エピーソード20
「はぁ、はぁ…ここは、カジノ中の小劇場じゃなく、その隣にある劇場だよキボルスさん」と、エルトはしんどそうな顔でそう言った。
「っ!」何かを悟ったが、でも何故、いつからこんな事が起きてるのか見当もつかないキボルス。
「ふっふん、じゃあ、今回は私がキボルスさんに説明しましょ、エルトくんたちと同じ、立場逆転ですね」と、自慢げな顔をするノヴァーリスは状況を説明し始めた。
「実は、廊下で歩いてる時、私は、通信魔法で一度、私たちの状況を仲間に報告したの」
「……」キボルスは沈黙。
「そしたら、その仲間がアドバイスをしてくれた。お父さんは狙った獲物は逃さない、必ずどこかで私たちを監視してるから、逃げるのは無駄。でも、お父さんは絶対に約束を守るから、彼がゲームと言ったら大丈夫と言ったの」
「…コルチカム?!」と、キボルスはまさかノヴァーリスの仲間がコルチカムだったことを、驚愕をしてる。
「そ!コルちゃん。そしてね、通信で色々相談してたら、エルトくんがある作戦を思い付いたの。名付けて、キボルスさんを騙す大作戦!です。パチパチ」
「今適当に考えただろ作戦名、ていうかそのまんまじゃないか!あいたっ、それより、僕の傷直してくれないかノヴァーリス、冗談抜きでそろそろ死ぬ」と、エルトはツッコんだ。
「あっごめんエルトくん、忘れてた、今行きますね」テヘペロ顔をしながらエルトの前に、杖を手に構えて呪文を唱えた。そうだ、彼女の魔法はスマコンに登録出来ないから、毎回詠唱しなければならないのだ。
「
魔法の詠唱が終わった後、いつも淡い光を発してる彼女の杖が、普段よりも一段と光が増した後、すぐ光が消えて、見た目が普通の金属製短剣になった。その消えた光がまるでノヴァーリスに吸われたかのように、今度はノヴァーリスが光り輝き始め、発光してる彼女を中心に魔法陣が展開され、その範囲内にいるエルトの傷口が、徐々に塞ぎ、消えてて行く。しばらくして、傷口どころか、服まで元に戻った。
「今回は2回目だな、悪いなノヴァーリス、いつもありがと!」とエルトは礼を言った。
「ううん、私は平気だよ。でもね、何回も言いますけどこれ、治癒魔法じゃないから、痛みや失血、ましてや消耗した体力は回復出来ないからね、しばらく無茶をしちゃだめだよエルトくん!」
「ハッハッハ、噂は聞いていたが、この目で見たのは初めてた、まさか本当にこんな魔法が存在するとはな!」とキボルスは感心し、笑った
「あっ、説明は途中でしたねキボルスさん」と言って、ノヴァーリスは何故キボルスが隣の劇場にいるのか説明を再開した。
「実は、これらは全て私の魔法ですよ。んん、魔法というより、幻術ですね、全部で3つです」と、ノヴァーリスが使ったのは、まさに幻の女神の名に因んだ魔法だった。
まず最初に、ノヴァーリスはカジノの小劇場の入り口に、魔法を設置。効果は、もし人が小劇場の入り口に設置された魔法を踏んだら、その人に幻覚を見せ、今のこの劇場まで誘導する。次に、先に劇場を到着したノヴァーリスは魔法を使って、劇場内装の見た目をカジノの小劇場と同じように変更。最後はもう1個魔法を、今度はこの劇場に設置して、そこに人が通ったら、時間差で人の幻影を生み出す。全部完了した後は、キボルスが来るまで待機した。
「はっ、つまり俺たちはまんまとやられたってわけか?」
「えっへん!すごいでしょ私。まぁ、この作戦を考えたのはエルトくんですけどね」
「それで?何故そこまで手の込んだ真似を?」ととぼけるキボルス、それを聞いて、エルトは
「キボルスさん、あなたは最初から僕たちをハメる気だろ?違うか?」
観客が現れた時に、キボルスが言った言葉、「さすが観光地、こんなにも早くギャラリー湧いてくる」、それを聞いてエルトがキボルスは観客を呼んで、自分たちをハメようと確信した。敵国のど真ん中に騒ぎを起こしたら、今後の活動に支障が出る、下手したら二度と帝国に入れないかもしれないと思って、だから先手を打った。
それで、思い付いたのは、キボルスをこの劇場まで誘導し、偽物の観客をノヴァーリスに頼んで作り出し、キボルスを騙すという作戦だった。もしキボルスが観客を呼んでなかったらそれはそれで良し、言い訳はいくらでもあるから。ただ、一つだけ、観客が湧いてきた時、エルトが心底呆れた顔をした原因は、キボルスじゃなく、こんなデタラメの魔法も使えるノヴァーリスにあった。
「へ?もし本物の人が入ったらどうする兄ちゃん?」
「だから廊下にいる時は、あんたが見える場所で、ケンカのふりをしたんだよ、僕たちは」
