エピーソード6

「エルト!!」ふっ飛ばされたエルトを見て、レオスは心配そうな顔で叫ぶ、


「ガハァ…痛いけど、大丈夫だ。それより、2人とも、気を付けろ、もう一人いるはずだ!」


そう、このエルトをふっ飛ばした男をお父さんと呼んでる女性のことだ。前も同じだ、この男だけ真正面から出てきて、もう1人はどんなやつかは結局分からなかった。


「ほう?まさかこちらの情報を掴んでるとは、なかなかやるじゃねえか、兄ちゃんよ」


その余裕振り、これもまた前回と同じだ!このままじゃ、またやられる!くそ、あと少しなのに、また死ぬの僕?そういえば、今回また死んだらどうなるかは、最後までメルナリアに聞けなかった。だめだ、今は失敗することより、対策を考えろ!とエルトはそう自分に聞かせた。


幸い、出口の近くにいるエルトたちは、他の警察たちとの距離はそう遠くない。そう察してる男は、


「正直、御子さま以外、この森にいる全員を殺ってもいいんだが、むしろ俺個人としてはやりたいくらい、が、雇用主は現段階、波風を立てたくねえから、出来るだけ穏便にと指示がある、だから、さっさと終わらせてもらうじゃねえか!」


喋り終わったすぐに、男は【風刃ウィンドブレイド】という言葉にスマコンが反応して、風の魔法だと、エルトはすぐさま男の真正面の位置からずらして、回避を成功した、


「誰も一発だけとは言ってないよ兄ちゃん」


どうやらその男は、その一声で2発連射した、1発目をギリギリ避けたエルトは、その予想外の2発目は回避できなかった。


その2発目の【風刃ウィンドブレイド】はまたもやエルトの足に命中。どうやら、森に騒ぎが起きたせいで、男はエルトたちを殺す気はなかったようだ、彼の「雇用主」曰く波風を立ちたくない。それでも、両足やられたエルトは、戦力どころか、もはやまともに立つ事すら出来ない。


そして、男は今度、また同じ魔法をレオスに向かって放つ。ただ、レオスはとっさの判断でずっと背中にしまってる小型の金属製盾を構えて防御を取った。


基礎攻撃魔法のせいで、威力がそこまで高くない、ただ直接に受けた衝撃が強すぎて盾がふっ飛ばされ、レオスも尻もちした。


「お?こっちの兄ちゃんも中々やるじゃねえか?まぁ、流石に暗殺用の魔法じゃ金属を切るのは無理か」と言いながらレオスに拍手を送る男。


「この野郎、舐めやがって!」と、男の拍手が気に入らないか、レオスはすぐ立ち上がって、警棒を手に男に向かって、その姿は、突進というより、もはや特攻。


一気に距離を詰めたレオスは、警棒を上から振り下ろす。レオスの常人離れの力で、もし頭に直撃したら、あるいは、と、エルトはそう考えた、いや、願ってた。ただ、男は避けもせず、ただ手をレオスの頭に「ぱっ」と、デコピンしただけで、レオスはとんでもない勢いでふっ飛ばされ、気絶。


「実は俺、魔法より、肉弾戦の方が得意なんだよ、兄ちゃん」


男2人はもはや戦闘不能と見て、男は少女に


「さぁ、行こうか御子さま」男がそう言うと、少女の目はすごく悲しげにエルトを見つめる。


エルトは少女の目を見て、心の中で、どこか悲しいような、悔しいような、なんとも言えない感情をこみ上げた。どうして姉はそんなに優秀なのに、自分はこんなに無能なんだと!どうしてこの世界はこんなにも理不尽なことがあるんだと!自分はなんのために士官学校に入って、なんのために警察になったかと!


「くそ!くそ!!」エルトは立ち上がろうとしたが、両足は言う事を聞かない。


「姉さん!!メルナリア!!ここまで来て、僕は、俺は!諦めたくないよ!」


そう叫んだエルトは気が付くと、周囲の景色が止まったように見えた。そして、どこからか分からないが、エノテラの声が聞こえた…ような気がした。


「姉さん?姉さん、いるんだろ?教えてくれ、姉さんの力の使い方。その子を助けたいんだ!」


「エルト、いい?私の力はね、本来、対一個人用のものじゃないの。それにね、人間の肉体での権能開放は、リスクがすごく高い。メルナリアがエルトに私の権能を開放するの、私はずっと反対だったのよ。そもそも、今回の事件は、エルトが何もしなくても、私がなんとかするから」


