第2章

エピーソード8

「お、エルト、目、覚めたか?」


レオスと1人の少女がエルトの病室に入った。その少女はもちろん、あの夜、エルトたちが助けた、メルナリアのリミッターである少女だ。


あの夜、視界が悪く、少女もマントを羽織っており、そもそもそれどころではない状況で、まともに少女の顔を見ることは出来なかった。少女は見た目的に10代後半、ブロンズ色の髪をポニーテールに纏めて、暗い赤色の瞳、あの夜は全く分からなかったが、今見ると、かなり明るい表情で、あの夜に感じた、少し儚げな雰囲気とはまるで別人だった。


「エルトくん、無事で良かった」少女は安堵する。


レオスはエルトに喋る機会を与えず、更に


「お前、リスちゃんに感謝しろよ、リスちゃんが居なかったらお前…」少女はレオスの言葉を遮る、


「だからリス呼ばないでください、げっ歯類じゃないからわたし」少女はその呼び方があまり気に入らないようで、レオスにツッコミを入れた。


「わたしはノヴァーリス、ノヴァーリス・エノテリアという立派な名前があります!」と強調する少女に、レオスは


「いや、ノヴァーリスはなんか言いにくいし、略してリスでいいだろ」


「略にしても、せめて前半の部分にしてください!」


「いや、その前半が言いにくいから後半のリスにしたんだって」


エルトにとっては今かなりどうでもいい事を喧嘩してる2人の間に割って入る


「ええと、ノヴァーリスさん、未だに状況が飲み込めてないけど、とにかく、お礼を言わないと、ありがとう」エルトは、ノヴァーリスの名前よりも、名字の方が気になる、なにせ、それは姉、エノテラの本当の名前だから。


「ううん、エルトくん、気にしないで。今、わたしがここにいるのは、あの夜エルトくんが命賭けたお陰だから」ノヴァーリスはさらに、


「エルトくんは多分わたしの事を忘れてるけど、わたしはエルトくんの事を知ってますよ、昔からずっと」


それを聞くと、レオスは


「え?なんだなんだ?2人はもとから知り合いかよ?いや、エルトにそんな可愛い子の知り合いがいる?全く知らなかったぞ」と、エルトとノヴァーリスの関係に興味津々のレオス。


「いや、僕に聞かれても、というか、誰か説明してくれ、あの夜、その後はどうなってる?」エルトはもちろん、自分とノヴァーリスの関係性については、心当たりはある。ただ、今はまず現状を知りたいと、敢えて2人の関係や、メルナリアとエノテラなどの話を後回しにした。


「そうだな、じゃあ、俺が説明するか」レオスはその後の事について話を纏めてエルトに報告した。


あの夜は、エルトが倒れた後、警察たち森に入って捜査したが、森奥にいた、倒れた5人の傭兵はもういない、どうやら警察が到着する前に、既に撤退をした模様。そのリーダー格、キボルスを名乗った男については、警察たちの包囲を突破し、逃げられた。キボルスが逃てげる途中、かなりの警察と遭遇し、軽く戦ったが、キボルスは逃げる優先のため、本気出なかったので、警察たちの命に別状はなかったらしい、ただその晩の病院は大渋滞だった。


結局、あの夜7人の中6人は逃げたが、1人だけ、コルチカムという少女は、逃げなかった。そう、逃げ遅れたではなく、逃げられなかったでもなく、逃走を放棄した。それと、コルチカムはどうやら本名じゃなく、組織から与えられたコードネームのようだ。本名を訊ねたが、少女本人も、自分の本名が知らないと、そう述べた。


傭兵についての報告を聞いたあと、エルトは、


「うん、それについては分かった。ありがとレオス。でも、自分で言うのも何だけど、僕の記憶が間違いがなかったら、僕の両足はかなりグロ状で、右手もなくなったと、そう覚えてるけど、今は、五体満足となってる、それは?」


それを聞くとレオスは大興奮して、


「よくぞ聞いてくれた!俺が部屋に入った時はまさにそれを言いたかったんだよ、でもリスちゃんが話題をそらしたんだからさ」


「はぁ、もう、リスでいいよもう」呼び方について半ば諦めたノヴァーリス。


「とにかく、リスちゃんはすげーって」


レオスによると、エルトの手足はノヴァーリスが治ってくれたそうだ。あの夜、現場を片付いた後、エルトとレオス2人すぐ病院に運ばれた。ただ、レオスはどういうことか彼自身もよく分からないが、大事に至らなかったらしい、一晩入院観察したらすぐ退院された。


ノヴァーリスは被害者であり、すぐに開放された。開放された後翌日、退院準備をしてるレオスに護衛を頼んで、また森に入った。当時の彼女は、大事なものを探してると、そもそもあの夜、森に入ったのもそのためだった。ただ、目的物の1つだけ確保した後、土地勘のない≪天狼の心臓シリウスハート≫しばらく森の中に迷って、2つ目のもの探してる途中、エルトたちがやって来た。


