エピーソード16
一方、その頃、留守番となった2人は、他の任務もないため、地下室、ビオラの開発部屋で、ビオラが色んなものをいじりながら、コルチカムと雑談や身の上話を始めた。
「ビオラ様は、どうしてエルト様に特別に厳しいなの?」
「そんな事はないです。コルさんこそ、レオスさんを見てる時の目は完全に野生の肉食獣みたいです」
「それは、私の愛情表現よ!あら、もしかしてビオラ様のあれも愛情表現かしら?」と、ビオラをからかうコルチカム。
「わたしの愛情表現はじ、人体実験です」と始終無表情のビオラだが、言ってることがめちゃくちゃだった。だが、コルチカムはビオラの言葉を聴き逃がせなかった。
「あら?ビオラ様、図星だった?ふふっ、一人称まで変わってるよ」
前にレオスとの年齢のやり取りといい、普段は全く感情が読めないビオラだが、中身はやはり年相応のようで、ところどころ爪が甘かった。もし知らない人が見たら、ただの仲のいい姉妹にしか見えないが、中身は天才科学者と最恐暗殺者だ。暗殺者は更に科学者に
「まぁまぁ、それはさておき、ビオラ様は、どうしてほぼ初対面の私の病気を直そうとするの?」
「ボクは別にコルさんの病気を直そうとするではないです。これも実験のためです」とビオラはそう答えた。
エノテラの剣もそうだが、この前ビオラがノヴァーリスの杖にも興味を示した。ビオラにとって、この2つのものは、とても興味が深い。何故かというと、原因はそれらを造った材料にある。一応、ノヴァーリスの杖と違い、今発見されたエノテラの剣はレプリカではあるが、そこまで黒く、重い物質がこの世に存在してるかと、ビオラの科学者の血が騒いてるのだ。
そして、ノヴァーリスの杖については、素の状態で、銀色に光り輝いてる物質。現象としては、レオスに渡した剣盾の大剣状態に似てるが、レオスの大剣は、元素の力を込めた現象。それに対し、ノヴァーリスの杖は力を込めるどころか、まるで力をあえて逃すように発光してる。言わば、力の出入、ビオラが作ったのは、力がものに入る、ノヴァーリスの杖が、力がものから出る、まさに正反対の反応だ。
だから、ビオラはどうしてもこの2つの武器を解析したくてしょうがなかった。そして、ビオラは前に、エノテラの剣には、ビオラ曰くコルチカムの病気を直せる、あるいはヒントがあると言った理由、ビオラの予想では、エノテラの剣には、彼女の権能の1つである、重力の秘密に関わってると思っている。重力は、エーテルにも影響があることは、エルトが身を以て証明された。だから、もしその神様の権能を、ほんの少しでも解明出来るのであれば、コルチカムの病気を治すものは作れるかもしれないと思った。
この歳で既にそこまで遠く考えてるのを感心したコルチカムは
「動機はどうであれ、結果として、ビオラ様は私の病気を治そうとするでしょ?」に聞く、ただ、ビオラが返事をするよりも早く、コルチカムはさらに
「でも、ビオラ様は、私が将来裏切る可能性を考えてる?」と、かなり攻めた質問を、弱冠13、14歳の子供に投げた。
「ないです。例え、コルさんがボクたちを裏切るつもりでも、それを止めるのはボクではなく、レオスさんの役命です。ボクは自由に研究出来るなら、それだけでいいです」と、どこまでもストイックなビオラだった。
「ふふ、でも、ビオラ様は、私を信じてるから、私を任務から外したんでしょ?」
「コルさんは何を言ってるんです?」とビオラはコルチカムに反問した。
「レオス様たちが出掛けてる今、この支部は、小型犬の戦闘力しかないビオラ様と元敵の私にしかいないよ?もし私を信じてなかったら、そんな事するはずないでしょ?」と、信頼を感じたコルチカムは、嬉しい顔をした。
「…コルさんが嫌いです、エロトさんの次に嫌いです」と、無表情で口はそう言ってるビオラだが、単純にツンデレである。
「ふふ、つまり、エルト様の次に好きと受け取っても大丈夫って事かしらビオラ様?」と更にビオラをからかうコルチカム。
「もう今日はコルさんの口を聞かないです。今は少しレオスさんの気持ちが分かった気がするです」と言いながら、珍しく、ちょっとだけ口を膨らむ、拗ねたビオラ。