「違う!違うんだ姉さん!姉さんは神様で強いなのは知ってる、メルナリアから聞いた。でも、僕も男だ、それにもう子供じゃない!ずっと守られる側にいるのは嫌なんだ!」


「…状況は状況だもんね、分かった、でも約束して!こんな使い方は今回の1回だけよ!」


「目の前に助けを求める人がいるのに、なんにも出来ない自分はいやだ、覚悟は出来てる!バカでごめん、姉さん」


「ううん、分かってる。エルトは優しいから、昔からずっっと。それじゃあ、今回だけはお姉ちゃんに任せて!」


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時間が再び動き出す。


「うううおおおおぉぉぉぉ!!」突然のエルト雄叫びに、気絶したレオスも含め、全員が一斉にエルトの方向に向く


「エルトくん!」少女はエルトの身に何か変化が起きたかを察したような顔した。


【加速】アクセラレーション」と言った瞬間、地面に落ちた葉っぱや塵が舞い上がり、エルトは消えた。そして、一陣の風と共に、エルトは男の目の前に現れ、一撃を入れる。


男は背負ってるエノテラの大剣を瞬時に地面に刺し、すぐさまエルトと距離を取った。あと少し、届けなかった。戦闘経験の差か、ギリギリ避けた。


「危ねえな兄ちゃん!あの剣を背負ったままだとさっきの一発でやられたかもしれねえ」と、男は始終余裕を見せてるが、男の傭兵の嗅覚か、エルトの突然の豹変振りに、形容し難い恐怖感を感じた。おそらく自分はじゃ敵わないと判断した男は今、内心は焦り始めた。


「コルチカム、やれ!」焦った男は、ずっと隠れてる最後の1人、この男の事を、お父さんと呼ぶ女性に指示を出した。


「はい、お父さん」とねっとりの声と共に、少女、コルチカムはまたレオスの背後からゆっくり出てきた。レオスはすぐに気持ち悪い感覚と同時に、脳が少しだけ気持ち良かったと感じた。


その感覚とは、呼吸困難に軽い目眩。レオスはすぐ理解した、これは多分酸欠による窒息現象だと。ここにいるとヤバいと、離れようとするレオスの背後にコルチカムは立ったまま


「【死ノ風ヘブンズウィンド】」と唱えた。


レオスはこのままじゃ自分だけじゃなく、ここにいる全員がヤバいと直感し、レオスはコルチカムを担ぎ上げ、みんなのいない方向に全力ダッシュした。


(ああ!死んだな俺…20歳の人生か、短え…せめて彼女を作って、デートして、最後…に……ああ、もう走れねえや。ごめんエルト、俺、先に行くわ…しぬな、よ)心の中にそう呟いたレオスは力尽き、倒れた。


レオスは意識を失ったなおコルチカムをきつく抱きついてる。そのコルチカムはというと、顔はレオスの胸に埋もれて、体は小刻みに震えてる、どうやら彼女の魔法は解除されたようだ。


レオス決死のダッシュを見て、エルトはもう一度【加速】アクセラレーションを唱えた。


この【加速】アクセラレーションは、通常の風属性魔法【速度上昇スピードアップ】は、傍らから見れば、似てるようなのもだが、決定的な違いがある。


速度上昇スピードアップ】、文字通り、自身、または他人に風の加護を与え、その人自身の敏捷性を上げる、いわば一種の身体強化魔法だ、もちろん、そこまで高度な魔法じゃないため、この魔法自体は多くの人が習得している。


一方、【加速】アクセラレーションは、【時の女神】エノテリアの権能によって、時間を操作するもの、エノテリア特有能力であり、魔法の分類に属しない。速度の上昇幅は凄まじく、その気があれば、光と同等以上の速さは出せるが、まず人間の体じゃ耐えきれない、これでもだいぶスピードを抑えてる方だった。


【加速】アクセラレーションをしたエルトを見て、男は、例えエノテラの剣を背負ってなくても、もう1度避ける自信はないと思い、エルトの攻撃を直接に受けると賭けに出た。速度が早くなったとは言え、こんなボロボロの体じゃ、避けるよりも、攻撃を受け止める方がリスクが低いと判断したからだ。このスピードだと、もし避けきれなかった場合、防御体勢を構えてない自分の急所をカバーし切る自信はない。それならいっそう体勢を構えて、向こうの攻撃を見てから防御した方が賢明だと男は思った。


だが、、男はまだ知らない。今、目の前にいるのは、さっきまでの「人」ではない、エノテリアによって、【疑似神格】を獲得した、「神」そのもの。


エルトは瞬間移動かのように男に急接近し、右ストレート!


代わり映えのないストレートを見て、男は勝った!と思い、自分の手で直接エルトの右ストレートを受けた、瞬間、


「ドッカーーーーーーン」


男は3歩くらい後ろ下がったが、立ってる!エルトは爆発のせいでまた数メートル外にふっ飛ばされた。【疑似神格】もこの爆発と同時に解除されたようだ。


「兄ちゃん!名前は?」


「エ、ルトだ、はぁ、よく、覚え、ておけ!」


「俺は≪天狼の心臓シリウスハート≫の四番隊隊長、キボルスだ!今日の勝負は預けておく!」


キボルスは劣勢に加え、他の警察もここに包囲し始めてると感じたか、更に3歩下がって、そこの地面に転がってる自分の腕を拾って、1人だけ撤退した。


キボルスが撤退した後、足はもはや使い物にならない形に、右腕も完全になくなったエルトは、そのまま倒れて気絶した。


最後の爆発は、実はエノテリアが持つ、破壊の権能によるものだった。本来は爆発しない、直接対象を破壊して、無に返すが、ただ、こんな神の権能は、人間一人、生身の肉体でコントロール出来るはずもない、結局、権能の反動によって、逆にエルトの手が消えてしまった。

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