エピーソード18
「おい、エルト、どういうつもりだ?大人しく従う気かお前?」
エルトたちは、今、キボルスのところに離れ、劇場にに向けて、廊下で歩いてる。レオスはとりあえず今は逃げようと提案していたが、エルトはそれを断った。
「レオス、とりあえず落ち着け!ていうか元々お前がカジノに行きたいって言ったからこうなったんだ」
正論は、時として、パンチより痛い。そんな正論に殴られて、レオスはちょっとだけ苛ついたが、うまく言葉を返せない、ただただ空気が悪くなる一方である。そんな気まずい空気を耐えられず、最初に声を上げたのはノヴァーリスだった。
「レオスくん、ええと、まずは、エルトくんの考えを聞きましょ、ね?」と、レオスをなだめた。
「…僕も別にレオスを責めるつもりじゃない、言い方が悪かった、ごめん」
と、まさかエルトから先に謝られ、レオスは余計に苛ついたが、内心は至って冷静だ、彼は分かってる、エルトの言ってることは間違ってない。カジノに行きたいと言ってるのは自分だ、その結果、自分の親友を危険に晒してしまった。そう、この感情は、他でもなく、自分に向けてる、自己嫌悪だ。いつも軽率な行動を取ってる自分に段々イライラして、壁に向けて「ドンッ」と叩いた後、彼自身しか聞こえない細い声で「クソが!」と言った後、
「トイレだ」と告げ、2人の返事を待たず、他の方向に走って消えた。
「エルトくん、ねえ、いいの?レオスくん行っちゃったけど?」と、レオスのセルフ壁ドンに驚いたノヴァーリスは、心配そうな顔をしていた。
「…分からない。とにかく劇場に行こう」
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その男性は20代後半から30代前半で、かなり若くて、細身、シルエットはキボルスと何もかも真逆だ。肩まで伸ばす金髪、色は少しだけビオラと似ている。何よりキボルスや他の傭兵と違い、すごく目立つ。服のデザインこそキボルスと同じのようだが、装飾品がやたらと目立つのだ。傭兵はそんなに目立ってるの、大丈夫なのだろうかと、エルトはツッコみたかったが、我慢した。とにかく、彼の事が、戦う前に、既に苦手意識を持ってる。もしこれが向こうの作戦ていうなら、見事と言わざるをえないとエルトは思った。
近付いてきた2人、副隊長らしき男性は先に口を開いだ。
「御子さま、こんばんは、ご無沙汰しております。そして、君がエルトくん、ね?ふぅん?なかなかいい男じゃな~い?」男性はちょっと艶っぽい声で話し掛けてきた。
エルトはこの時、なんとも言えない気持ちで、なんか汚された気分のようだ。この男、ある意味、キボルスよりもヤバいと感じた。何故かというと、その男は、エルトを上から下までジロジロと、まるで品定めのような感じで見てるからだ。エルトは思わず鳥肌が立った。そして、
「わたくしは≪天狼の心臓≫4番隊副隊長、ミシェル・ド・グレゴワールよぅ~、以後お見知りおきくださいな」と、オネエでもない、とにかく変な言葉使いして自己紹介をした。
「ど、どうも、エルトです…」と、どう対応するか分からないエルトはそれしか言えなかった。
そして、エルトはノヴァーリスに2人しか聞こえない声で
「ノヴァーリス、ちょっと、なんだこの副隊長は?キャラめっちゃ濃いなんだけど?僕、ちょっと無理かもしれん」と耳打ちした。この時のエルトは、レオスの言う通りに逃げればよかったと激しく後悔した。
「副隊長さんは帝国の貴族だったらしいですよ」
2人が耳打ちしてる最中、人の声が聞こえてきた、それも、1人ではなく、複数、いや、それ以上だ。劇場の入り口から、人が波のようにどんどん入ってきてる。
「ほう?さすが観光地、こんなにも早くギャラリー湧いてくるとはな」と、キボルスは満足そうな顔で言った。
この人達は全員、カジノやこの観光地の
そう、エルトは、最初からこうなると予想してきた。このゲーム、エルトたちにとってまるでデメリットがない、勝ったら情報を美味しくいただけるし、負けても罰はないとキボルスが言っている。ゲームの内容も、戦うとは言え、正直平和そのもの。倒れたか降参の時点でゲームが終了という、生ぬるいルールだ。キボルスにとってこのゲームは、なんの得にもならないのだ。
何の得もない?じゃあ何のために?エルトは発想を逆転して考えた。別に自分にメリットがなくても、相手にデメリットを与えればそれで十分だ。罰はないとキボルスは言っているが、エルトたちは今、潜入任務として、帝国に入ってきた。例え≪ガーディアン≫である事がバレなくても、もし今回のゲームで注目され、多くの帝国人たちに顔が割れたら、今後の活動に支障が出る事は間違いないだろうと。
だが同時に、エルトはどうしても情報が欲しい、姉の行方、鍵の在り処。だから、逃げる選択肢は存在しないのだ。エルトは
「波風立てたくないじゃないのか?」
「はっ、連邦にいる時はな。兄ちゃんも分かってるはずだ、俺はこの国に雇われてる、ここなら、多少目立った動きをしても、誰も文句を言わねえ、敵勢力を排除しようとしたら尚更だ」
「まぁ、どうでもいいけど、僕は情報が欲しいだけだ、知ってることを全部吐かせてもらうから覚悟しておけ」
と、エルトは観客の事をこれ以上に触れず、ただこの茶番を早く終わらせたい一心だった。それもそのはず、彼はそっちの趣味がないからだ。これ以上ミシェルにジロジロ品定められると、精神的に持たない。