あの時、エルトの予想外の謝りのせいで、レオスが怒ったのは演技ではなかったが、ケンカのふりは本当だった。理由は、もし3人とも劇場にいると、いざ何がある時は対応しきれないかも知れない、そのために、二組に分け、1人を別行動にした方がいいとエルトは考えた。ただ、キボルスは常に自分たちを監視してる、理由もなく別行動を取ると怪しまれるから、キボルスが見える場所でわざとケンカをして、レオスを単独行動させた。キボルスたちが劇場に入ったタイミングを見計らった後、レオスを頼んで、野次馬が劇場に入れないように、建物の前で人を追い払ってもらった訳だ。
「ハッハッハッハ、見事のチームワークだ兄ちゃん!」とキボルス拍手して、素直にエルトを褒めると思った時、
「そんじゃ、エキシビション試合でもしようじゃねえか?」と言って観客席から舞台へ飛び上がり、エルト応否にも待たず、彼に向かって、猛突進し始めた。
弾薬が尽き、体力もかなり消耗したエルトは完全に油断した。キボルスのメカ義手が赤く発光し始めて、それを床にぐったりしてるエルトに向かって、とんでもない勢いで急接近してる。
「だが、まだ甘い!敵を叩く時は、徹底的に叩きのめせと、母ちゃんから教わなかったか?」と言いながら、そのメカ義手をエルトの頭の所に狙い定めた。
もしあの手に突っ込まれたら、絶対デュラハンになってしまうと思ったが、座り込んでるエルトは防御の体制が取れるはずもない。今度こそおしまいだと彼はこの時、「ドタドタ」という、キボルスじゃない、もう一つの走る音を聞こえた。
足音の正体は、舞台の袖から出てきたレオスだった。彼は剣盾を持ってキボルスの反対方向からエルトに向かって短距離の助走した後、高く飛びながら、片手剣を盾に挿し込み、「カチャッカチャッ」の音と同時に盾が変形し、キボルスの義手と違う、青い光の大剣となった。
大剣となった重量を利用して、レオスは上からキボルスの手を狙って、
「スマ…じゃね!スラッッッッッシュだこんやろう!!!」と叫びながら猛烈に振り下ろした。
その青い一閃と共に、「ガシャンガシャン」の壊れた金属部品の音がキボルスの手から聞こえた。驚いたキボルスは、自分の手を見てみると、前腕部分が完全に壊れてなくなり、部品の残骸が舞台上に飛び散らがしている。上腕は残ってるが、もはや使い物にならないだろうと思い、突然、今まで聞いたことのない、何か吹っ切れた感じの声で笑った。
「ハッハッハッハ、こりゃあ、俺の完敗だ。兄ちゃん達になら、コルチカムを預けてもいいだろう」と何故かこのタイミングでコルチカム、彼の「娘」の名前を言い出した。
だが、レオスはキボルスの言葉を無視し、エルトを見て、何か言いたそうな、謝りたそうな顔をしてるが、結局は素直に言い出せず、
「ふぅ、危ねえ!通信付けっぱなしして正解だったな、エルト!」と、ただ座ってる彼にに手を差し出しだ。
エルトはレオスの手を掴んで、体を起こして、他の言葉もなく、単に「サンキュー」と礼を言って、キボルスに
「キボルスさん、コルチカムさんはあなたが絶対に約束を守る人と言った、だから、僕は彼女を信じる、もう仲間だから」と一息を吸って、更に
「でも、あなたは今、コルチカムさん、あなたを信じてる、あなたの娘を裏切ったんだ!」と、エルトは言葉に怒りと少し悲しみを混じった。
「っ!…まぁ、いい」とキボルス一瞬落ち込んだ表情をした。
そう、彼は狂人で≪天狼の心臓≫という悪名高き傭兵団の隊長ではあるが、今回は、雇用主など関係なく、本心で彼を殺す気がなく、寸止めのつもりだった。でもエルトはまたもや正論パンチで、今度はキボルスを殴った。だが、いい大人で、今更寸止めなんて言い訳にしか聞こえないと思い、言葉を呑んだ。
「ほざけ!てめえのあの夜で言った、リスちゃん以外、俺たちを含めて警察全員を殺したいって言葉、俺は忘れねえからな、今更殺すつもりはねえだなんて、誰が事を信じるんだよ」
「あの時はあの時、今は今だ。…とにかく、今回は、俺の負けだ、約束はちゃんと守る。だが、ここじゃねえ。兄ちゃん達は宿で待ってろ」
「逃げるつもりじゃねだろなてめえ?」
「いいんだレオス、どのみち、ここに長居するのは危険だ、こんな誰もいないはずの劇場に何回も大きな音がしたから、そろそろ街の警備隊が来てもおかしくない、ここは一旦解散して、宿に戻ろう」
「エルトの兄ちゃんは分かってるじゃねえか?」
「僕は別にあなたを信じてるわけじゃない。あなたは片手とは言え、もし本気で戦うとすれば、僕たちもただじゃ済まない」
「そうですよレオスくん、一旦ここから離れましょ」
「俺は腐っても≪天狼の心臓≫の隊長だ、だからまず色々首尾を片付けねえといけねえ」
「…くそ、分かったよ」
と、4人は簡単な会話をした後、キボルスはミシェルを拾って、正門から出た後、わざと騒ぎを起こした。そのお陰で、警備隊や野次馬の目を引いてる。正門が騒いてるうち、エルトたち3人は、舞台裏を通って、そこにある緊急用出口から静かに出て、歓楽街の後半にある宿に戻った。
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