エピーソード9

----------------------更に1週間後----------------------


病院に入って3週間、今日は、エルトの退院日ではあるが、どうも素直に喜べない。何故かというと、今日はレオスと共に部長に呼び出された。結構大事件だし、色々気になってて、気持ちはどうしても晴れなかった。


「よっ、少年、遅いじゃねえか?」警察署の前で、レオスはエルトを待っている。


「何が少年だよ、何キャラそれ?」


「怒られる時は一緒に怒られるって、あの時約束したじゃん?だから待ってた」


「いやそんな約束した覚えはないけど?」心はここにあらずのエルトは適当にツッコむ。


エルトはレオスより、ある物に注目した。そう、エノテラの大剣だ。その大剣は今、署の前の空き地で、無造作に横たわってる。多分、剣が重すぎて、証拠保管庫までは運ぶ手段はなかった。


普通の人間はまず持ち上げない上、1日中人が出入りしてる警察署なら、盗まれることはないと、そのまま剣を放置した。その剣を見て、エルトは


「そう考えると、ただ背負ってるとは言え、あのキボルスって男はとんでもないな」とぼそっと独り言を呟いたが、声がレオスの耳に届いたらしく、


「んだな、この剣、エノテラの姉貴以外、持ち上げれる人間初めて見たぜ。まぁ、流石に姉貴みたい振ってたりは出来ないけど」


レオスの表情は全く変化がないが、内心はかなり複雑だった。その原因は、キボルスにある。レオスは、エノテラを除いて自他共に認めるクラークデール一の力持ちだが、キボルスと出会って、初めて自分が井の中の蛙だと思い知らされた。


署に入って、すぐ部長に呼び出された2人は、部長の机前に立っている。エルトは喋ろうとしたが、その前に部長が口を開いだ。


「エルトくん、レオスくん。君たちは、何をやらかしたか、分かってるか?」と、部長はさに鬼の様相でブチギレた。部長は2人に弁解の機会を与えず言葉を続く


「署の全員は君たち2人のために全員出動し、さらに多くの人が負傷。もしこの時町に何があったら君たち、その責任は背負えるか?」


エルトとレオスは最初から怒られるとは予想したが、普段は、たまに嫌味を言うが、どちらかというと温厚の方で、存在感も髪の毛と同じくらい薄い部長が、こんなにブチ切れた事は、見たことなかった。


ただ、エルトとレオス以外、その場に数名の警察は「そうだそうだ」と部長の言葉を同調してる。


「そして、何より、君たちはその夜の男は誰か知ってるか?【天狼の心臓シリウスハート】、昔はただの傭兵だったが、今や世界中にその悪名を知らない人がいない、国際テロリスト組織だ!1警察が首を突っ込んでいい相手じゃないんだぞ!」


「そうだそうだ」のガヤが止まらない。


「エルトくん、、もしその時君の身に何があったら、君の姉にどう説明すればいいんだ、殺されるぞ俺は。さらに、レオスくん、君は一晩入院にも関わらず、退院した後も全く署に戻ってこない」