ノヴァーリス曰く、あの森は実は、太古の時期からすでにある、昔はそんなに範囲は広くなかったが、長い年月を経て、森は更に範囲を広げた。


で、その森の中には、古い祠があり、探しものはその祠の中にある。


「うん、最後は見つけた?探しもの」とエルトがノヴァーリスに聞くと、


「ああ、見付けた、ていうか、あの森にあんな建築物があるなんて知らなかったぜ」何故かレオスがそれを返事した。


「まぁ、あの森はほんっとうに広いからな、下手すると、の面積よりも広い」


エルトは、探し物に付いても、心当たりがある、それについて聞こうとする前に、ノヴァーリスはそれを察したか、


「心配しないで、エノテラさんの剣は警察に回収され、保管してるよ。でも、本当に警察の人たちがかわいそう」とくすっと笑うノヴァーリス。


どうやら、エノテラの大剣は、最初は人力で回収するつもりだったが、結局誰も持ち上げることが出来なくて、警察署の力自慢たちは全滅、8人囲んで持ち上げようとしても無理、それ以上人を増やせても、却って邪魔になるだけで、最後は重機を出動した。


が、最初は1台で十分であろうと、みんなそう思ってたが、それでも無理だった、その時の現場はざわついたらしい、みんなは「なんだあれ、そんな重い武器、欠陥品だろ?」と。多分、今になっても署の話題の中心だと。最終的には重機4台を使って、4方向で持ち上げて回収された。運ぶ途中は、何回もバランスを失って結構危ない場面もあった上、重機のアーム途中何回も重量を耐えられず壊れたらしい。


それを聞いてホッとしたエルトは、


「それで、ノヴァーリスさんの探しものというのは?」と聞くと、


ノヴァーリスは腰の後ろに、横方向にしまってる物を前に持って、「これです」と答えた。


それは、銀色に輝く、ただ、形状からして、ナイフにして大きすぎる。刃の部分、長さはおよそ50cm、刃と鍔の連結部位はかなり細く、目測は5から8cmくらいで、連結部分の少し上は急に幅が広くなり、25cmくらい、上に伸ばすに連れ、だんだん細くなって、刃先の部分は完全に尖ってる。そして剣身自体はかなり厚みを感じて、刃の部分もそんなに切れ味が鋭いと感じない。柄の部分は普通の剣とはあまり変わらない。全体的には変な形をした「短剣」である。


「その短剣がノヴァーリスさんの探しものか?」率直な感想を述べたエルトに対し、ノヴァーリスは


「何を言ってるんですかエルトくん、これはどう見てもワンド、杖でしょ!」全くボケてる感じがないノヴァーリス。そこにレオスは


「俺も最初はそれを短剣と呼んだんだけど、その時のリスちゃんも今と同じ、杖と言い張ってたな」


正直、呼び方はどうでもいいと思ってるエルトだが、流石にこれを杖と呼ぶノヴァーリスは、ちょっとズレた子だなと、心はそう思った。


「結局、その…杖と僕の傷はどんな因果関係があるんだ?」と、ご最もな疑問をするエルトに、またもレオスはノヴァーリスの先に答えた。なんかレオス今日も変だなと思うエルトはとりあえずレオスの話を聞いた。


レオスの話によると、この杖がないとエルトの傷は直せないだと。最初レオスはスマコンじゃだめなの?て聞いたが、ノヴァーリスの使う魔法はそもそもスマコンに登録出来ないらしい。


これを聞いた時、エルトはピンと来た、多分あの時自分が使った【加速アクセラレーション】と同じ類のもの、この世に存在しないからスマコンに登録出来ないだと。ただ、ノヴァーリスによれば、彼女が使ったのは、【加速アクセラレーション】と違って、ちゃんとした魔法だそうだ。


続きは、実際あんまり理解出来てないレオスの話を聞くとかえって混乱するからと、ノヴァーリス自身で話すことにした。


彼女が使ったのは、四大元素に属する魔法ではないとのこと。


この世界のあらゆる魔法は、火、風、水、土の4属性に帰属する、例え最上級魔法であっても、同じだと。


本来、治癒に関する魔法は、風と水の魔法群に属するが、彼女が使ったのは治癒の魔法ではなく、エルトは病院で2週間も寝続けたのも、これが原因である。彼女が使った魔法は、言わば、一種の創造魔法である事。ただ、メルナリアのように万能ではなく、あくまでも、本来形あるものを、その形になるまで復元するだけで、癒やし効果は全く無い。それに、彼女単体の力では、到底出来ないから、その杖が必要だと、だからレオスを頼んで森に行った。


最後まで聞いたエルトは、ここ2週間の事をだいたい把握したと言い、とりあえず2人に感謝して、眠りについた。

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