも? 秋月先輩は良い人ですよ。

 ほらっこれ。目がくりくり、しっぽふさふさで可愛いでしょ~?

 にゃん太朗好きに悪い人はいないですよ。

 光秀くんも先輩にメロメロに――」


 ふりっ

 チリンッ


「なってたまるかっ! 」


「そんなに大きな声を出さないで下さい。

 これは内密な話なんですから。

 先輩は良い人でかっこ良くて、みんなから慕われてる学校のアイドルです。


 そんな先輩の自転車に細工なんて誰がするのか……。

 ここは坂の上にある学校なんだから、ブレーキが効かなかったらどんなことになるかは誰だって想像つく筈です。


 先輩が巧みな身のこなしで自転車から離脱しなかったら死んでたかもしれない。

 今も先輩の意識は戻ってませんし……」



「そんな事件を、なんで千紗は『自分が犯人だ』なんで言ったんだよ?

 千紗がそんなことする訳ないだろ? 」


「そうなんですが……

 いつもの【探偵の勘】が働いて私に教えてくれたんです」


「それって、全ての情報収集が終わった後【犯人を見るとゾワッとする】ってやつ? 」


「そうです。

 事件があった後、聞き込みもして現場検証も済ませて、学校中の色んな人を見た。でもいつものようには勘が働かなかった。


 なら、事件じゃなくて事故なのかと思ってたら、さっきトイレに行って鏡で自分を見た瞬間にきたんです。いつもの勘が……。

 でも、それらしき心当たりも何もないんです。なので混乱してしまって……」



「千紗、それ【勘】じゃなくて、風邪引いて寒気がしたんじゃない? ほらっ」



 ぺた、ぺた。 もにゅ もにゅ



「ちょっ、光秀くん。

 くすぐったいですよ。おでこを触るだけならまだしも、顔をこねくりまわさないでくださいっ」


「ん~、熱はなさそうだな?

 でも、もしかしたら顔だけ冷めてるだけかもしれない。なら――」



 ……ぎゅっ



「なっ! 光秀くん!あ、暑いです……。

 ただえさえ今は7月で、今日は猛暑日ですよ?

 私、汗だっくだくでしょう? 恥……

 ちょ、いや……」


「ん……、俺は全然へーき。

 熱は、どうかな……?

 わかるまでこうして――」



 どんっ



「わ……私は平気じゃありませんっ!

 さっきからなんか近いです!


 光秀くん、背がどんどん伸びて……

 自分が小さく非力な存在に思えるから抱擁したりしないでください。

 こ、恋人じゃないんですからぁ! 」



「千紗、顔真っ赤だよ? やっぱ熱ある? 」



「ありません!

 やはり狭い密室に夏場にいるのは間違いでした。……なんだか、くらくらします。


 放課後空いてますか? 場所を変えましょう。

 頼れるのは、昔からの付き合いで信頼できる光秀くんだけなんです。お願いします」



「くらくらって……大丈夫?

 じゃあ、千紗の好きなチーズケーキが美味しい店、調べてあるからそこにいこっか! 」


「チーズケーキっ!

 いや……こほんっ、分かりました。

 真相究明はそこでしましょう」




 ――ガラリッ


「ん? 光秀くん、なんか人の視線が気になります」


「あ~、 男女2人が汗だくで体育倉庫から出て来たからだろ。

 普段ここあんま人来ないのに見られちゃったな」


 ぐいっ


「……あの、手を引っ張らなくても歩けますが? 」


「いーのっ! ほら、昼休み終わるぞ」



 キーンコーンカーンコーン……




 事件検証はデートなの?

 この会話は何なの?


【事件検証@おしゃれなカフェ】 へ続く

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