エピーソード3

休憩中、エルトは今自分がいるこの、「姉の部屋」を見渡す、最初は何故自分は姉の部屋にいるのか不思議と思っていたが、メルナリアの話を聞いた後は、なんとなく納得した。【創造】を司る女神、それなら、姉の部屋を再現するなんて造作もないだろ。家の一階にある、窓のない部屋で、床は「タタミ」というものが敷いてる、どこから仕入れたか分からないが、姉によると、これは大陸西方面、陸地から離れた小さな島国の伝統床材だそうだ。素朴で、あまり飾りはないが、すごく落ち着いて、居心地は良かった。姉によると、部屋はその島国風に改造した、和室と呼ぶらしい。


ただ、こんな落ち着く部屋の中に、1つだけものすごく殺風景なものが置いている、それはエノテラが持ってる大剣だ。吸い込まれるような黒さ、それは剣身だけではなく、剣全体が漆黒そのもの。普通の黒色ならば、光が照らすと、剣はその光を反射するが、エノテラの大剣はなぜか光が照らしても、全く反射がしない。そして、その剣のもう1つの特徴として、尋常じゃない重さ。エルトは過去にその剣を何度も持ち上げる事にチャレンジしたが、単純に重量じゃなく、他になにか力によって引っ張られて持ち上げられない感じだった。


エルトはその剣を見て、何か思い出すように、突然、


「そうだ、姉さんの大剣!僕が死ぬ前に遭った男、そいつ、姉さんの剣を持ってた!姉さんはどうなってる?」


死ぬ前の記憶を思い出したエルトは、すごく動揺していた、が、


「お!元気になったかエルトくん?」メルナリアはエルトの動揺を無視して質問で返す。そして更にエルトの答えも待たずに勝手に話を進む女神。


「物事には順番がある。エノテラは無事よ、彼女は女神であり、戦闘力は、私を含む、すべての神々の中でも、彼女は別格よ、まっ、説明より、見せたほうが早いわね」


「え?姉さんとメルナリアの他にまだ神様がいるの?」


エルトは驚きを禁じ得なかったが、メルナリアはメルトの質問を無視し、手を床に飾り、呪文を唱える


【森羅万象を映し出す、幻実げんじつかがみよ、まぼろしの女神メルナリアの名を以て命ずる、星なる根源、そらなる始祖、迷える子羊を導け】


すると、メルナリアの手を中心に銀色輝く魔法陣が展開して、エルトが瞬きをした一瞬、目に映されてた景色は、エノテラの部屋から、大森林になっていた。


-----------------しばらく後-----------------


「今映ってるのは、正確にはあの子本人じゃないけど、彼女の力そのもの、今はまさに暴走の真っ最中よ」


そう、メルナリアがエルトに見せた映像とは、エルトが死んだ後から、今に至るまでの実際記録だった。エルトはその映像を見て、とても受け入れるものではなかった。


実は、エルトが死んだ後、元の世界の時間で言うと、30分くらいしか立ってない。そして、その世界がどうなってるというと、人類の文明は壊滅状態、そして、生きてる人間を含め、生き物すべては死滅になっている。もはや死の星。


「こうなったのは、エルトくんの死が直接の原因よ」


「僕の死?」


そして、さらにとんでもない事実を告げられるエルト。メルナリアによると、エルトはエノテラのリミッターである。


「リミッター?」


「うん、正確にはリミッターの一部ね」


実は、エルト本人は知らないが、エノテラの力の大半はエルトの中に封印されてる、普通、間違った方法で封印を解除しようとしても、何も起こらないが、ただし、リミッターであるエルトが死亡した場合、エノテラの力はエノテラの意思と関係なく暴走する事になる。それは、例えばガスタンク、無理矢理そのタンクに穴を開けたら、ガスはダダ漏れになると同じだ。


「いや、でもなんで僕?リミッターにするなら、もっと他にいい人選あるじゃないか?士官学校卒業ではあるけど、なんの特殊能力も持ってないし、一番基本となる、通信魔法ですら使えない、一般人よ?」


エルトはそこに疑問を感じる、たしかにそうだ、エルトは魔法が使えない、エーテルも溜めれない、たとえ士官学校出身でも、決して成績優秀と言えるほどでもない自身が、女神様の力リミッター?


「エルトくん、ここまでに話したのに、まだ分からないの?君はがエーテルが溜めれない原因は、まさに君があの子のリミッターだからよ」


「え?」


「そうね、さっきからずっと創世にまつわる話をしたわよね、【創世の女神】と【終焉の女神】についても」


一息をついたあと、更に言葉を続くメルナリア、


「でもね、そもそも、あれらは人々が勝手にそう呼称しただけで、私たちの本当の名じゃない。そして、私たちが司る権能も、創造と破壊だけではない」


「本当の名?」


「私の本当の名は、【幻の女神】メルナリアよ。まぁ、私の権能は今そんなに重要じゃないから省くわね」


「そういうことか、さっきからずっと気になってた、なぜ呪文を唱える時はまぼろしの女神って言ったのかを」


「ああ、あれ?あれは実は私が即興に作っただけで、本当はなんの効果もないよ」と、てへぺろの顔をする。


「は?」


「あのね、エルトくん、君は私を舐めてるみたいだけど、エルトくんがいる世界の魔法の9割は、私が開発したものよ。世界に存在しない、私だけが使える魔法もある。それから、呪文ていうのは神に力を貸すための言葉だから、開発者であり、神様でもあるこの私に、呪文が必要訳ないじゃない?」


てへぺろからのドヤ顔、顔だけ忙しい女神メルナリアは続く、


「そして、エルトくん、君の姉の本当の名は、【時の女神】エノテリアよ。君がエーテル溜めれないのも、あの子の権能せいよ」


【時の女神】エノテリア、彼女が司る細かい権能や加護はいっぱいあるが、主な権能は時間、重力、破壊この3つである。さらに火、風、土、水の四大元素の内、土と水なども。そして時代や地方によって呼び名も異なる。【終焉】や【破壊】のようなネガティブなイメージもあれば、【月】や【自由】みたいにポジティブなイメージもある。


メルナリアの説明では、エルトは本当はエーテルを溜めれないのではなく、むしろ権能の影響で常人よりエーテルを高速に体内に吸い込んでいる、ただ、エーテルを体内に入った瞬間、すぐに破壊、分解されてなくなるだけである。


「これで、だいぶ理解した?エルトくん自身に関する疑問も、世界の現状も」


「理解するだけで精一杯だった、それに、正直、未だに納得出来ないし、受け入れないことだらけだ。でも、まぁ、ごちゃごちゃ言ってもしょうがないしな。ただ1つ、僕の名字がメルナリアの理由について、教えて欲しい」

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