エピーソード4

「そうね、もう色々説明したし、もういっか。実は、エルトくんの名字が私の名前の理由は、エルトくんは私が造ったからだよ」


またもやとんでもない事実をカミングアウトしたメルナリアに対して、エルトは


「いや、もはや驚くのも疲れてきた…ここは新事実バーゲンセール会場か何かですかね」エルトは乾いた笑いした。


どうやら、エルトと今の人類は、見た目こそ同じだが、全く違うルーツを持ってる。今、この星を支配してる人類は、元となる別の種族を、現在の形になるよう、メルナリアが進化させたもので、それに対してエルトは、無から有へ、メルナリアが0から造ったもの。


「それじゃあ、やっぱりメルナリアは僕の母お、っていっっっったっ!!」と尻を押しながら跳ね上がるエルト。


エルトの「母親」の言葉を遮るように、メルナリアはどこから持ち出したデカいフライパンをエルトの尻に向かって思い切り叩いた。


「もう1回言ったら、次は釘バットになるわよ!」笑顔してるメルナリアだが、ものすごい鬼気迫だった。


エルトを造ったのはもちろん、エノテリアのリミッターのためだったが、どうせ造るなら、せめて自分好みの顔にしちゃうお!みたいな軽いノリで造ったから、割りとイケメンである。


メルナリアは更にリミッターについて補足する。彼女たちにいる空間、≪エーテル界≫とエルトの世界は全くもって別物であり、エルトの世界では、神の強大過ぎる力故に、例えその神は何もしなくとも、ただそこに存在するだけで、世界に災いをもたらすから、その世界に活動するために、リミッターを付けなければならないのだ。


リミッターの機能は、神様の大半の力を一時的に預かる事である、もし必要の場合、鍵を使ってそのリミッターから必要となる力を開放する。


昔は姉妹共にリミッターを付けて世創りしていた、人類を進化させ、知恵を与えた。そして、自分の役命が終わったと感じて、エノテリアに後のことを任せてから≪エーテル界≫に戻った。それと同時に、彼女のリミッターも眠りについた。


「ふぅ、久しぶりにすっごい喋った、これで全部かな?他にまだ分からないところある?エルトくん」


「もう大丈夫、それより、これからはどうするんだ?これ、ただの歴史授業じゃないのは分かってる」


「さすがエルトくん、話が早いわね!」


喜んでるメルナリアと対照的にエルトはなんとなく嫌な予感をする。


「私はこれからエルトくんを本来の世界に戻す」


「いやまぁ、だろうね、流石にもう驚かないよこんくらいじゃ。でも今更戻っても、もうどうしようもないだろ?もう終わったし、僕の居た世界は…姉さん、僕のせいで」


「正確には、あれはエルトくんの姉、エノテラじゃない、あれはエノテリアの形にした、【終焉】そのものよ、意思はほとんどない、一種概念みたいなものだ。それに、これは君のせいじゃない」


慰めの言葉に挟んで、エルトが聞こえない小声で「時期が悪いよ」と独り言を言ったすぐ、


「それに、誰も君をそのまま今に戻すと言ってない。君はこれから、君が死ぬ直前に戻すわよ。そして、私のリミッターを助けて上げて」


「メルナリアのリミッター?眠りについたじゃないのか?」


「ううん、ずっと眠ってるわけじゃないの。とにかく、また話す機会はあるわ、今は余計な情報を与えたくない、エルトくんの頭が爆発しそうだしね」


「確かに、さっきの話はまだ消化しきれてない。…分かった、それで、メルナリアのリミッターは誰だ?」


「それは、エルトくんが死んぬ前に、森で見た子よ」


「最後の1つ、聞いていい?メルナリア」


「いいよ、何?」


「何故自分に行かないの?メルナリアが行ったら、一発解決じゃないのか?」


「いい質問ね、でも残念、行かないじゃなく、行けないのよ。原因は…って、だから今は余計な情報は与えたくないの、後々また話すわ」


「どうやって?」


「エルトくん、男性はくどすぎると、モテないわよ!」


「よっしゃ行ってきます!!」エルトはすぐ立ち上がり、襖に向かって手を伸ばす。


「待ちなさい!襖を開けば行ける場所じゃないよ過去は。襖の外は何もない、言葉通り【無】よ、行ったら跡形もなく消えちゃうわよバカ!」


「は?あっぶな!こういうのは早く言ってください、死ぬところだった、ってもう既に死んだか…なんでこんな危ない場所のど真ん中にあるんだよこの部屋は」冷や汗をかいたエルトは秒速で襖の側から離れた。


「エルトくんってこんなにバカだっけ?はぁ…まぁいいわ、とにかく、私の前に来て、今から、エノテラが君に預かった権能の、ほん~~~~の一部を、エルトくんにも使えるように、開放して上げるから」


「姉さんの権能?え?僕も使えるの?それ僕無敵じゃね?」


かなりテンションを上がってくるエルトに、メルナリアは釘を刺す。


「本当にほんの一部ね、神の権能全般とも言えるけど、あの子のは特に、例え出力が1%だけでも生身の人間がそれを使ったら、瞬間灰にも残らず消えちゃうからね。私が造ったとは言え、エルトくんの体は人間とあまり変わらないから。まぁ、人間をモデルにしたから当然と言えば当然だけど」


「正直、いまだに頭はこんがらがってるけど、でも、世界中たった一人だけ魔法使えない、なんの特殊能力もない自分が、ようやく人並みに魔法を使える、これ以上嬉しいことはないよ」


開放の儀と称して、エルトを自分の前に跪きなさいと。エルトはようやく力を手に入れると思い、メルナリアの言葉通り素直に跪くと、


「ちぇすとぅ!!」いきなり意味不明な叫ぶ声をするメルナリア


「あいたっ!」


まさかの頭にチョップを食らった!権能の開放は完全に予想外のやり方で、エルトは完全にポカンとした。


状況を全く飲み込めないエルトはただ間抜けな声で


「え?」


メルナリアによれば、もしこれをエルトの世界でやるならば、確かにプロセスが必要だが、≪エーテル界≫であれば、なんの儀式も不要で、ただ触るだけでいいだと。なぜなら、エーテルの存在が希薄なエルトの世界では、権能の開放はエーテルを瞬時高濃度にしなければならない、だから鍵となる媒体が必要だが、でもエーテル濃度が高いこの空間では、触るだけで力を引き出せる。でも触るだけだとつまらないから、チョップにしたとのこと、もちろん、跪くも全く必要なかったと。


「ほら、行ってらっしゃい」とメルナリアの声とチョップと共に、エルトはいつの間にか、森の奥に居た、そして、彼の隣のレオスが「どうやらビンゴーだぜ」と…

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