第7話 ドSとドMの混沌たる世界へようこそ
作家とは、なんなのだろうか?
どうすれば、作家になれるのだろうか?
何を持ってして、良い作家というのだろうか?
きっと誰も知らないであろう、その答え。
作家であろうと、編集であろうと、読者であろうと、きっとその答えを知っている者なのなど、どこにもいないのだ。
それを知っているという人は、きっと、何も知らないことと同じだからだ。
もちろんそれは、僕にだって当てはまることで。
知りたいその答えは、それは知り得ることのない先の領域で待っている。
だけど僕も半人前のくせに、一丁前に、小説なるものを書いている。
──ま、出版はしていないから、ただ『書いている』だけなのだけれども……。
おい、そこの君、ほくそ笑むのはやめたまえ。
ごほん(と一つ、咳払い)では、話を続けさせてもらうよ。
では、作家とは何をする人のことを指すのか?
それは小説を創り出す人間のことだ。
小説と書くいうのは、簡単なようで簡単なことではない。文字を書くだけであれば、その言語を話す者にとっては容易いことだろう。
しかしだ。小説を書くというのは、物語を紡ぐということだ。
それは……、
何もない真っ白な世界に、
木々を生やし、
草花を咲かせ、
人を生み出し、
そして育て、
世界を創り上げていくということだ。
そして、その産み落とされた世界の中で、
ドラマを開花させて、それを狂わしく散らすこと……。
それまるで、仮想空間の神になるかの如く。
それは危うく美しい所業なのだ。
それが少なくとも僕にとっての、小説の書き方というものだ。
しかし──だ。
物事は易々とはいかないもので、そうは問屋が卸さない。
それもただ書いているのではなく、それは小説賞の公募へ向けたりだとか、
売れようとして書いているのなら、特に──である。
それはなぜか?
それは、
生み出される新たな世界を自身の中で自己完結するだけで、終わせてはいけないから──である。
自分一人が神として栄える、自分のための物語。それならば、好き勝手描くだけでいい。
しかし、
民主主義のための(公募という名の壁が立ちはだかり)、
民主主義による(編集という名の声が入り)、
民主主義へ向けた(何千もの公募作品から一握りの賞を勝ち取り)、
民主主義の本(そして売れるという大前提を基にしての出版)。
それは、まさに蜘蛛の糸を掴むかのような所業なのだ。
少なくとも、僕にとっては……ね。
自分自身を窮地にまで追い込み、傷みつけ、悩み、苦しみ、足掻き続ける毎日。
そんな終わりなき道を進んでいる、僕はたまに思うんだ。
「僕はどうしてこんなに苦しいのに、毎日原稿へ向かうのだろうか」と。
だけど、好きなのだから仕方がない。渇いた心に水をやるかのように、僕はせっせと小説を書いているのだから。
きっと僕はドMなのかもしれない。
いや、これだけ自分を虐げるのが好きならば、それはドSなのだろうか。
どっちだろうか。
答えは一つ。きっと、それは二つに重なる混沌の狭間だ。
そこで溺れないようにもがき続けることが、何もない白い世界に世界を創る──僕たち作家の業なのだ。
君は、その混沌の中にいるのかな?
それとも、その混沌たる劇を鑑賞する客人なのだろうか。
君がそのどちらであっても、僕は君を歓迎するよ。
美しくも苦しい、狂った世界へ、ようこそ──と。
今日は、こんなことをこの壺の中へ掃き溜めていくさ。
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