「そうだそうだ」ガヤ…


部長がマシンガンのように言葉を吐いた最後、


「だから、君たちは明日、もう署に戻らなくていい」


「そうだそうだ」


エルトとレオスの2人は最初、ただ呆然と聞いてるが、最後はまさかのクビ通告。さすがレオスは反論したかったけど、概ね正論である故、うまく言葉を見つからなかった。


「エルト、もう行こぜ」とレオスはエルトに言葉を掛けるが、エルトは何も喋らず、ただ沈黙だった。


2人が署から出て、とりあえず適当に場所を探してこれからを話すところで、ノヴァーリスとばったりあった。


一方、署内は、2人が署から出た後、ある警官が部長に話を掛ける。


「これでいいんですよね部長?」


そして部長は


「いいんだ、あの2人は警察におさまる人じゃない。それに、あの【天狼の心臓シリウスハート】に関わりたくないのも本音だ。ああいうやつらは専門家に任せればいい」


「ですよね、僕たち警察じゃ流石に歯が立たないよね…なんていうか自分がそれを言って悲しくなった」と、警察なのに自分の無力さを感じたか、警官は苦笑いをした。


部長もう「うん」と頷きた後、いきなり


「そういえば、さっきからずっとそうだそうだしか言ってない大根役者はどいつだ?」と話題を変え、それを聞いたその場にいる警官たちは一斉に


「それでは、僕たちはこれからパトロールに行ってきます」と一目散した。


話はエルトたちに戻す。ノヴァーリスと会ったのは偶然ではなく、どうやらノヴァーリスはずっとエルトたちを待ってたらしい。2人は彼女に警察をクビにされた事を打ち明け、これからどうするかを悩んでるところ、ノヴァーリスは「いいとこに連れてあげる」と言って、2人強引にとある場所にまで案内した。


3人が到着したのは、≪ガーディアン≫のクラークデール支部だった場所。そう、帝国の外交圧力で、≪ガーディアン≫仕方なくこの町から撤退した後の3階建ての廃ビル。そこにエルトは、


「どうしてここに?」


「とにかく、入りましょ」とノヴァーリスがそう答え、勝手に扉を開けた。


扉の向こうには、1階の奥には簡易の受付カウンターがあり、受付の左には大き掲示板がある、もちろん今は掲示が1つもないが。そして、受付の右には、ガーディアンと依頼人の相談用のソファとテーブルセットが、何セットが置いてある。ただ、2人が驚くのはそこではなく、何故ノヴァーリスは鍵を持ってるかと、何故室内は塵1つも付いてないところだ。


「え?なんでノヴァーリスさんは鍵持ってるんだ?それに、見たところ、長い間放置されたとは思えないほどきれい」とレオスはノヴァーリスに質問した。


「ふふん、今日から、あなた達は、≪ガーディアン≫の正式メンバーになりま~す、パチパチ」


「ええええ?」


流石に驚く2人、ノヴァーリスは更に、


「私はメンバーじゃないんだけど、エルトくんとレオスくんの外部協力者として、これからは一緒に行動する事になりました」


「いや、どういう事?俺たちは≪ガーディアン≫になるなんて、申請してなかったぞ、いや、これから申請しようと考えてるけどよ」レオスの次に、エルトも


「ていうか、≪ガーディアン≫は帝国の圧力で撤退したはずじゃないの?急に支部の再開なんて聞いてないよ」


ただ、どうしても2人が知らないうちに≪ガーディアン≫になった経緯を話したくないノヴァーリスは強引に話題を変えようとする。


「エルトくんはずっと病院にいたから、知らないのは当然です。レオスくんも何週間、どこほっつき歩いたかも知らなかったし。とにかく、今細かいところはいいんじゃないですか?それに、ここにいる面子以外にも、後2人のメンバーがいるよ、多分もう来てるはず」


「いや全然細かくねえよ。最初森に入りたいと頼まれた時からずっと思ってるけど、リスちゃんって、ちょっとズレてるよね?」とレオスは我慢できず、ツッコミを入れた。


「ズレてるって失礼ですねレオスくん、これでもですよ私」


「あらひと…がみ?何だそれ?」


「詳しい事はメンバーが揃ってから話しましょ、色々情報交換も兼ねて、ね?」


と、そう言ってるそばから、1人の少女が2階の階段から降りてきた。


「お?コルちゃん、上にいたの?」


ノヴァーリスはすごく嬉しそうな顔で「コルちゃん」に話し掛けた、少女の方はいきなりレオスの方向にフルスピードで急接近、さらにちょっとしたねっとりの声で


「レオス様!レオス様!!」と、レオスを様付けで呼ぶ、


そう、ノヴァーリスがコルちゃんを呼んでる人物は、まさにその夜、キボルスをお父さんと呼んでる少女、コルチカムだった。

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