第2話 僕

 


 僕と、名乗ろうと思う。

 

 僕は、別に誰と言うこともない、ただの人さ。

 だけれども、きっともっとわかりやすい情報開示が必要だろう。脳内が真っ暗闇のままでは人は、脳細胞にシグナルを送るにも心許こころもとないだろう。


 シグナルを送るには燃料がいる。その燃料を受けシグナルは光り、そしてそれを送り流すことで自然と脳は明るくなる。暗闇のままではヒトは何も理解が出来ないんだ。

 まるで、本能で闇を恐れる動物と一緒だね。


 そしてその燃料という名の情報は、それはつまりは絵画でもいいし、写真でもいいし、文章でもいいだろう。イメージが湧かなければ、ヒトはそのヒトを身近には感じることが出来ないのだから。


 モナリザを見た時、ヒトはより理解を深めるために、その絵をもっとまじまじと見るようになるだろう?


「美人を紹介するよ!」

 と言われるよりも、

「目がクリッとして足が長い名古屋美人を紹介するよ、彼女はとても肌が綺麗なんだ!」

 と言われた方が、きっと美人という名詞も説得力が上がる。(ちなみに、僕は名古屋に美人が多いのかどうかは知らないよ。行ったことがないからね。)


 だから、僕が僕と名乗る以上の、〝僕〟以上の情報開示が必要だ。

 でなければ、これからこのつぼに僕がめていくことに、きっと君は親近感を抱いてはくれないだろう。


 ヒョロヒョロと長い前置きはこの辺にして、僕の話をしよう。


 僕、名前はこの文章の作家欄を確認したらわかるよ。

 まぁ、勿体もったいぶることもないね、僕は猫憑ねこづきケイジ。

 でも、ここでは、僕でいい。


 名古屋には行ったことはない。北海道にも行ったことはない。

 それ以外は、どうだったかな。


 この物語は、物語りではない。

 だけど、ある種の物語りなのかもしれない。君が、『エッセイはその作家の物語だ』と思うのであれば、僕が書こうとしているこれも、きっと物語りなのだろう。

 一つはっきりと言えるのは、れはフィクションではなくて、僕の心を掃き溜めているものだから、ノンフィクションだ。


 僕は実際に存在する人間であるし、いつもこんな風に訳のわからないことを考えている。そして、その辺にいる人に「何言ってんの?」と言われることも日常茶飯事だ。


 僕は30代。詳しい年齢は言いたくない。


 性別は、君の判断に任せるよ。おじさんかもしれないし、おばさんかもしれないし、それのどちらでもないかもしれない。


 僕は日本には住んでいない。

 僕が住んでるのは、もっともっと遠い他の国だ。

 コロナとかいう菌のせいで、日本の土を踏んだのはもう何年も前のことだ。行こうと思っていたら行けない世の中になり、なんだかんだ五年程になるだろうか。

 もしかしたら、もっと長いような気もするし、そうでない気もする。最後に日本という国に立ったのは、はて、いつだったか。


 僕は日本で育った。

 だけど、もうずっと日本には住んでいない。異国の地に腰を据えて、13、いや14年くらいになるだろうか。そして、お前は日本人なのかと聞かれたら、なんと答えたらいいのかもアヤフヤな人間だ。

 日本人の両親に日本で育てられ、そして、今は、僕は日本人であって日本人ではない。


 まぁ、これ以上はいう必要もないから、言わないよ。


 そして、これがきっと一番重要な情報だ。


 僕は、文字を書いている。


 それだけは、確かな情報だ。

 きっと、これを読んでいる物好きな君も、文字を書いているヒト、もしくはそれに準ずるヒト、それか文字を読むのが好きなヒトと僕は推測する。


 さて、ぼちぼち、僕が〝僕〟以上の情報を開示したことによって、僕という人間を少しはイメージしやすくなったかい? 君のシグナルに色は灯ったかい?


 それなら、準備は完了だ。

 これから始めるよ。僕の掃き溜めに壺へ、うこそ。

 一瞬でも楽しんでいってくれたら、嬉しいよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る