事件検証 @ おしゃれなカフェ

 ――♪~♪~♪――


「こ、これは……迷っちゃいますね! 光秀くん」


「だろ~? 好きだと思った。

 奢るから千紗の好きなやつ頼みなよ。

 推理すると頭使うから甘いの欲しくなるだろ? 」


「えっ、自分の分はちゃんと払いますよ」


「いいよ。千紗ん家、小遣い厳しいだろ?

 しかも、こないだミステリー大賞候補の本何冊も買ったって騒いでたじゃん」


「手持ちは確かに少ないですが、だからといって光秀くんに奢ってもらう理由にはなりませんっ」


「ほんと頑固……。

 まぁいいや、どれとどれで迷ってんの? 」


「う~ん、【ブルーベリーのレアチーズ】と【ベイクドチーズケーキ】ですね。どちらも美味しそうで捨てがたいです」


「ん、わかった。すみませーん」


「えっ、ちょっ、光秀くん! 」


「俺と千紗のでひとつずつ。半分こして食べればいーだろ?

 飲みもんはいつも通り無糖のレモンティー。夏だからアイスでいい? 」


「むぅ……光秀くんの好みはないんですか? 」


「俺は千紗が好きなのが好き」


「訳がわからないですよ……」



 ◇○



 カチャカチャカチャ ……


「はい! 千紗ちゃんど~ぞっ 」


「光秀くん、なんか私の方のケーキおっきくないですか? 」


「気のせいだろ?

 ほら、食べながら検証しよっ。

 千紗が犯人とかあり得なさ過ぎる」


「……そうですね。いただきます」


 わくわく…… ぱくっ


「ん~、美味し~っ! 」


「相変わらず甘いものに目がないなぁ。

 ほっぺたゆるんでる。ははっ」


 ぷ~に ぷに


「ん~ゆっくり食べさせてください!

 食事中に遊ぶのは美味しいものに失礼ですよ、光秀くん。

 目の前のキラッキラッのあま~いスイーツに集中です」


「なら、事件検証なんて出来ないな」


「食べ終わってからしましょう!

 そのためにきたんですから」


 ひょい ぱくっ


「ん~甘くておいひぃです」


 にま にま



 ◇○



 ごくんっ―― カチャン……


「ごちそうさまでしたぁ」


「ふふっ、千紗、口にクリームついてる」


「えっ? 」



 くいっ ぺろっ



「ん、甘。んじゃまず事件概要と目撃証言からな」


「み、光秀くんっ! 」

「ん? 」


「手ベタベタするでしょ? 早く拭いて下さい! 」


 ゴソゴソゴソ ぱさ……


「……千紗、やっぱ熱ある?

 顔めっちゃ赤い」


「気のせいです! 早く、始めましょう。

 これ、事件のメモです 」


 ぽんっ


「はいはい。ん~っとここね。

 千紗は相変わらず几帳面な字を書くなぁ。

 読みやすくていいけど。


【事件が起こったのは、7月12日の火曜日。17時半頃。現場は高校の正門から約30メートル先の交差点。


 被害者の秋月匠は自転車で坂を下り、スピードを落とさずに交差点に突っ込んだ。その際に対角上に走っていた自動車側面と衝突。


 秋月本人は車体との接触前に身体を投げ出し、大怪我は免れた。しかし、地面に頭をぶつけた影響で事件から3日経った今でも目を覚ましていない。


 自動車の助手席側のドアは自転車で大きくへこんだ。運転手は自転車の衝撃でハンドルを右に切り、対向車と衝突し緊急停止。

 双方の自動車運転手に大きな怪我はなし。


 もし後続車がいたら秋月も引かれていた可能性あり。】


 ここまではただの事故っぽかったんだよな?」



「そうです。でも、目撃証言があって……」



「うん。えーっと、これかな?


【目撃者は村上亜美むらかみあみ、高校1年生。

 下校中に自転車で坂を降りていく秋月を目撃。元々憧れの存在だったのと、秋月の様子が変だったので印象に残った。


『先輩は焦った様子で手をガチャガチャ動かしてました。

 あんな顔を見るのは始めてでビックリして。ほら? 先輩っていつも穏やかで笑顔じゃないですか。 余裕がなさそうな顔をしてたのでどうしたんだろ? って思ったんです。


 気になって坂を凄いスピードで降りていく先輩の背中を見てたら、そのまま交差点に突っ込んでいってしまって……。


 衝突前に自転車から飛び降りたのが見えたけど、スピードが出てたから、そのまま地面に叩きつけられて。


 私は必死で先輩のところまで走っていって、救急車を呼びました。頭から血が流れていて、顔が青白くて……。


 あんな先輩の姿は思い出したくないです。死ぬような怪我じゃなくて本当に良かった。でも怪我だって……。

 先輩、早く目を覚まして欲しいです。


 手をガチャガチャしてたのは、ブレーキを操作しようとしてたのかな? と思います。

 全然スピード落ちる様子はなかったんですけど。ブレーキが壊れてたのかなぁ?


 その日の朝に、見かけた時はそんな様子なかったんですけどね。華麗なハンドル裁きとブレーキングで曲がり角を曲がって……


 あっ、ごめんなさい。私先輩に憧れてて……。

 いや、ストーカーとかじゃないですよ!

 つい、目がいっちゃうっていうか。目立つので。

 あんな王子様みたいに完璧な人いないですよね? テニス部のエースで、勉強も出来て、誰にでも優しくて。

 私は絶対に先輩派です。千紗先輩は――』


 ……千紗、こんなに一言一句違えず書く必要ある?

 読んでて吐き気がしてきたんだけど?」



「あります。何が事件解決の鍵になるかなんてわからないですから」


「ふ~ん、じゃあ次は自転車についてだな。ブレーキがのか、のかだと大分違うから。

 えーっと――」


「光秀くん、大変です」


「へっ、どした? 」


「お店が混んできました。

 個人情報も含みますし、お店にも申し訳ないので場所を変えましょう」


「ああ、いいけど何処に行くの? 」


「私の家です。

 今日は家族のカラオケの日なので誰もいません。私も行きたかったけど、事件解決が先なので断りました。


 2人っきりなら丁度いいですよね。

 誰にも邪魔されません! 」



「……えっ、千紗。それどういう意味? 」



「探偵と助手による事件解決のミステリーナイトですっ!」


「……ふ~ん、俺の長年の悩みも解決するといいな」


「へっ? 何か言いました? 」


「いや……、じゃあ、行くか 」




 果たして事件の真相は……?

 本当に犯人は千紗なのか!?


 2人のミステリーナイトはミステリーだけで終わるのか!?


 【事件検証@迷探偵の家】に続く

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