エピーソード10

「ちょ、おいおいおい、勘弁してくれよマジで!なんでこいつがここにいるんだよ」


レオスはコルチカムの急接近に困惑しながら距離を取っていたが、レオスが2歩引いたらコルチカムが2歩進み、レオスがさらに3歩引いたらコルチカムもまた3歩進む。


「会いたかった、レオス様!!またあの夜みたいに抱っこしてください」と、顔はかなり可憐だが、動きは完全に獲物を狙ってる猛獣そのものだった。


ノヴァーリスと同様に、あの夜はまともに少女を見てなかったが、見た目はノヴァーリスと同年代で、髪色は紫、肩まで伸びてる。服は、あの傭兵団と違って、白基調の冬服。


その時、エルトは思った、何故この夏場にも関わらず、見るからに暑い冬服、分厚いコードを着てる。その夜はそんなにはっきり見えなかったとは言え、確かこんな分厚い服を着てなかった。ただ、それはエルトだけではなく、レオスも気になるのようで、


「色々聞きたい事あるけど、とりあえずその服を脱いでくれ、見てるこっちも暑くなるわ」


「あら、レオス様、大胆すぎ、そんなに見たい?」と、予想外の方向で食いつくコルチカムにレオスは半ギレに


「違げわアホ、自分を殺そうとするやつに興味を持つほどもの好きじゃねえよ俺は」


そこに、ノヴァーリスが話を割って入った、ノヴァーリスの話によると、この冬服は特製で、もし脱いだら彼女は死んでしまう可能性がある。コルチカムは心臓の病気で、エーテルが常時、自分の意思と関係なく体外に発散し続けてる、もしその特製なコードを抜いたら、5分ほどで体内のエーテルが尽き、それまま倒れてしまう恐れがあると。


「あれ?エーテルが空になったら倒れるのか?じゃあなんで僕は大丈夫なの?」とエルトの質問に、ノヴァーリスはしばらく考えた後、


「確かにそうですね。多分ですけど、これはエルトくんのエーテルが、完全に空になる訳じゃないじゃないかな?結局メルナリアかエノテリアさんにしか分からないじゃない?」と、結局、誰も分からなかった。


ここでレオスは、エルトとは別に、コルチカムについて疑問があった。何故あの夜コルチカムが現れると同時に、自分が酸欠の反応が出たかとコルチカムに問うと、コルチカムは、それは彼女自身が開発した、自分の体質を利用した特殊な魔法だった。発散されてるエーテルを火と風の元素に加えることで、彼女の周辺にものすごく低気圧環境を形成する事により、周りが窒息を引き起こす事が出来るだと。広範囲で、隠密性も高く、集団暗殺に最適、今まで戦場で彼女の顔を見て、生き残った人は、レオスだけだった。今は≪天狼の心臓≫や、彼女を知ってる人は皆、彼女の事を【死を運ぶ魔女】と呼んで、忌み嫌われてる。


「は?おまっ、めっちゃくちゃヤバいやつじゃねか、どうしてこんな危険なやつがここにいるんだよ?」と、レオスはどうしてもコルチカムがここにいるのを納得行かず、今度はノヴァーリスがレオスの疑問を答えた。


ノヴァーリスはまず、自分が何故あの傭兵団と同行してるかから説明した。元々彼女は≪星天教≫の星柩の中でずっと眠っていたところを説明すると、


「待て待て、星柩ってなんだ?」聞き覚えがない単語にレオスは更に疑問をした。


「まぁ、簡単にいうと、棺桶の事ですね」


「ちょっと待った!何言ってんだリスちゃん?棺桶の中に眠ってた?」


レオスの言葉を聞くと、ノヴァーリスはエルトを見て、何故レオスに自分の正体や一連の経緯を説明しなかったとエルト話を投げる。


「あっ、ごめん、もう完全に忘れてた。なんか会話の流れ的にも知ってるかなと思って、ていうか僕が病院で目覚めた日からずっと会ってなかったし、説明しようがないじゃないか」


「忘れてたって、何を?何があったんだよ?」


そこからエルトは自分が死んだ後の事やその後の経緯を説明し、更に自分とノヴァーリスの正体を説明した。


「エノテラの姉貴が…女神様?」


と、レオスはエルトの話を聞いた後、はやり納得行かないようで、更にエルトに質問した、


「じゃあ、お前はなんなんだよエルト?俺はお前とは幼なじみだぞ、お前の子供時代だって知ってる、お前もリスちゃんと同じなら、俺の記憶はなんだ?」


「それ!僕もメルナリアに聞きたかった、でもメルナリアはまた話す機会があるからと、一方的に話を纏めた、最後は僕をあの夜まで戻した」


エルトはそう答え、レオスは納得は行かないが、とてもドッキリの雰囲気じゃないので、とりあえず話を進めた。


ノヴァーリスは最初の話に戻り、自分は≪星天教≫の星柩の中で、500年間ずっと眠っていたが、今年で目覚めた。彼女は500年に一度起きる皆既日食の時は、必ず目が覚める。原因は皆既日食の年には、エーテルが乱れ、それと同時に星を滅ぼすレベルの人災、天災が起こる可能性が高い。それを確認するのがノヴァーリスの役命であると。


