第15話 Aの5

ほぼ同刻 神原家マンション



ミネルヴァ、そろそろ行こうかねぇ。

すまなかったね、こんな魔方陣に閉じ込めて。

じゃないと、その姿であっちに行けないからねぇ。


・・・私だけ生き残ってすまないね・・・。

私もあの子たちを全てを使って送り届けるつもりだったけど

思ったよりも美香、ジヴァニアの魔力が多かったよ。


誰に似たんだかねぇ・・・。まぁ母親似だろうねぇ。

そういえばジェニエーベル様も母親似だったね。

女性が強い時代になったもんだ。ははは。


もう一つ謝っとくよ、私はあんたと一緒にあっちに戻るよ。

私の残された一生をジェニエーベル様に使うよ。

一緒に死んであげられなかった償いと思っておくれ。


ジェニエーベル様が紫の国を復興させるもよし、

しないのもよし、何をするにも手伝ってやるよ。



じゃぁ始めるよ。



同刻 シンの森


「勇樹、刀を」美香がそう言うと勇樹君は刀を

魔方陣の中心に置いた。


ほどなく、天より一筋の光が刀に向かって降りてくる。

その光が刀に当たる。当たる瞬間に美香が詠唱を始める。


と同時に衝撃音と同時にその上からもう一つの光が

被って落ちてきた。


美香の呪文は

全くもって出鱈目で何を言ってるのかわからない。


光が大きくなる。何かが来るのがわかる。


「勇樹!受け取って!」美香がそう叫ぶと

勇樹君は魔方陣の中に飛び込み腕を、両腕を前に出し、

何かを抱えようとしている。


ほどなく勇樹の腕に人が、そう、ミネルヴァ様が

抱かれた。


勇樹君はミネルヴァ様に紫の布、「紫の国」の御旗を巻き付け


「母さん、やっと帰ってこれたね。俺が先に来ちゃったのは

 謝るから怒らないでくれよ・・・・。」


「じゃあ、・・・故郷に帰ろうか・・・。」

と勇樹君が言った。私は勇樹君の顔を覗くことはできなかった。


「だれか!受け止めて!唯ちゃんを受け止めて!

 少しトンネルが安定しない!」

美香はそう言いながら今度は他の呪文を唱える。


その空間のみ、時間を遅らせる魔法。しかし、美香には無理だ・・・。

その魔法は補助魔法使いの中級魔法だ。


よろめきながらもソミュールも唱える。ソミュールも補助魔法使いではない。


ま、まかせろ、立ってるのがやっとのファルツ。

「俺もやってやる、へたくそ3人がすれば少しはいけるだろう」


人の形が見える。頭らしいものが見える。

光のトンネルが細くなる。


わ、私が!魔方陣に飛び込んでベル様を引っぱる!!!

と考えた矢先、後ろからウゾが魔方陣に走り込み


「よっこらせ!っと!」強引にベル様を引っぱりそしてすぐに

魔方陣から離れた。


「いや、普通に引っ張ればいいじゃねえか。おかしいか?」とウゾ。


「おやまぁ、色男に助けられたのかい、私は。」とベル様。


「おれもあんたみたいな綺麗なおば・・・いや、姉さんを助けられて

 幸せもんだ。」ウゾは少しセリフを間違えそうになったが

ギリギリセーフだったらしい。そして、

ベル様をゆっくりと地面に立たせた。


「なんとか全て成功したみたいだね、勇樹、待たせたね。

 私も来ちまったが許しておくれ」ベルがそう言うと


勇樹君は首を何度も横に振り

「こちらこそありがとう、・・・本当にありがとう」と

ベル様に言った。勇樹君は堂々と泣いていた。


そして全員でクレマンの村に帰る。


美香とベル様は同じ馬に乗り何やら話している。


ソミュールとファルツは勇樹君から経口補水液を貰い

少し回復したようで、美香たちの後ろから、

目をキラキラさせながらベル様を見て

「すっげぇ、すっげえ。本物か?本物だよな」と

二人でワイワイしている。


勇樹君はミネルヴァ様を抱えながら馬に乗っている。

ボルドーが馬に乗り先行し勇樹君の馬の手綱を握っている。


「そういえば美香、いやジヴァニア。これをあんたにやるよ」

「年取ると物欲なんて無くなっちまって入れる物もありゃしない」

そう言うと、虹色の正方形の箱が付いたペンダントを美香に渡した。


美香は嬉しそうに「いいの!?いいの!?ありがとう!返さないからね!」

というと早速首にぶら下げた。


それを見ていたソミュールとファルツは

「みろ!すっげえ!虹色だ!すっげえ!」と大興奮だ。


「中に入れといたよ、あんたのバイクとタクト。後、あれだ。

 あんたがコミケに着ていった衣装を何着か。とりあえず色々と

 付与しといたからね」


美香はベル様のほっぺにキスをした。


「ねぇ、唯ちゃん・・・私上手くやれた?」と美香が言うと

ベル様は美香の頭をなでてウンウンと頷いた。


その間、勇樹君はずっと、ミネルヴァ様を抱きかかえ

時折話しかけそして笑い、涙を流す。


「そういえば、あんた、なんでそのままなんだ?」と

ベル様は私に聞いてきた。

・・・・美香に聞いてください。と答えた。


あれ?そういえばチルちゃんは?と私は美香に言うと

「あー。チルちゃんはシンの森で友達沢山出来て、だったらってことで

 解放してあげたわ。森で修行して将来強くなって

 私を助けてくれるらしいよ?」

と美香は笑いながら答えた。


行きと違って帰りはゆっくりと移動しているのですでに

夜になっていた。


どうするね、この辺で野宿するかい?

とベル様が提案し全員賛成した。


焚火を囲みながら


「しかし、昔と違って魔獣とかでないんだねぇ」とベル様が言うと

「いや、姐さん、ふつうにでるよ?」とウゾ。


ボルドーが

「この辺は俺らが見回って気配をビンビンさせているから

 でてこないんだわ。よっぽどの、そう、ほんまもんじゃない限りはね」


ソミュールは美香に「み~か~、血を少し吸わせろ~、魔力を

吸ったお返しだ~」と美香に言うと美香は


「仕方ないわね、少しよ。」とガブリとさせた。

ファルツはそれを見て俺にも権利があると言うと後ろに並んでいる。


「ウゾとか言ったかい。ご褒美だ、私のを飲ませてやる」と

笑いながらべル様。

「おお、まじか、んじゃ・・」と言いガブリとする所で

ボルドーに殴られた。


「あぶねえ!吸いすぎて酔っちまうとこだった!おいしぃぃぃぃぃ」と

美香の血を吸っていたソミュール。

「まじか!」とファルツ。「Aの5だ」と真顔でソミュール。


そして焚火を囲みながら笑いが出る。


私は思う。この人たちはみんないい人だ。




私はこれからも一緒に居ることが許されるだろうか。























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