「なんか、かわいい妹が出来たみたいね。ビオラ様は、本当は何歳?」と、唐突にビオラの年齢を聞く。
「…14です」と小声だが、素直に答えたビオラ。
コルチカムは、何故そんなに実年齢を隠したいかを聞くと、ビオラは自分の過去を明かした。
現連邦の最大手エーテル製品会社≪CSH≫、その製品は民用から軍用まで、あらゆる分野をカバーしてる会社である。ビオラは、この≪CSH≫にて、第四開発部の主任を務めいる。それと同時に≪CSH≫社の創立者、クリストファー・S・ホライゾンの孫娘でもある。
祖父から3代続く優秀な科学者だったが、彼女の4歳の時、とある大型実験で、責任者である両親を含め、その場にいる全員が命を落とした。その実験は本来、危険性がなく、とても安全な実験のはずだったが、事故の原因は未だ不明だった。少なくとも調査をした政府関係者はそう言っていた。
幼少期で両親を失ったビオラは、祖父のクリストファーの元に育てられた。クリストファーは偉大な科学者ではあるが、いい祖父ではなかった。この歳になってもひたすら研究を没頭した。そんな彼はビオラに色々教えてたが、「愛」については教えなかった、そう家族愛だ。
一方、ビオラは、家族の影響か、それとも遺伝か、小さい頃から、その才能をもって、頭角を現し始めた。8歳で大学を修了し、結果、どの学校にも馴染めず、友達も作れないまま、学生時代を終えた。
時間が立ち、彼女が9歳の時は、正式に≪CSH≫に入社し、大人たちに囲まれて研究をした。だが、その天才ぶりは、留まるところを知らず、11歳で第3開発部の副主任、そして、去年はさらに元々廃部となった第4開発部を任された。
古来から、「天才」という単語は、必ず「嫉妬」が伴ってくるのだ。実際、会社内でも、彼女をよく思ってない大人が大半数を占めてる。代4開発部は実質彼女1人ための部でもある。そう、主任という名の隔離だ。そのせいで、家族も、友たちもなく、研究者の仲間にも嫌われてる彼女は、ひたすら研究で日々を過ごした。
ある日、彼女に転機が来た。あの夜の事件だった。そのきっかけに政府が≪ガーディアン≫に支部再開の要請した、当然その話は≪ガーディアン≫出資者の1つである≪CSH≫にも回ってきてる。ビオラはその話を聞いて思った、どうせ会社に居ても1人ぼっちだ、それに全体的の開発方針は会社が決めてる、それならいっそ≪ガーディアン≫に行った方が、むしろ自由に研究出来ると思い、すぐに支部の責任者に申し出た。そして今に至る。
全部吐き出したビオラに対して、コルチカムは
「ビオラ様の気持ちは分かる、私も嫌われ者だから」と、コルチカムはビオラを慰めた。
確かに、2人の境遇は似ている。1人は捨て子で、もう1人は、幼少期の頃から両親が失った。2人とも違う領域の天才、なにより、2人とも周囲から嫌われてる。多分、ビオラもそう思ってるかも知れない、だから自分の過去をコルチカムに明かした。
親近感を感じた2人は、時間を忘れるほど、色んな話した。外は既に暗く、食事を準備する時に
「プルルルルルルル~~」の、無機質かつ甲高い音が鳴り響く
「どうしたビオラ様?」とコルチカムは聞く、ビオラがスマコンを取り出して、それを見ると、ビオラは
「ノヴァーリスさんの連絡です、監視部屋にスピーカーがあるので、そこに繋がって話すのです」と言って、コルチカムと一緒に隣の部屋へ行った。
監視部屋へ到着後、ビオラはスマコンを部屋のスピーカーに繋げて、ノヴァーリスの通信に出た。
「はい、こちらビオラです、どうされたんです?ノヴァーリスさん」とビオラはスマコンの向こうのノヴァーリスに聞くと、
「ビオラちゃん、た、大変な事になりました!」と、慌てるように聞こえて、そこまで緊急事態とも感じない態度のノヴァーリス。
「何があったんです?」
「わ、私たちは今、キボルスさんと一緒にいるんです」
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