誰に会うかは運
「ガク〜?」
廊下を歩いていると姿は見えないが
アヤコの声がする
非常に品のない探し方だ
「ここだよ、庭の横にいる」
立ち止まり、場所を伝える。
「見つけた」
裾をギリギリ引き摺らない程度の着物
歩くたびにふわりと1番上の布が舞う
桜色の生地の上に、若草色の薄い透ける布を重ねている。
晴れの日にとても似合う色合いだ
「今から書道の先生がいらっしゃるって
ガクも一緒にどう?」
「ありがとう。
久しぶりにご挨拶をしたいな
お元気そう?」
「えぇ、とっても」
出会った頃にすでにお年を召されていたが
それから10年ほど
元気なら嬉しい
「アヤコの授業の時間はいつも仕事だから
半年ぶりくらいかなー」
「先生も会いたがっていたわ
早く行こう」
手招きに招かれて
一緒に授業へ向かった
この屋敷で最も書物が多く置いてある部屋
それが勉強で使っている
正座をするとちょうどいい高さになる机が
2列並んでいる
合計8くらいあるが全て使っているところはみたことがない
「おはようございます。アヤコ、ガク」
「おはようございます!先生」
「おはようございます。ご無沙汰しております」
姿勢の正しいご老人
シャキッとした話し方
こちらまで背筋が伸びる
「ガク、少しみない間にまた立派になったな」
「ありがとうございます。日々精進しております」
「今は宮で働いているのだったか
財務関係が担当と聞いているが?」
「はい。予算関係の書類を」
満足そうに聞いている先生
財務関係といえば聞こえはいいが
働き始めて5年。まだまだ下っ端だ。
「最近は南の方の作物がうまく育たないようです。
そこに多めの予算をとなっているのですが
それをまたどう活用すればいいのかが難しいようで…ただ数字だけで管理というわけにはいかないところが難しいです」
「肥料をよりよくするのも手かと思うぞ
土が弱ってきている可能性が高い」
「なるほど…ありがとうございます」
するとここで頑張って聞いていたアヤコのキャパがオーバーしたらしい
頭の傾きが異常な角度だ
「ごめんね、アヤコ。
先生、僕はこれで。アヤコをお願いします」
「はい。またお話ししましょう。
次回はガクさんに会いにきますね」
ペコリと先生に一礼をし
アヤコに手を振って部屋を出た
肥料に投資か…
といっても化学的な薬のようなものはなく
牛糞などといった自然に基づいたものになるだろう
そのあたりの効果がまとめられている書物はないだろうか
やりすぎて悪化したらもともこうとない
歩いていると中庭に出てきた
ちょうどいいかもしれない
少しここで考えを整理しよう
床に座り込み、足をそとに放り出す。
高さがあるから裸足でも地面に着くことはない
ぶらぶらと前後に足を動かす
この世界にネットなんてものはなく
調べるのも一苦労
誰かの知恵を借りるのも簡単ではない
「おや、ガク。はしたないねぇ」
足音を立てずにいきなり声をかけてきた李彦
「いいんです。女の子ではないんですから
誰も楽しくも興味もないでしょう」
「それもその通りだね」
李彦は同意をすると、隣に同じ体制で腰をかけた
「何に悩んでいるんだい?」
「昔、話をしたことを覚えていますか?」
「君がここではないところから来たという話かな」
そう…
李彦はこの世界に来て初めて会った人で
そのままお世話になったのだ
人通りの少ないとはいえ
あからさまに怪しい男をよく拾ったなと思ったが
直後に人ではないと知って謎に納得してしまった
「先程、先生にお会いした際に知恵をお借りしたんです。ただ…それに関する書物を探すのもそもそも存在しているのかも確認する術がないのを感じていまして。それで前の世界を思い出していたんです」
なんて便利だったんだろう
「そんなの簡単だろう?」
くすくすと笑う声にいらっとする
「僕がいるじゃないか。
先生よりも知識がある、趣味の書物はさっきの部屋でみただろう?君の言うネットといものよりはよっぽと便利だと思うが」
「確かに…」
って違う!納得しかけた!
いや、納得はしているんだけど
「妖を倒すときも、仕事でも頼るってカッコ悪すぎるじゃん。嫌だよ」
大丈夫。今ので少し落ち着いた
ナーバスになっている場合じゃない
「そもそも俺、頭いいんだったわ。
思い出した。努力型舐めるなよ!」
とりあえず書物を漁るところからだ
立ち上がると李彦は扇子で顔しながら目はにこにことこちらを見てきた
うまく誘導された気がしなくもないが、解決の糸口が見えたことに感謝する
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