だが、今年目が覚めてたら、メルナリアを奉る≪星天教≫が、何故かその信仰する神の名前が変わった上、今、世界に流れてる伝承も、歴史も全部塗り替えられた。だから自分は逃げた、が、権能開放してないノヴァーリスの戦闘力は限りなく0に近い、それに500年も経て、地形や道なども分からず、途中で≪天狼の心臓≫に捕まれて、そもまま同行された。ただ、≪天狼の心臓≫の目的地、と言うより、目的が同じものだったので、大人しく彼らと同行した。


長い前振りの後、ようやくコルチカムが何故ここにいるかの話に戻った。≪天狼の心臓≫に捕まったとは言え、彼女に手は出してなかった、むしろ相当礼遇されてる、自由は流石にないが。一緒に移動してる中、ノヴァーリスはコルチカムと仲良くなり、色々話もした。


コルチカムは本当のキボルスの娘ではなく、彼女は元々捨て子だった、偶然キボルスに拾われ、そのまま傭兵団に入った、だから彼女自身も本当の名前は知らないと。傭兵となった彼女は、病気があるにも関わらず、ひたすら訓練、任務の繰り返し日々だった。物心がつく時からは既に傭兵団に身を置いてるせいで、傭兵以外の生き方は知らなく、他に行くあてもない。普段は忌み嫌われても、任務の時はみんなに頼られる、それを嬉しく感じて、拾われた恩もあったから、だから今までは傭兵団の殺人兵器として生きていた。あの夜までは。


あの夜、レオスはコルチカムを担ぎ上げたままダッシュし、最後はレオスが力尽き、コルチカムを下敷きに2人共倒れたが、何故かあの担ぎ上げを、姫様抱っことコルチカムの脳内ビジョンで変換された。人の温もりに触れたのか、はたまた初めて男に抱かれて恥じらってるのか、緊張、興奮など、いろんな感情が入り交ざってるコルチカムは、照れ隠しで自分から顔をレオスの胸に埋め込んだが、逆にさらに恥ずかしいと感じて頭がパンク、そのまま気絶した。


一連の経緯を聞いた後、なんやかんやで態度が軟化したレオスは最後に、


「ま、まぁ、あれだ…今まで大変だったな。でもなんでここにいるかの答えになってないって」と聞くと、


警察の手に負えない、もし彼女がその気があれば、署が全滅しかねない理由で、ノヴァーリスに押し付けた。それを聞くと、エルトとレオスは、かなり複雑な気持ちになった、警察って無能すぎないか?と思い始めた。


「はぁ、まぁ、事情は分かった。それで、もう1人は?まだ姿見えないんだけど?」レオスが尋ねる。


「そういえばそうですね?迷子しちゃったかな?」


もう1人を待ってる途中、レオスはソファで居眠り始めたところ、ノヴァーリスは、


「レオスくん、ここの3階は寮です、最後の1人が到着するまで寮の空き部屋にしばらく休んでください」


レオスは簡潔に「悪い、そうするわ」


と答えた後、腰を上げて3階に上がった。エルトの方はトイレに行きたいと言って、


「それなら2階、3階もありますよ」とノヴァーリスがそう答えたあと、エルトもレオスの後に2階に行ったが…すぐに戻ってきた、しかもすごくテンパってる様子で。


「どうかした?エルトくん」とノヴァーリスがエルトの慌て振りにおかしいと思い、彼に聞くと、階段からまるでトーンの変化がない声で


「エロトさんは、ロリコンです」声と共に、1人の子供?が階段から降りてきた。見た目はだいたい13、4歳くらい、身長もアホ毛含めて140cmあるかないか、ジト目で、明るい金色の髪に、金色の瞳。短パン履いてる、ちょっと男子っぽいだが、女性である。


「とんだ誤解だ、人がいるのは知らなかったんだよ」と弁明するエルト。


実はエルトが2階のトレイに入るつもりで、トイレのドアを開けたら、そこには既に人が入った。


「ビオラちゃん?いつから居たの?」と、2人のやり取りを無視して子供の名前を呼ぶノヴァーリス。


この子供?こそが最後のメンバーである。最後のメンバーが揃ったと、コルチカムが3階にレオスを呼んできた。


「それじゃあ、改めて自己紹介しましょか」場を仕切るノヴァーリスはそのまま自己紹介を始めた。


「私は、ノヴァーリス・エノテリア、≪星天教≫の現人神だったんですけど、今は≪ガーディアン≫クラークデール支部の協力メンバーとして、しばらくはみんなと一緒に行動するになった。よろしくね~」


「私は、コルチカム、エルト様、ノヴァーリス様、ビオラ様、よろしくお願いします…レオス様、抱っこしてください!」模範解答のノヴァーリスに対し、まだ暴走気味のコルチカムである。


「お前、名前以外の情報がまるで分からんねんだが…まぁいい、んじゃ俺、レオス・レオナルドな、見た目はこんなんだが、一応は警察だった、今日まではな。ちなみに赤毛は地毛だ。みんなよろしく!」


「レオス様素敵!!」


「もうそういうのはいいから」


「それじゃ、僕、エルト・メルナリア。レオスと共に、今日までは警察だった。後は、ええと、世界唯一魔法使えない人、後は…正直紹介出来るほど長所ないんだよ僕は。とにかく、みんなよろしくな」


「最後はボクです、ビオラ・S・ホライゾンです。多分みんなさんも聞いた事ある、エーテル製品会社、≪CSH≫社の第4開発部主任をしてます。みんなさん、よろしくです。あと、エロトさんは1回、死んでください」相変わらずトーンがない声。


エルトとレオス2人は


「うそ?あの連邦最大手の?こんな子供に?」

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