第10話 立場の違い、見方の違い

「目元とかそっくりだねぇ、母様に」

その老婆が勇樹君を見ながらニヤニヤしてる。


勇樹君を囲んで10数人のご年配の方々がワイワイガヤガヤしている。

「いい男に育ったねぇ、あれだ、色男だ」と。


ソミュールは少し憮然としながら

「な、なんという・・・もう少し敬え!」


しかし勇樹君は婆さんたちと笑いながら話をしている。


「しかし生きててよかったよ・・・よかったねぇ・・」

ひとりの老婆がそう言うと、隣の老婆が


「それはもう地獄かと思ったよ。ミネルヴァと坊がここに居ると

 勘違いして青の国の兵士たちは火を放ったしねぇ・・・」


「まぁ確かにここはミネルヴァの生まれ故郷だけども、あの子が

 私達を巻き込むなんてするはずはないのにねぇ。・・・。

 でも巻き込んでもよかったんだけどねぇ・・」


「ここにはもう私たちの様なババァとジジィしかいない。

 若い連中はみ~んな青の国のでっかい街にいっちまった」


バ・・いや、ご老人たちはつぶやくように話をしていた。


「ここは、かあさ・・・いや、ミネルヴァさんの故郷なんですね」

勇樹君はそう言うと

「ミネルヴァさんってどんな人だったんですか?」と続けた。


老婆たちは口をそろえて

あの子は頭がよくて勉強ばっかりしてて、でもすごく元気で

いっつも走り回っていた・・・とか


味覚とかしらないんじゃないか?と言うくらいに食事は

雑だった・・・とか


魔法ではエアストで一番になるといっつも言ってた・・・とか。


「あの子の料理の下手さ加減は他の追従を許さないくらい

 エアスト1だねぇ」と一人の老婆がいい、そこに居た皆が

笑った。

勇樹君も「それはもう・・」と言いながら楽しく話していた。


1人の老婆が「そういえばミネルヴァはいないのかい?」

と言うと、少し沈黙が流れ・・・勇樹君は・・・


「ごめんなさい・・・・本当にごめんなさい・・」と

下を向き、泣き出してしまった。

「僕のせいでミネルヴァを殺してしまった・・・

 ごめんなさい・・・」


話してごらんなさい、と一人の老婆が言った。

勇樹君は経緯を話した。

すると一人の、いや全員が


「そうかいそうかい、ミネルヴァはいい働きを

 したんだねぇ・・・この街、いや、今は村か。

 これはもう村の自慢だねぇ」と頷きながら話した。


「泣いちゃだめさ、ミネルヴァが心配するだろうに。

 いいかい?坊。泣いちゃだめだ。お願いだからミネルヴァの

 為にも泣かないでおくれ」


「ところで今からどうするんだい?」とひとりのジジィが

問いかけた。


明後日にシンの森で母・・・ミネルヴァさんを向こうの世界から

転移させる事を伝え、もし可能ならばここに、ここで眠らせたいと

勇樹君は言った。


じゃあそうしようってことで宴はお開きになった。


そろそろみんな寝ようという所に美香が

「勇樹、ちょっといいかな」と語り掛け、勇樹が

頷くと話をつづけた。


明後日、私はシンの森で転移の魔方陣を作る。あちらでも

唯ちゃんが魔方陣を作り、魔方陣同士を直結させ、いわゆる

転移のトンネルを作る事になっている。

確実に私たちの所に届ける様に。でも若干不安があって

唯ちゃんが言うには、これは前代未聞なことで、もちろん

前例がない。


私は確実を期すために時間をかけて間違いのない様に

取り組みたい。その為に予定より早くシンの森に行き

魔方陣を余裕をもって作りたい。


勇樹はもう少しここに居てもいいので勇樹のバイクを貸してほしい

、そして出来れば、ソミュールを連れていきたいと言った。


勇樹は二つ返事をし、笑って答えた。


「もう寝るわ」と美香は言うと勇樹からもらった

アリナミンEXとOSー1を片手に就寝についた。


勇樹はもう少しこの辺を散歩して寝ると言って、なぜかウゾと

どこかへ行った。


私はボルドーの所へ行き

私は青の国で魔導士をしていて学者であると正直に答えた。

ボルドーは一言「聞こうか」といい焚火の所に座った。


私は青の国で見た事聞いたことをつつき隠さずに伝えた。

ボルドーは「そんなもんさ・・・」と言い続けて

「信じるも信じないもお前に任せるが・・・」と前置きをして

話をつづけた。


紫の国は人間の国でありながら亜人たちと同じ立場で接していた。

人間は生まれながらにして武器の加護と言うものを授かるが

亜人にはそんなものはなく、均等にどんな武器でも扱える。

もちろん得意なものはあるが、他が全く使えないという事はない。


しかし、人間、ヒューマンは加護と言うより「縛り」により

一つの武器しか使えない。それは何故か。

多くのヒューマンは神によって授かりし力ととらえるが・・・。


結論としてヒューマンは「悪」であり、それに対して神が

楔を打っているからではないかと。


これは亜人が言っていることではなく、紫の国の王、王女から

直接聞いた話である事。


ヒューマンは己の為に他を顧みず自分たちのためだけに森を開墾し

田畑を作り自分たちだけ豊かになろうとする。

そこに元々いた、そこに住んでいた亜人種のことなど考えもせずに。


あろうことか自分たちが勝手に作った、開墾した所にに亜人が現れたら

逆に「襲われた」といい、さらに討伐をしようと襲い掛かる。


見方を変えれば同じ行動でも全くもって違ってくる。


であるならば我々はこの地に生きる者たち全てと上下関係ではなく

同じエアストに住まう隣人として友好的に生きるべきだと。


ヒューマンが「悪」と見なされているのならば、なおさら我々は

ほかの亜人、種族に対して、排他的に「俺たちこそが」と

思うのではなく、そしてただ待つのではなく、進んでこちらから

歩み寄り、手を握る事こそが本当のヒューマンの道なのであると。



「だからこそ人間至上主義の青の国に目をつけられたんだよ」












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