「よく言うじゃねえか兄ちゃん。それじゃ、2人共、思い切ってやれ、俺を楽しめ」と高笑いしながら始めの合図を示した。
「では、はじめとしましょうか」と、口調とトーンが先と微妙に違うミシェルは、腰に掛けたレイピアを手に取り、構えを取っていた。
エルトはミシェルの得物、レイピアを見て、考えた。レイピア、それも特別な形をしていない、当然、ビオラが設計したわけでもない限り、流石に変形やサイズの変更は出来ないはず。つまり、主な攻撃パータンは刺しのみ。そして、こっちはトンファーと拳銃。トンファーとレイピアの相性は最悪、接近戦ではこっちが不利になりやすいと考えて、戦うなら、拳銃一択だと。
そう考えたエルトは、どこまで役に立つかは分からないが、ないよりはマシと思い、一応トンファーも利き手じゃない左手に、利き手である右手は拳銃を取る形で構えた。
しばらく動かず、2人はただ相対してるだけだった。どっちも相手を見て、観察、そして待っている。ミシェルは先の品定めの目線に打って変わって、鋭く、まるでスズメバチがミツバチを見つめるような目つきとなっている。
ようやく動き始めたと思いきや、2人とも円を描いて距離をを取った。かなり距離を離れた後、背を観客に向けたエルトは、ここまでの距離なら、さすがにいきなり突進して来ることがないと考えたか、先に仕掛けた。
銃をミシェルに照準して、トリガーを引く。エルトは実弾を使った。なぜなら、属性弾という機能を最初から相手に知られたくないからだ。だから、普通の弾丸を使ってミシェルを試した。
発射した弾丸は確実ミシェルの方向に飛んでいった。あくまで試しで、エルトもこれでミシェルを倒せると思ってない。相手であるミシェルは動きを見せず、ただ小さな金属音「キンッ」と聞こえた。普通なら、もうとっくに着弾したはずだが、何も起きてない。
よく見てみると、ミシェルのレイピア刀身に、なにか異物がくっついてる。それは、弾丸である。そう、エルトがさっき発射した弾丸、今はミシェルの刀身に串刺しされてる。何が起こってるかはだいたい想像が付く、だから逆に恐ろしく感じたエルト。
ミシェルは多分、レイピアを弾丸以上のスピードで突き刺した。弾丸はレイピアによってひどく変形され、そのままレイピアにくっつけた。ただ、これはあくまでエルトの想像であり、実際はその動きをはっきり見てなかった、いや、見えなかったのだ。
「平民を巻き込まないようにわざと自分の背を観客席に向けてから銃を使うとは、エルトくん、流石に警察といったところか」戦闘開始になってから口調が変わったミシェルはエルトを少し感心して、褒めた。
「だが、そんな配慮はいらない、さぁ、撃つがいい、君の弾丸は、わたくしが全て受け止めて見せましょう。平民を守るは、貴族たるものの務めだからだ」
エルトは増々この副隊長が苦手だと思った。最初の言葉使いといい、今の豹変ぶりといい、キャラが濃すぎて逆にキャラが定まらない。何が貴族だ、傭兵じゃないかお前、と内心でツッコんだ。
「それはどうも」と答えたエルトは、更に試しに、3発、5発と、実弾を連続で撃ってみたが、結果は1発目と変わらず、急にレイピアの刀身に歪んだ弾丸が増えただけで、ミシェルの動きが見えなかった。
それでも、エルトは撃つのを辞めなかった。ただ、今度は不規則に撃つ事にした。3、2、3、5、規則性がない完全にランダムで、マガジンが空になったら替えて更に撃つ、3個目のマガジンになって、劇場の舞台から降りたノヴァーリスとキボルスはもちろん、相手であるミシェルもエルトの意図が全く読めない。
そんな中、ミシェルの手が急に血が出てた。この突然の出来事に、ミシェルは驚いたが、エルトの攻撃がマガジンが尽きるまで止めなかった。気が付いたらミシェルの体は至るところまで焦げたような跡が付いて、更に血だらけになってた。
「君の戦闘センスに驚いたよエルトくん。もし≪天狼の心臓≫に来てくれれば、すぐにでも副隊長になれるでしょう」と、自分の体に治癒魔法を掛けながらエルトを更に褒めた。
そう喋ってるうちに、ミシェルの焦げた傷口が塞ぎ始め、あっという間にほとんどの傷が治ってきた。傷一つないになったミシェルは更に言葉を続く、
「実体のない属性弾はレイピアじゃ防げないことを見破った君は、無規則に実弾と属性弾を交互に撃つことで、ここままわたくしを倒すつもりでしょうが、どうやら先に君の実弾マガジンが尽きたようだね?」
全てがミシェルの言う通りだった。エルトは元々試しに実弾を撃ってみたんだが、まさか彼が全部受け止めると宣言した。それでエルトは何発を観客席向かって撃ってみた、観客たちはもちろん逃げ始めた。でもこの男は嘘偽りなく、本当に全部受け止めたお陰で、観客たちに被害がなく、これがショーと思って、また座席に戻した。それに、さっきノヴァーリスと耳打ちした時、彼女も言及してる、このミシェルは多分本物の貴族で、しかも変にプライドが高い。
この男は確実に逃げない、そう確信したエルトは、実弾と属性弾を交えた戦法でミシェルを倒そうとした。だがミシェルは見た目以上にタフで、その上、治癒魔法も使える。結局実弾マガジンを使い果たしても、彼を倒すことが出来なかった。
「今度は、このわたくし、【
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